流れる雲の果て……12
醍醐もまた、父親の顔になっていた。
「本気で恋をしろよ、大二郎。情や艶ってのは、経験を重ねて育つもんだ。手練手管は習うよりも慣れろって言うしな。まぁ、大概の色事は、年上の相手と枕数をこなしゃ……」
「醍醐さんっ!大二郎はまだ中学生ですよ。」
傍で話を聞いて居た羽鳥が話がそれかけたのに気付いて、思わず声を掛けた。羽鳥の目が怒っているのを見て、醍醐は慌てた。
「いや……え~と、まあ、そういうことだ。しっかりやんな。」
大二郎は泣き笑いになった。認めてもらえたのが、ただ嬉しかった。
そして、大二郎は襟を正すと、きちんと手をつき座長に告げた。
「お師匠さん。おれは、まだまだ自分で納得できるような芝居も踊りも出来ていません。だから当分は、お師匠さんって呼ばせてもらいます。これからもご指導よろしくお願いいたします。」
「そうかい?せっかく息子に格上げしてやろうってのに。まあ、好きにすればいいさ。」
「はい。じゃあ、お見送りの支度してきます。」
ぱたぱたと、着物の裾を持って、大二郎は自分の化粧前に駆けた。
泣いて崩れた化粧を素早く直しお客さまのお見送りをする。
大勢の客が、大二郎が現れるのを待っていた。
*****
醍醐はくるりと踵を返した。
「なぁ、羽鳥。大二郎のお相手は、あの先生かい?」
「そうだと思います。ずいぶん懐いているようでしたから。」
羽鳥が頷くと、ほっと醍醐はため息を吐いた。
「一回り以上も年上だろう?訳ありの相手に惚れるのは、おれの血かねぇ……。」
「さあ。そうかもしれません。大二郎はファザコンですからね。初恋のさあちゃんは別にして、年上に弱いんじゃないですか?」
慣れた手つきで、羽鳥は着物を畳んでいた。
「隙ありっ。」
ぐいと羽鳥を引き寄せると、醍醐は唇を弄った。
「ん~~っ!!だ、醍醐さんっ。お見送り行かないと。」
「あ~あ。口紅がべったりついちまったなぁ。すごい顔になってるぞ、羽鳥。」
「あああ~~~~~っ!!もう~~~!!」
鏡を覗いた羽鳥が、口紅だらけで叫ぶのは、終演後の日課になっていた。
*****
お見送りの一人一人に、大二郎は花を渡し言葉を交わす。
「良かったわ。明後日も来るわね、大ちゃん。」
「ありがとう存じます。お待ちしております。」
賛辞の言葉を掛けながら流れる客に、笑顔で礼を言いながら、目の前に来た次の客に大二郎は固まった。
「大ちゃん、すごく綺麗だった。最後の場面は泣いてしまったよ。」
「あ、ありがと。美千緒さん……。」
「握手してください。」
「……はい。」
手を握った美千緒がぐいと腕を引っ張り、耳元で告げた。
「待ってるから、部屋に来て。」
美千緒の言葉に迷わずうなずき、大二郎は花のように綻んだ。
例え、美千緒の心の中に誰かが住んでいようと構わない。
報われない恋を全うしようと思った。
大二郎の恋の行方はどうなるのでしょう。(´・ω・`) ←散々、報われないと書いといて、ちょっとかわいそうになってきた……。
(`・ω・´)大二郎 「おれ、がんばる。」
(〃ー〃)美千緒 「いい子だね、大ちゃん。」
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「醍醐さんっ!大二郎はまだ中学生ですよ。」
傍で話を聞いて居た羽鳥が話がそれかけたのに気付いて、思わず声を掛けた。羽鳥の目が怒っているのを見て、醍醐は慌てた。
「いや……え~と、まあ、そういうことだ。しっかりやんな。」
大二郎は泣き笑いになった。認めてもらえたのが、ただ嬉しかった。
そして、大二郎は襟を正すと、きちんと手をつき座長に告げた。
「お師匠さん。おれは、まだまだ自分で納得できるような芝居も踊りも出来ていません。だから当分は、お師匠さんって呼ばせてもらいます。これからもご指導よろしくお願いいたします。」
「そうかい?せっかく息子に格上げしてやろうってのに。まあ、好きにすればいいさ。」
「はい。じゃあ、お見送りの支度してきます。」
ぱたぱたと、着物の裾を持って、大二郎は自分の化粧前に駆けた。
泣いて崩れた化粧を素早く直しお客さまのお見送りをする。
大勢の客が、大二郎が現れるのを待っていた。
*****
醍醐はくるりと踵を返した。
「なぁ、羽鳥。大二郎のお相手は、あの先生かい?」
「そうだと思います。ずいぶん懐いているようでしたから。」
羽鳥が頷くと、ほっと醍醐はため息を吐いた。
「一回り以上も年上だろう?訳ありの相手に惚れるのは、おれの血かねぇ……。」
「さあ。そうかもしれません。大二郎はファザコンですからね。初恋のさあちゃんは別にして、年上に弱いんじゃないですか?」
慣れた手つきで、羽鳥は着物を畳んでいた。
「隙ありっ。」
ぐいと羽鳥を引き寄せると、醍醐は唇を弄った。
「ん~~っ!!だ、醍醐さんっ。お見送り行かないと。」
「あ~あ。口紅がべったりついちまったなぁ。すごい顔になってるぞ、羽鳥。」
「あああ~~~~~っ!!もう~~~!!」
鏡を覗いた羽鳥が、口紅だらけで叫ぶのは、終演後の日課になっていた。
*****
お見送りの一人一人に、大二郎は花を渡し言葉を交わす。
「良かったわ。明後日も来るわね、大ちゃん。」
「ありがとう存じます。お待ちしております。」
賛辞の言葉を掛けながら流れる客に、笑顔で礼を言いながら、目の前に来た次の客に大二郎は固まった。
「大ちゃん、すごく綺麗だった。最後の場面は泣いてしまったよ。」
「あ、ありがと。美千緒さん……。」
「握手してください。」
「……はい。」
手を握った美千緒がぐいと腕を引っ張り、耳元で告げた。
「待ってるから、部屋に来て。」
美千緒の言葉に迷わずうなずき、大二郎は花のように綻んだ。
例え、美千緒の心の中に誰かが住んでいようと構わない。
報われない恋を全うしようと思った。
大二郎の恋の行方はどうなるのでしょう。(´・ω・`) ←散々、報われないと書いといて、ちょっとかわいそうになってきた……。
(`・ω・´)大二郎 「おれ、がんばる。」
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