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花菱楼の緋桜 5 

「おや、できたのかい?可愛らしいこしらえだね。市松人形のようだ。」

「あい。髪結いさんに綺麗にしていただきんした。」

「赤い着物は初めてかい?」

「……あい。紅もお振袖も初めてでありんす……。」

「その大振袖は、兄さんが禿の時に来ていた物だよ。緋桜の方が色が白いから良く似合う。」

緋桜は嬉しげに頬を染めた。素直に清潔な下着や着物がうれしかった。

*****

男が身売りをすると言えば、誰でも役者の卵が勤める陰間を思い浮かべると思う。だが花菱楼は、陰間上がりの楼閣主がいろいろ工夫を凝らして、体裁は吉原風の高級娼館のようになっている。

緋桜がなった禿(かむろ)も普通は花魁の身の回りの世話をする10歳前後の少女の事で、何も知らない無垢なおぼこと決まっていた。何も知らない少年を禿から仕込み、超一流の花魁に育てるのを楼閣主は何よりも楽しみにしていた。女でもなく男でもない中間の性が、爛漫と咲き零れて花菱楼を贔屓にする者は通人、粋人として名をあげた。政府要人も含む上客ばかりの花菱楼は、帝都で隆盛を極めていた。

花菱楼にも、女郎屋と同じように女衒はいた。女衒と呼ばれる男衆が全国を飛び回って、見た目ばかりの器量ではない、花魁の才覚の種を秘めたものを探し出す。その嗅覚も、女衒の一種の才能だった。安曇という名前だったころ、母の情夫の女衒、銀二に目を付けられたのも、緋桜の運命だったかもしれない。

禿から花魁見習いの振袖新造になる頃、彼らは閨房での技を教えられる。
きつく締めた腿の間に、主様と呼ぶお相手の一物を挟んでこすりあげ、手練れの花魁は自分の最奥を使うことなく、何度も男を達かせる。
両手でないと持てないくらいの、凶暴な巨根はまだ芯の通らぬうちに入れてほしいとねだる。束の間の逢瀬に、最上の悦楽を与える娼妓の手練手管は、男を惑わす方便と言う名の嘘となる。
そうした手練手管を自在に操る青海花魁は、文字通り花菱楼の大看板だった。

「緋桜。せっかくの拵えを解くのは惜しいだろうけど、楼閣主さまにご挨拶がすんだら湯屋へお行き。」

「……?」

「おっきな目だねぇ……、こいつぁ目千両だね、緋桜。その大きな眼(まなこ)で大事なものを決して見落とすんじゃないよ。」

「兄さん……?」

「ほら、話は終いだ。行ったり、行ったり。」

******

湯船につかった緋桜は、ゆっくりと数を数えていた。

「ひの、ふの、み~……」

ぶくぶくと、湯船に沈んだら滲んだ涙は湯に消えた。
落ち着いてみると心の中に浮かぶのは、磯良と交わした約束ばかりだった。
初めて口を吸われ、優しく胸に抱かれた。磯良の鼓動が聞こえるほど、傍に寄ったのも初めてだった。綺麗に磨かれた爪先を見つめながら、一人ごちた。

「磯良さん。どうしているかなぁ……。磯良さんも、安曇の事を思い出しているかなぁ。」

「ぼくね、緋桜という名前になったんだよ。緋寒桜から取ったんだよ。」

『安曇。大人になったらきっと迎えに行く。』

(磯良さん……それはいつ……?)

……からり、と誰かが湯殿の戸を開けた。

「坊が、青海花魁についた新参の禿かい?」

「あい……。緋桜でありんす。」

「廓詞を(くるわことば)、もうちゃんと話せるのか。利口な坊だな。」

「こちらに参って、なるべく早く使えるようにと、道中で女衒の銀二さんに教えていただきんした。」

「ああ。あの男か。用意のいい事だな。」

下帯一つの男衆が、入ってくると内から鍵を掛けるのをいぶかしげに緋桜は眺めていた。
向けられた顔は、花魁の兄さん方の綺麗な花のようなものとは違い、きりりと涼しい目元の美丈夫だった。

「緋桜。ちゃんと身体の芯まであったまったかい?」

「あい。」

下帯を付けたままの青年は、浅木(あさぎ)という番頭新造だった。ざぶりと緋桜の浸かっている湯船に入ってきて、緋桜は思わず縁へと身を避けた。






(。'-')  緋桜:「?……この人は、誰なんだろう……?」

(ΦωΦ) 浅木:「さあ、お兄さんが色々教えてあげようねぇ。」

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いよいよ、検めが始まります。
……さすがに、書いててちょっとかわいそうに……■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ




今日もお読みいただきありがとうございました。 此花咲耶


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