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花菱楼の緋桜 16 

花魁は「心」の形に結んだ帯を解く。

真(まこと)を解(ほど)き、全てを晒す。
廓の奥深くで暮らし、陽に当たらないきめ細やかな北国の餅肌は、吸い付くように磯良を煽った。

首から下の身体中の毛を剃刀と火打石で落とし、無垢な白い肌に紅色の乳暈と幼さを残した性器が飾りのように目を引いた。
廓の化粧師によって、緋桜の目元と同じように滑らかな若い茎も紅で華やかに染められていた。
そっと触れたら全身が、掬った川魚のように煌めいてぴくりとはねた。

「そこを触らずに、口を吸ってくんなまし……主さん。磯良さんだけが、ずっと昔からわっちの地色(本当の恋人)でありんす。」

「可愛い、綺麗な安曇坊。わたしも、ずっと会いたかった……。」

「わっちも……。磯良さん、一日千秋の思いでござんした。」

安曇と呼ばれた緋桜は、胸に顔を埋めると鼻を擦り付けた。
濡れない最奥に習い覚えた仕草で、緋桜はそっと磯良に気取られないよう丁子油を塗り込めてゆく。「わっち」と自分のことを言いながら、懐かしく「磯良さん」と呼ぶ声はあの小さな安曇のものだ。

安曇の声は、大人になっても余り低くならなかったらしい。
磯良は安曇と緋桜、子供と大人、二人を同時に相手しているような、不思議な錯覚に囚われていた。磯良の猛った雄芯を扱いて口に含みながら、汗の流れた背は昔のように華奢なままだった。ふと視線が絡むと、嬉しげに目が細くなり、涙が頬を転がってゆく。
思わず、無理をするなと声を掛けたくなる磯良だった。

「……お嫁さんも居ないでは、磯良さんのこの子が可哀想でありんすぇ。」

緋桜は磯良が独り身なのを知り、そんな戯言を言った。二度の吐精の後、再び芯の入りかけたものを指でつまんで揺らし、楽しそうにしている。性愛を生業とし、抱かれることに慣れたはずの緋桜の仕草も、磯良にはどこか幼く思えて愛おしかった。

「打ち明けるとね。わたしは、いつか安曇が帰ってきたら一緒に暮らすつもりだったんだ。」

「ほんとう……?磯良さん。」

「緋桜花魁。おまえの年季が開けるまで待っていてもいいかい?」

背後から挿れたまま、そっと抱き上げ腰を搖すった。

「ああ、嬉しい……。磯良さん、磯良さん……。」

甘くこぼれた喘ぎは安曇のものか、緋桜のものか、どちらも愛おしいと背中にくんと鼻を寄せた。

「安曇も磯良さんの所に早く帰りたかった。磯良さん……ああ、いっとう、好き。」

肌を合わせてじっと懐に抱いていたら、緋桜は小さく咳き込み、微かに雑音が聞こえた気がする。

「安曇。少し熱があるんじゃないか?大丈夫か?」

白すぎる肌に青く浮いた血管が、見えない縄目となって楼閣に緋桜を繋ぐ。

こんこん……と、背中を丸めて小さくむせた緋桜の身体はどこか熱っぽく、磯良を不安にさせた。

「安曇。その咳は風邪ではないようだが、胸が痛んだりはしていないか?」

「あい……。……平気でございんす。磯良さんと会えたから、きっと風邪なんてすぐに治るよ。」

「そうか。風邪なら良かった。安曇は冷たい雪解け水の中で魚を獲っても風邪をひかなかったが、緋桜さんは儚げだから心配だなぁ。」

「磯良さんたら。どっちも、同じでありんす……だよ。」

腕を伸ばした安曇が、消え入りそうな美しい笑顔を向けた。




(o・_・)ノ”(´・ω・`) 磯良 緋桜:「本当にハピエンかなぁ……何か、ちょっと不安。」

(`・ω・´) 此花「だいじょぶでっす!」


本日もお読みいただきありがとうございます。
あと一話で終わります。よろしくお願いします。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶

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