金銀童話・王の金糸雀(二部) 11【R-15】
「そんなことを聞いて、どうするのだ?」
息遣いの荒くなった金糸雀の顔を覗いながら、商人の眉が緩くひそめられた。
「わたくしの・・・この姿を写した、自動人形があれば・・・あっ・・・」
心にもない作り話は、褐色の皮膚の上に甘く滑ってゆく。
まるで楽器をつま弾くように、異国の商人は銀色のカストラートを煽ってゆく。
伸ばした腕で首筋を抑え、拘束された駕籠の鳥の肌触りを楽しんでいた。
「あなたと一緒に東の国を見たいと言ったら、王さまはきっと、お怒りになるでしょう?」
「王さまはお妃さまよりも、わたくしの声に執着しているのです。」
「ですから、わたくしと同じ姿のオートマタを渡して、お願いすれば、国を出るのをお許し下さるのではないかしら。」
囚われのカストラートは、紫水晶のような瞳に溢れんばかりに涙を浮かべて、白いローブの下を行き交う指を押さえた。
「あなか・・・。どうか・・・お願いです。」
「わたくしを・・・自由にして・・・」
金の鳥籠は、ゆらゆらと静かに揺れていた。
商人は、自由になりたいと言う、囚われの金糸雀の言葉を信じ始めていたのだった。
彼は、真っ直ぐに商人に向けたまなざしを真実だと思っていた。
身体をつながずとも、伸ばした指を潤んだ場所は受け入れて、つつましく耐えて啼くカストラートに少しずつ惹かれていた。
彼は、最初に金の鳥籠に入れられた美しい金糸雀を見たとき、天上の天使が本当に地上に降りてきて、王さまに捕われたと思ったくらいだった。
一目で地上の天使に恋をし、熱いまなざしを注がずにはいられなかった。
そして今、長い逢瀬を重ね、恋は成就したかのように見えた。
「それとも・・・あなたは・・・あぁ・・・このようなまがい物の天使は嫌いですか?」
金色の鳥籠を叩き壊し、ささやく金糸雀を抱きしめられたなら・・・・。
そう思いながら、腕を伸ばす東の国の奴隷商人の胸いっぱいに、馥郁(ふくいく)と白いつる薔薇に似た金糸雀の芳しい香りが広がった。
大きく広げた白い羽根は、商人を包み込んで天上の楽園へと誘う。
哀しみの天使の歌う恋の歌は、自分の為だけに向けられていると商人は思っていた。
金糸雀は、昼間は滅多に表情を変えなかった。
王さまに乞われるまま歌うときも、表情は硬く声だけが自在だった。
でも夜になると、別人のように商人に向かって婉然と微笑み、背筋をくすぐる声で耳元で甘く囁くのだ。
商人はどれほど二人の身体の間にある、取り払えない金色の壁を呪っただろう。
毎夜のもどかしい思いは、金色の鳥籠に邪魔をされて、商人の激しい熱情は遂げられぬまま、ずっとくすぶっていた。
固く屹立した商人のものに、ぎこちなく指を伸ばす金糸雀と呼ばれるカストラートが愛おしくてたまらなくなっていた。
「もし、わたくしが人形になったら・・・、すぐに壊れてしまうのでしょうか・・・?」
ぜんまいが切れない限り、壊れるようなことはないと金糸雀に溺れながら商人は答えた。
特別な鋼は、長時間の磨耗以外に壊れないと、自信を持って告げたのだった。
夜陰からじっと、王さまの忠実な司令官が冷静に、二人の睦み合う様子を見つめていた。
「あなたは、わたくしよりもアレッシオ人形の方が、長く歌えると思っているのですか?」
「そうだな。あの人形に使った器械と鋼は特別製で、とても強いと聞いている。」
「内部に水でもかからない限り、錆びることも無いだろう。」
それを聞き、綺羅・・・と、金糸雀の瞳が輝いた・
「水・・・」
ついにアレッシオ人形の弱点を聞き出した金糸雀は、金の鳥籠に張り付き、商人が下肢を自由に触れるように百合の柵に身体を押しつけた。
ああ、金糸雀・・・と、商人は呟き、カストラートが扱き上げた商人の屹立は、やがてカストラートの掌にしとどに精を吐き出した。
商人の吐き出した精を、受け止めるとカストラートは愛おしそうに商人を見やり、両手を掲げて飲み下し、嫣然と微笑んで寄越した。
それを見た商人の顔は蕩けんばかりに上気して、ミケーレと小さく名を叫んだ。
王さまの忠実な司令官は、顔色も変えず冷ややかに様子をうかがっている。
司令官には、金糸雀の紡ぐ言葉が、一つの帰結に向かっているのに気が付いていた。
自動人形が長時間の磨耗と、水分によって、動かなくなると金糸雀は確かに商人から聞き出したのだった。
商人が異国の恋人の住む鳥籠から離れて自室に戻り、金糸雀がぐったりとブランコに身を委ねている側に近寄ると声をかけた。
「何を考えている?」
「慣れぬ色仕掛けは、やめるんだな。」
吐き出せない快感に、とろりと潤んだ目が向けられました。
「何をおっしゃって・・・いらっしゃるのです・・・?」
夜は商人との逢瀬を繰り返し、昼間は王さまの求めるまま歌う金糸雀は、傍目にも酷く疲れ果てていた。
王さまの忠実な司令官は、やせて小さくなった金糸雀を見つめた。
「そなたの知りたい注文主なら、もう調べはついている。」
「え・・・?」
「歌うアレッシオ人形の、注文主だ。」
ゆっくりと、その名前は金糸雀の震える心臓に、鋭い爪を立てて掴んだ。
「誰なのです?」
金糸雀は、ゆらりと立ち上がり、柵の側に寄った。
早鐘のように胸が騒ぎ、血が下りてきて蒼白になってゆくのがわかる。
「そなたには、とても懐かしい名前だろうよ。」
「そなたの父王、湖のDi genes ディオヘネス 王は、密かに潜伏先で生きていたようだ。」
金糸雀の傾けた蒼白の頬に、はらりと銀の糸束が落ちた。
予期していたとはいえ、全ての元凶でもあるその名を、聞きたくはなかった。
「あの死にぞこないは、我が国の軍隊の猛攻の及ばぬ場所で、じっと好機を覗っていたということだろう。」
「恐らく、どこかでアレッシオ殿下の姿を写した焼き絵を手に入れ、人形師に細工をさせたのだろうな。」
狡猾で残忍な湖の王なら思いつきそうなことだ・・・と王さまの忠実な司令官は言葉を続けた。
「お后さまのこよなく愛する弟御を、騙し討ちにした後も、ディオヘネス 王の作戦は続いていたということだ。」
ふいに、金糸雀の口元から乾いた笑い声が、くくっ・・・とこぼれた。
予想外の反応に、王さまの忠実な司令官は気がふれたかと驚いて、金糸雀を見つめた。
「・・・あははぁっ・・・どこまであの人は、息子を苦しめたら気が済むのだろう・・・あははっ・・・」
「・・・あぁ・・・あの人は、捕虜になった息子の事など考えたこともないんでしょうよ・・・あははっ・・」
大きく身体を揺らして引きつるように高く笑った後、金糸雀は悲しげな目を彷徨わせると、鳥籠の中にぱたりと倒れこんでしまった。
(´;ω;`) 頑張ったけど、セクスィここまでどまりだった。
だって、金糸雀ったら駕籠(かご)の中なんだもの・・・←入れといて。
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。期待させといて、ごめんよぉ~
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