流れる雲の果て……17
くすん……と、背後で洟をすする音が聞こえた。
「美千緒さん。痩せてるね。」
「そうだね。昔から食べても太らない性質なんだよ。貧相で嫌なんだけど、仕方ないね。」
美千緒は、結局大二郎に後始末を任せて、そのまま布団に包まった。
「大ちゃんは、もう劇団に戻った方が良いよ。遅くなったら明日の打ち合わせに間に合わなくなるだろう?」
「でも……美千緒さんが心配だもの。」
「今日は、ぼくはここでこのまま眠るから、明日又会おうね。起こしてあげられないけど、学校は遅れずに行くんだよ。」
「……美千緒さん。」
「そんな顔しないの。先生は聞き分けのいい子が好きだよ。」
「傍に居ちゃいけないの?」
「劇団を背負うような役者になるんでしょう?昔っから、役者は親の死に目にも会えないって言うよ。その位、舞台が大切にするってことだね。それにね、大ちゃんは寝相が悪いでしょう?おふとんをはぐ度、気になって眠れないよ。」
「……そっか。おれがいると、美千緒さんがゆっくり眠れないんだ。」
「違うよ。そうじゃなくてね、可愛いおへそが見えたら、悪戯したくなって困るから、一人でゆっくり眠るよ。朝ご飯、食べに行くから。」
「ほんと?」
「指切りしようか?」
「そんな子供じゃない。約束のキスして。」
青ざめた顔で笑顔を作ろうとする美千緒の頬に、一つキスを贈って大二郎は一緒に居るのを諦めた。
*****
階段を下りながら何度か振り返ったが、アパートの薄い扉があくことはなかった。
階段を降りたところで、待っていたらしい背の高い男と対峙した。
美千緒は大二郎のファンだろうと言ったが、そういう雰囲気ではなかった。
「……君。ちょっといいかな。」
「なんですか?」
男が決して上にいけないように、意識して身構えた。長身の男に合わせて一つ階段を昇り、背にする。
「君が今出てきた部屋にいるのは、尾関美千緒さんかな?」
「あなたは?」
「尾関美千緒の古い知り合いで、松井と言います。」
「ずっと美千緒を探していたんだ。逢わせてくれないか?」
大二郎は訝しげな目を向けた。先ほど声を掛けて来た時、美千緒は気が付いたはずだ。でも、あえて気が付かないふりをした。
……という事は、きっと会いたくない相手なのに違いない、と見当をつけた。
「美千緒さんは、今少し具合が悪くなって眠っているから、起こさない方が良いと思います。」
「そう……。一人で大丈夫なのかな。」
大二郎は相手の顔をじっと見つめた。……誰かに似ていると思った。
雲の切れ間から強い月の光が射して、男の顔がはっきりと見えた時、大二郎は理解した。
男は、柏木醍醐に似ている。
美千緒を探しに来た男は、一体何を語るのでしょうか……。
(´・ω・`) 大二郎「なんか、いやな予感~」
本日もお読みいただきありがとうございます。
美千緒の過去話が始まります。
過去作品の一気読みしてくださった方、たくさんの拍手をありがとうございました。
励みになります。(*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
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「美千緒さん。痩せてるね。」
「そうだね。昔から食べても太らない性質なんだよ。貧相で嫌なんだけど、仕方ないね。」
美千緒は、結局大二郎に後始末を任せて、そのまま布団に包まった。
「大ちゃんは、もう劇団に戻った方が良いよ。遅くなったら明日の打ち合わせに間に合わなくなるだろう?」
「でも……美千緒さんが心配だもの。」
「今日は、ぼくはここでこのまま眠るから、明日又会おうね。起こしてあげられないけど、学校は遅れずに行くんだよ。」
「……美千緒さん。」
「そんな顔しないの。先生は聞き分けのいい子が好きだよ。」
「傍に居ちゃいけないの?」
「劇団を背負うような役者になるんでしょう?昔っから、役者は親の死に目にも会えないって言うよ。その位、舞台が大切にするってことだね。それにね、大ちゃんは寝相が悪いでしょう?おふとんをはぐ度、気になって眠れないよ。」
「……そっか。おれがいると、美千緒さんがゆっくり眠れないんだ。」
「違うよ。そうじゃなくてね、可愛いおへそが見えたら、悪戯したくなって困るから、一人でゆっくり眠るよ。朝ご飯、食べに行くから。」
「ほんと?」
「指切りしようか?」
「そんな子供じゃない。約束のキスして。」
青ざめた顔で笑顔を作ろうとする美千緒の頬に、一つキスを贈って大二郎は一緒に居るのを諦めた。
*****
階段を下りながら何度か振り返ったが、アパートの薄い扉があくことはなかった。
階段を降りたところで、待っていたらしい背の高い男と対峙した。
美千緒は大二郎のファンだろうと言ったが、そういう雰囲気ではなかった。
「……君。ちょっといいかな。」
「なんですか?」
男が決して上にいけないように、意識して身構えた。長身の男に合わせて一つ階段を昇り、背にする。
「君が今出てきた部屋にいるのは、尾関美千緒さんかな?」
「あなたは?」
「尾関美千緒の古い知り合いで、松井と言います。」
「ずっと美千緒を探していたんだ。逢わせてくれないか?」
大二郎は訝しげな目を向けた。先ほど声を掛けて来た時、美千緒は気が付いたはずだ。でも、あえて気が付かないふりをした。
……という事は、きっと会いたくない相手なのに違いない、と見当をつけた。
「美千緒さんは、今少し具合が悪くなって眠っているから、起こさない方が良いと思います。」
「そう……。一人で大丈夫なのかな。」
大二郎は相手の顔をじっと見つめた。……誰かに似ていると思った。
雲の切れ間から強い月の光が射して、男の顔がはっきりと見えた時、大二郎は理解した。
男は、柏木醍醐に似ている。
美千緒を探しに来た男は、一体何を語るのでしょうか……。
(´・ω・`) 大二郎「なんか、いやな予感~」
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