夏の秘めごと 5
「う……わっ!」
「そこで何やってんの?」
集合場所になかなか戻って来ないのに業を煮やし、二年生のマネージャーが禎克を探しに来た。
「お前……なんだ、真っ赤じゃないか。熱でも出たか?」
「ち、違いますっ。これは、あのっ……あのっ。」
ひょいと控室から顔をのぞかせた上谷が、慌てふためく禎克を見て、何かを察したのか、くすり……と笑った。上谷の目元が紅いのは、きっとさっき泣いていたせいだろう。
「もう、集合時間か。俺が柄にもなく、センチになって泣けて来たんで、金剛が声を掛けそびれたみたいだな。すまんな、金剛。待たせた。」
「いえっ。か……か……っ、かみ……。」
「どもるな。滑舌悪い芸人かっつ~の。あ、先輩、遠慮なく肩につかまってください。荷物持ちのぴ~ちゃんが来ましたから。」
「ぴ~ちゃん定着は、いやです~……。」
すれ違いざま、上谷は禎克にだけ聞こえるように小さな声で「他言無用」と、囁いた。
無言でぶんぶんと上下に頭を振った。
こんなこと、誰に言えるはずもない。
*****
帰りのバスに乗り込み、携帯を開くと大二郎からメールが来ていた。
「あ。」
『さあちゃん、お疲れさま。試合はどうだった?劇団醍醐は、次の興行先が決まりました。小さなところだけど、おれに来ないかって声を掛けてくれました。ありがたいです。また、知らせます。」
どこへ行くのかも書いていない、用件だけの短いメールに脱力する。まだ、あのホテルにいるはずだから、帰り道に寄ってみようと思う。取りあえず、『残念ながら一回戦敗退、これから帰ります。帰りに寄るね。』とだけ入れて送った。
ほんの数日前なのに、大二郎と話をしたのはひどく昔の事のような気がする。
「またって、何だよ。今、知らせろよ、もう~。」
小さくごちたら、乗りこんで来て横にどんと腰を下ろした上谷が、意味深な笑顔を向けた。
「なぁ。嬉しそうだな。それ、例の幼馴染からのメールか?」
「そうです。……というか、あの。隣に座らなくても、前の席が空いてますけど……。」
大型バスの座席でも、長身の二人が並んで座るとさすがに狭い。二、三年生は一人ずつ坐っていた。
「うん。金剛と、いろいろ話がしたくてな。」
「話?なんですか……。」
上谷と何を話せばいいかわからない。正直、どんな顔をすればいいか途方に暮れていた。
「う~ん、そうじゃないな……、聞きたかったんだ。」
「何をですか?」
「もう、やった?」
「やった……って、何をですか?」
禎克は同じフレーズを繰り返した。
「セクス。」
「うわ~~~!!」
耳元に告げられた単語に、思わず動転する。
思わず発した素っ頓狂な声が、盛大に裏返った。
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上谷先輩に、翻弄されているさあちゃんです。
(´・ω・`) これから、大変よ……。
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