夏の秘めごと 3
しかし善戦虚しく、初出場の禎克の高校は、結局一回戦で惜敗する。
高さの前に、あえなく無名校は屈した。
初出場校ながら、一時は二点リードするところまで相手を追い詰めたが、地力に勝る相手校が結局逃げ切った。少ない攻撃の最中、最後の笛と共にアリウープを狙ったボールは、点々と虚しくフロアを転がった。
「68対62 勝者、斎条工科大付属高校。」
「礼っ!」
「……したっ!(ありがとうございました!)」
「あっ、金剛っ!」
体力の限界まで、相手を揺さぶり続けた禎克は朦朧とした意識のまま最後の挨拶をすると、そのまま倒れ込み、周りを慌てさせた。
「体力ぎりぎりまで頑張ったんだなぁ、金剛。」
上谷の背に乗せられて退場する時、会場内から拍手が起きた。それほど禎克のプレイは粗削りながら真摯で、観客にとっても懸命なプレイは魅力的だったという事なのだろう。
背中の禎克に上谷は声を掛けた。
「なぁ、金剛。ここでもっと長くやりたかったな……。」
「来年、また来ような。」
*****
すぐに気が付いて、上谷の背から降り立った禎克は、意気消沈していた。キャプテンの代わりに出場したのに、何もできなかったような気がする。
代わりを務めるどころか封じ込まれて、結局思い通りに動けなかった。
控室で、顔を伏せた禎克は、肩を震わせていた。
「す……すみません。思うようにパスが通らなくて……上谷先輩が、思ったように投げろって言ってくれたのに……。どうしても、遅れてしまって……負けたのは、ぼくのせい……です。」
「馬鹿。金剛は十分良くやったよ。お前の早いパスに十分応えられなかった、おれ等の方が悪いんだって。」
「そうだよ。サダのおかげで、おれ等が次やることが見つかった。帰ったら練習しようぜ。何かさ、お前がふらふらになっても、試合投げなかったの見てたら、先輩の俺らはすげぇ申し訳ないって言うかさ~。不甲斐ない先輩でごめんなって気持ちよ。」
「もっと、脚力付けてパスコースに走り込めるようにするからな。」
「……っ先輩……っ。」
零れてくる熱いものを拳でぬぐった。
「三年生のインハイは終わったが、おまえらには12月にウインターカップがある。まだまだ終わりじゃないぞ、金剛。」
「もう一回、ここに戻って来るぞ。」
「はい。」
*****
控室から出た禎克のチームを、先ほどの対戦チームが追って来た。
「あ……。」
「おい、そこのぴ~ちゃんに話がある。」
「ぴ~ちゃんって、なんなんですか……。」
むっとして、冷ややかな視線だけを送る。
試合では、二メートルオーバーの三年生が相手で、完全に封じ込められてボールを支配できなかった。実力の無さを再び指摘されるのかと思うと悔しくて、やっと止まった涙が再びにじみそうになるのを耐えた。
「うちの金剛に……何か用ですか?」
上谷彩(かみやひかる)がずいと、間に割って入った。
「そうすごむなって。」
「緒戦からこんなに手こずると思わなかったよ。ウインターカップでもう一度やろう。そう言いたかった。」
「それまでに、もっと筋肉付けて来いよ。」
「いい一年が入ったな。」
キャプテンに向かって、相手チームのキャプテンがそう声を掛けた。禎克にも笑顔を向けた。
「うちの方が歴史がある分、枚数が多かっただけだと思う。今日の試合はどう転ぶか最後まで分からなかった。そっちにもう一人交代要員がいたら、どうなっていたかと思うよ。」
「……負けは負けです。ぼくは何もできなかった。」
「いいねぇ!この負けん気の強さ。なぁ、お前。おれ等が何処まで勝ち上がるか見て帰れよ。」
「お断りします。直ぐに練習が有りますから。次は負けません。」
「良い根性だなぁ。又やろうな。」
「はい。必ず。」
相手は笑うと人懐っこい顔になった。試合後は普通の高校生の顔になって、彼らはまたなと手を振った。
「またな、ぴ~ちゃん。」
「う~。」
( *`ω´) 禎克 「ぴ~ちゃん言うな~!」
同じユニホームで、ちび絵のさあちゃんです。ありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪
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高さの前に、あえなく無名校は屈した。
初出場校ながら、一時は二点リードするところまで相手を追い詰めたが、地力に勝る相手校が結局逃げ切った。少ない攻撃の最中、最後の笛と共にアリウープを狙ったボールは、点々と虚しくフロアを転がった。
「68対62 勝者、斎条工科大付属高校。」
「礼っ!」
「……したっ!(ありがとうございました!)」
「あっ、金剛っ!」
体力の限界まで、相手を揺さぶり続けた禎克は朦朧とした意識のまま最後の挨拶をすると、そのまま倒れ込み、周りを慌てさせた。
「体力ぎりぎりまで頑張ったんだなぁ、金剛。」
上谷の背に乗せられて退場する時、会場内から拍手が起きた。それほど禎克のプレイは粗削りながら真摯で、観客にとっても懸命なプレイは魅力的だったという事なのだろう。
背中の禎克に上谷は声を掛けた。
「なぁ、金剛。ここでもっと長くやりたかったな……。」
「来年、また来ような。」
*****
すぐに気が付いて、上谷の背から降り立った禎克は、意気消沈していた。キャプテンの代わりに出場したのに、何もできなかったような気がする。
代わりを務めるどころか封じ込まれて、結局思い通りに動けなかった。
控室で、顔を伏せた禎克は、肩を震わせていた。
「す……すみません。思うようにパスが通らなくて……上谷先輩が、思ったように投げろって言ってくれたのに……。どうしても、遅れてしまって……負けたのは、ぼくのせい……です。」
「馬鹿。金剛は十分良くやったよ。お前の早いパスに十分応えられなかった、おれ等の方が悪いんだって。」
「そうだよ。サダのおかげで、おれ等が次やることが見つかった。帰ったら練習しようぜ。何かさ、お前がふらふらになっても、試合投げなかったの見てたら、先輩の俺らはすげぇ申し訳ないって言うかさ~。不甲斐ない先輩でごめんなって気持ちよ。」
「もっと、脚力付けてパスコースに走り込めるようにするからな。」
「……っ先輩……っ。」
零れてくる熱いものを拳でぬぐった。
「三年生のインハイは終わったが、おまえらには12月にウインターカップがある。まだまだ終わりじゃないぞ、金剛。」
「もう一回、ここに戻って来るぞ。」
「はい。」
*****
控室から出た禎克のチームを、先ほどの対戦チームが追って来た。
「あ……。」
「おい、そこのぴ~ちゃんに話がある。」
「ぴ~ちゃんって、なんなんですか……。」
むっとして、冷ややかな視線だけを送る。
試合では、二メートルオーバーの三年生が相手で、完全に封じ込められてボールを支配できなかった。実力の無さを再び指摘されるのかと思うと悔しくて、やっと止まった涙が再びにじみそうになるのを耐えた。
「うちの金剛に……何か用ですか?」
上谷彩(かみやひかる)がずいと、間に割って入った。
「そうすごむなって。」
「緒戦からこんなに手こずると思わなかったよ。ウインターカップでもう一度やろう。そう言いたかった。」
「それまでに、もっと筋肉付けて来いよ。」
「いい一年が入ったな。」
キャプテンに向かって、相手チームのキャプテンがそう声を掛けた。禎克にも笑顔を向けた。
「うちの方が歴史がある分、枚数が多かっただけだと思う。今日の試合はどう転ぶか最後まで分からなかった。そっちにもう一人交代要員がいたら、どうなっていたかと思うよ。」
「……負けは負けです。ぼくは何もできなかった。」
「いいねぇ!この負けん気の強さ。なぁ、お前。おれ等が何処まで勝ち上がるか見て帰れよ。」
「お断りします。直ぐに練習が有りますから。次は負けません。」
「良い根性だなぁ。又やろうな。」
「はい。必ず。」
相手は笑うと人懐っこい顔になった。試合後は普通の高校生の顔になって、彼らはまたなと手を振った。
「またな、ぴ~ちゃん。」
「う~。」
( *`ω´) 禎克 「ぴ~ちゃん言うな~!」
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