最愛アンドロイドＡＵ １
ロボット工学の分野では、一応かなりの有名人らしい兄の音矢（おとや）が、アメリカから電話をしてきた。
向こうで結婚式を挙げて以来、ずいぶん長いこと帰国もせず顔も見ていない。
仕事が忙しいと言う触れ込みだったが、かなり秘密裏なことにも関わっているようで、産業スパイの接触を恐れて、プロジェクトが完了するまで国外に出して貰えないと言うのが真相らしい。
まあ、製薬関係でもそういう話は良く聞くから、身内にも漏らしてはいけない機密事項があるということなんだろう。
「はい。秋月です。」
「ああ、音羽（おとわ）か？親父が入院して以来、お袋が付きっきりになっちまって、おまえも大変だろう？まかせっきりですまんな。」
「お袋は親父とゆっくりできるって、何だか機嫌良いぞ。入院と言っても、賄い付の施設だからさ、介護付きホテルみたいなもんだ。心配はいらないよ。最近は痴呆に効く薬もあるからね。」
「そうか……。実は電話の本題は別なんだ。今度、うちの社でお手伝いロボットを開発したんだが、音羽がモニターをやってくれないかと思ってね。」
「お手伝いロボットのモニター？それはまた、笑えるくらい前時代的な名前をつけたものだな。あいにく一人暮らしにも大分慣れたから、お手伝いさんは必要ないよ。」
「家政婦さん来ていただろう？俺等がガキの頃から住み込みの……南さんだっけ…？」
「うん。南さんは、腰を痛めてしばらく休みなんだ。今は、娘さんの所に居るよ。」
「もう歳だからなぁ……。で、モニターなんだが、精密機械だから多少理系の知識のある奴が良いという事になってね。引き受けてくれると、個人的に助かる。まだ試験中で、モニターも一般公募できないんだ。」
確かに、ロボットともなると、気軽に一般家庭でモニターというのは難しいんだろう。おれの脳内には、最近時々テレビで出てくる、どこか可愛らしいアシモや機械の塊のような介護ロボットが浮かんでいた。
「まあ、別に飯を食う訳でもないし、多少のデータを取るくらい何だろう？良いよ。引き受ける。お手伝いって言うからには、多少の家事もできるんだろう？」
電話の向こうで、誰かと華やいだ会話を交わす兄貴の声が弾んだ。
「良かった。実は、引き受けてくれると思ったんで、本日付で届くようにしてある。家事は多少どころか、全般出来るはずだ。しかもオプション付きだから、楽しめると思うよ。」
「オプションだ……？おい。言っておくけどセクスドールは必要ないからな。それほど不自由していない。」
「ば～か。お前の趣味は、昔から分かってるよ。まあ、とにかく頼むよ。何かあったら、真夜中でもいから直通電話に頼む。開発担当者が直接電話を取る手はずになってるから。」
分かったと返事をするのと同時に、玄関のチャイムが来客を告げた。
「秋月音羽さん～！航空便のお荷物です。ハンコお願いします～！」
「すごいな。出来すぎたタイミングの良さだ。来たぞ。」
＊＊＊＊＊＊＊
厳重に梱包されたお手伝いロボットは、こうして外科医、秋月音羽のところにやってきた。
がっしりとした木箱を開封すると、今度は何重にも段ボールが層になり、隙間には発砲スチロールの細かな粒が詰め込まれ辺りに乾いた音を立ててこぼれた。
雛人形を包むような、上品な薄紙でくるまれてお手伝いロボットは、まるでエジプトの哀しみの王子のように腕を軽く交差して眠っていた。
「アンドロイド」という言葉を最初に用いたフランスの文学者ってなんという名前だっけ……と、どうでもいいことを考える。
意味なく金髪碧眼のロボットは、紛れもなく兄貴の趣味だ。
ボッチチェルリのヴィーナスのごとき、蜂蜜色の長い髪で身体を覆い、長い睫をけぶらせて静かに眠るお手伝いロボットは王子のキスを待っている。
分厚い説明書が、ごとりと落ちた。世界で一番美しい死体と評判になった映画の場面のごとく、美貌のお手伝いロボットは箱から取り出されて寝台に置かれた。視線の先にあるものを見て、音羽は思わず天を仰いだ。
「兄貴のばか……。」
普通、メイドロボットって女性型だろう？
儚い美貌のヴィーナスの股間には、見たことのあるものがふるりと揺れていた。
「理性持つかな、おれ。」
セクスドールどころか、これじゃ理性が持つかどうか、たまったもんじゃない。
音羽の隠してきたはずの「萌えポイント」に集中砲火を浴びせて、美貌のお手伝いロボットは降臨した。
(｀・ω・´)「正真正銘の現代ものです！ラストだけは決まっていますので、猫まっしぐらにがんばります！」
( ﾟдﾟ ) ｼﾞーｯ 「でも、このちんだからなぁ……油断すると切腹とかさせそうだ。」←世間の声
( *｀ω´) 「む～……くそぉ……」←反論できない。
向こうで結婚式を挙げて以来、ずいぶん長いこと帰国もせず顔も見ていない。
仕事が忙しいと言う触れ込みだったが、かなり秘密裏なことにも関わっているようで、産業スパイの接触を恐れて、プロジェクトが完了するまで国外に出して貰えないと言うのが真相らしい。
まあ、製薬関係でもそういう話は良く聞くから、身内にも漏らしてはいけない機密事項があるということなんだろう。
「はい。秋月です。」
「ああ、音羽（おとわ）か？親父が入院して以来、お袋が付きっきりになっちまって、おまえも大変だろう？まかせっきりですまんな。」
「お袋は親父とゆっくりできるって、何だか機嫌良いぞ。入院と言っても、賄い付の施設だからさ、介護付きホテルみたいなもんだ。心配はいらないよ。最近は痴呆に効く薬もあるからね。」
「そうか……。実は電話の本題は別なんだ。今度、うちの社でお手伝いロボットを開発したんだが、音羽がモニターをやってくれないかと思ってね。」
「お手伝いロボットのモニター？それはまた、笑えるくらい前時代的な名前をつけたものだな。あいにく一人暮らしにも大分慣れたから、お手伝いさんは必要ないよ。」
「家政婦さん来ていただろう？俺等がガキの頃から住み込みの……南さんだっけ…？」
「うん。南さんは、腰を痛めてしばらく休みなんだ。今は、娘さんの所に居るよ。」
「もう歳だからなぁ……。で、モニターなんだが、精密機械だから多少理系の知識のある奴が良いという事になってね。引き受けてくれると、個人的に助かる。まだ試験中で、モニターも一般公募できないんだ。」
確かに、ロボットともなると、気軽に一般家庭でモニターというのは難しいんだろう。おれの脳内には、最近時々テレビで出てくる、どこか可愛らしいアシモや機械の塊のような介護ロボットが浮かんでいた。
「まあ、別に飯を食う訳でもないし、多少のデータを取るくらい何だろう？良いよ。引き受ける。お手伝いって言うからには、多少の家事もできるんだろう？」
電話の向こうで、誰かと華やいだ会話を交わす兄貴の声が弾んだ。
「良かった。実は、引き受けてくれると思ったんで、本日付で届くようにしてある。家事は多少どころか、全般出来るはずだ。しかもオプション付きだから、楽しめると思うよ。」
「オプションだ……？おい。言っておくけどセクスドールは必要ないからな。それほど不自由していない。」
「ば～か。お前の趣味は、昔から分かってるよ。まあ、とにかく頼むよ。何かあったら、真夜中でもいから直通電話に頼む。開発担当者が直接電話を取る手はずになってるから。」
分かったと返事をするのと同時に、玄関のチャイムが来客を告げた。
「秋月音羽さん～！航空便のお荷物です。ハンコお願いします～！」
「すごいな。出来すぎたタイミングの良さだ。来たぞ。」
＊＊＊＊＊＊＊
厳重に梱包されたお手伝いロボットは、こうして外科医、秋月音羽のところにやってきた。
がっしりとした木箱を開封すると、今度は何重にも段ボールが層になり、隙間には発砲スチロールの細かな粒が詰め込まれ辺りに乾いた音を立ててこぼれた。
雛人形を包むような、上品な薄紙でくるまれてお手伝いロボットは、まるでエジプトの哀しみの王子のように腕を軽く交差して眠っていた。
「アンドロイド」という言葉を最初に用いたフランスの文学者ってなんという名前だっけ……と、どうでもいいことを考える。
意味なく金髪碧眼のロボットは、紛れもなく兄貴の趣味だ。
ボッチチェルリのヴィーナスのごとき、蜂蜜色の長い髪で身体を覆い、長い睫をけぶらせて静かに眠るお手伝いロボットは王子のキスを待っている。
分厚い説明書が、ごとりと落ちた。世界で一番美しい死体と評判になった映画の場面のごとく、美貌のお手伝いロボットは箱から取り出されて寝台に置かれた。視線の先にあるものを見て、音羽は思わず天を仰いだ。
「兄貴のばか……。」
普通、メイドロボットって女性型だろう？
儚い美貌のヴィーナスの股間には、見たことのあるものがふるりと揺れていた。
「理性持つかな、おれ。」
セクスドールどころか、これじゃ理性が持つかどうか、たまったもんじゃない。
音羽の隠してきたはずの「萌えポイント」に集中砲火を浴びせて、美貌のお手伝いロボットは降臨した。
(｀・ω・´)「正真正銘の現代ものです！ラストだけは決まっていますので、猫まっしぐらにがんばります！」
( ﾟдﾟ ) ｼﾞーｯ 「でも、このちんだからなぁ……油断すると切腹とかさせそうだ。」←世間の声
( *｀ω´) 「む～……くそぉ……」←反論できない。
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