流れる雲の果て……19
尾関美千緒と松井聡は、大学時代の同級生だった。
学部は違ったが、ゼミで出会った当初から不思議と話が合った。
ある日、明治大正の頃の建物に興味があるんだと、打ち明けた美千緒に運命を感じた聡だった。
友人は多かったが、ここまでウマの合う相手は初めてだった。
静かな声で話す美千緒は、線が細くとも女性的なわけではなかったが、同期生の中でも端整な容貌で目立っていた。
もっとも本人にはそんな自覚はなく、本当かどうかわからないが、長い髪も実際は散髪に行くのが面倒だったのでほおっておいたら、いつの間にか伸びてしまったんだと、聡に話をした。
美千緒は、聡の他愛のない冗談に良く笑った。
*****
「なあ、次の連休、明治村へ行かないか?」
「あ!帝国ホテルのある所?あの石の建物、良いよね。移築した後、今も使われてるんだよね、あそこ。明治村に行くんだったら、思い切ってデジカメ買おうかな。」
「いっそ、泊まろうか?前に行ったことあるけど、とても一日じゃ回りきれないくらい、広いんだ。」
「うん。泊まりたい。」
明治村へ写真を撮りに行った小旅行で、初めて唇が触れ合うだけのキスをした。
互いに好意を持っていたし、周囲に誰も二人を知っている者はいなかったから、素直になれたのかもしれない。
小さな子供のように、「笑わないでね、これがファーストキスなんだ。」と頬を染めて打ち明けた美千緒が愛おしかった。
「おれもだよ。」
「え?嘘、松井君もてるじゃない。同じゼミの女の子たちも、松井君狙いだって話してたよ。」
目を丸くした美千緒に、聡は片目をつむって見せた。
「君とは、ファーストキスだ。で、セカンドもサードもその先も一気に済ませたいと思ってる。打ち明けると、ゼミにおれは美千緒狙いで入った。最初からすごく惹かれていたんだ。美千緒のことを、何もかも知りたいと思ってるけど、いいかな?君はどう思う?」
「あ、あの……。」
真面目な顔で、美千緒はよろしくお願いしますと、的外れに答えた。
「笑わない?こんな年齢なのに、経験ないんだ、ぼく……。あの、先輩に誘われたけどそういうお店にも行ったこと無くて……だから、ぼくの中身はきっと小学生レベルだと思う。がっかりさせてしまうけど、それでもいい?」
松井聡は赤面した美千緒を、抱きしめた。
「すごい。紫の上だ。」
「紫式部?」
「ああ。美千緒は源氏物語の若紫だ。光源氏は自分好みに相手を育てたんだよ。美千緒はおれが光源氏でも構わない?」
さすがに美千緒はむっとしたようだ。
「しょってる。稀代の遊び人ってところは一緒なのだろうけど……。ぼくは不器用だから遊びで恋愛なんてできないよ。大勢の恋人の中の一人なんて、まっぴらだ。」
「本気で愛したいと思ったのは美千緒だけだ。出会ったのは運命だと思う。遊びなんかじゃない、誓うよ。」
「何に?」
しばらく逡巡した後、聡は答えた。
「明治に建てられた、この帝国ホテルの建物に誓う。」
「聡。」
どうやら答えは正解だったようだ。
松井聡はその日、最愛の半身を手に入れた。
二人の出会いは大学でした。
引きあうように惹かれあっていた二人が、なぜ別れることになったのか……(´・ω・`)
(`・ω・´) 聡「絶対、離さないから!」
(´・ω・`) 美千緒「お願い、忘れて……。」
( *`ω´) 大二郎「美千緒さんを泣かすな~。」
本日もお読みいただきありがとうございます。
真実の愛が美千緒に降り注ぎますように。 此花咲耶
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学部は違ったが、ゼミで出会った当初から不思議と話が合った。
ある日、明治大正の頃の建物に興味があるんだと、打ち明けた美千緒に運命を感じた聡だった。
友人は多かったが、ここまでウマの合う相手は初めてだった。
静かな声で話す美千緒は、線が細くとも女性的なわけではなかったが、同期生の中でも端整な容貌で目立っていた。
もっとも本人にはそんな自覚はなく、本当かどうかわからないが、長い髪も実際は散髪に行くのが面倒だったのでほおっておいたら、いつの間にか伸びてしまったんだと、聡に話をした。
美千緒は、聡の他愛のない冗談に良く笑った。
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「なあ、次の連休、明治村へ行かないか?」
「あ!帝国ホテルのある所?あの石の建物、良いよね。移築した後、今も使われてるんだよね、あそこ。明治村に行くんだったら、思い切ってデジカメ買おうかな。」
「いっそ、泊まろうか?前に行ったことあるけど、とても一日じゃ回りきれないくらい、広いんだ。」
「うん。泊まりたい。」
明治村へ写真を撮りに行った小旅行で、初めて唇が触れ合うだけのキスをした。
互いに好意を持っていたし、周囲に誰も二人を知っている者はいなかったから、素直になれたのかもしれない。
小さな子供のように、「笑わないでね、これがファーストキスなんだ。」と頬を染めて打ち明けた美千緒が愛おしかった。
「おれもだよ。」
「え?嘘、松井君もてるじゃない。同じゼミの女の子たちも、松井君狙いだって話してたよ。」
目を丸くした美千緒に、聡は片目をつむって見せた。
「君とは、ファーストキスだ。で、セカンドもサードもその先も一気に済ませたいと思ってる。打ち明けると、ゼミにおれは美千緒狙いで入った。最初からすごく惹かれていたんだ。美千緒のことを、何もかも知りたいと思ってるけど、いいかな?君はどう思う?」
「あ、あの……。」
真面目な顔で、美千緒はよろしくお願いしますと、的外れに答えた。
「笑わない?こんな年齢なのに、経験ないんだ、ぼく……。あの、先輩に誘われたけどそういうお店にも行ったこと無くて……だから、ぼくの中身はきっと小学生レベルだと思う。がっかりさせてしまうけど、それでもいい?」
松井聡は赤面した美千緒を、抱きしめた。
「すごい。紫の上だ。」
「紫式部?」
「ああ。美千緒は源氏物語の若紫だ。光源氏は自分好みに相手を育てたんだよ。美千緒はおれが光源氏でも構わない?」
さすがに美千緒はむっとしたようだ。
「しょってる。稀代の遊び人ってところは一緒なのだろうけど……。ぼくは不器用だから遊びで恋愛なんてできないよ。大勢の恋人の中の一人なんて、まっぴらだ。」
「本気で愛したいと思ったのは美千緒だけだ。出会ったのは運命だと思う。遊びなんかじゃない、誓うよ。」
「何に?」
しばらく逡巡した後、聡は答えた。
「明治に建てられた、この帝国ホテルの建物に誓う。」
「聡。」
どうやら答えは正解だったようだ。
松井聡はその日、最愛の半身を手に入れた。
二人の出会いは大学でした。
引きあうように惹かれあっていた二人が、なぜ別れることになったのか……(´・ω・`)
(`・ω・´) 聡「絶対、離さないから!」
(´・ω・`) 美千緒「お願い、忘れて……。」
( *`ω´) 大二郎「美千緒さんを泣かすな~。」
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