沢木淳也・最後の日 9
「警察をかきまわして、喜んでいるように見えると言うよりは、俺には誰かの注意を引きたいだけのような気がしますね。」
「なぜそう思う?」
「こうすることで自分を見てくれと、存在をアピールしているような気がするんです。プロファイルを否定する気はありませんが、同じ手口で害者は皆、警察官の子息だ。それが、どうも気になって……。まあ、裏が無い以上思いつきでしかないですがね。班長に一言、言っておきたかったんです。行くぞ、鹿島。」
「あ、はい。」
「今日は大荷物は置いて来たのか?」
「ホテルに預けてきました。あの……なんか、ぼくのせいで、沢木さんがいろいろ言われているみたいで、すみません。」
「言いたい奴には言わせておけばいい。キャリアだろうがなんだろうが、優秀な奴をやっかむのはどこにでもいる。気にするな。」
「ぼくは、優秀なんかじゃありません。父はぼくの事を、兄弟中で一番不出来だって、いつも言っています。……あの、中学受験に失敗したから……。」
沢木と鹿島は不動産屋を当たり、使われていない廃ビルを一つずつあたっていた。思わぬところで身の上話を聞こうとは思っていなかったが、今は行動を共にしている。少しは相手の事を知ってもいいだろうと思い、話を聞いた。
「受験に?」
「ええ。父親が卒業した有名私立に、兄も弟も受かったんですが、僕だけが落ちたんです。」
「へぇ。だったら鹿島は公立から、東大に受かったのか?それはすごいな。不出来どころか自慢の息子じゃないか。」
「え……?」
鹿島は足を止めて目を見開いた。とても意外そうだった。
「沢木さんは、そう思いますか?」
「勿論。一度心折れた者が立ち上がるのがどれだけ大変か、俺は知っている。受験に失敗して、挫折を味わった者の方が、芯が強くて懐の深い警察官になると、俺は思う。」
「そうでしょうか?」
「請け合ってやる。俺の知ってる範囲だが、大抵のキャリアは挫折を知らない頭でっかちな奴が多い。順風満帆に生きてきた奴より、挫折を知っている奴の方が、懸命に生きてると俺は思うがな。自信を持って胸を張れ、鹿島。お前は優秀だ。」
「ありがとうございます……。父はあれから長いこと、僕とは口もきいてくれませんでした。沢木さんの考え方って、父とは正反対ですね。」
「そうか?まぁ、俺は挫折しまくりだからな。鹿島警視監と一緒にしちゃ、向こうに迷惑だ。」
沢木はそう言って破顔し、鹿島は思わずその顔をじっと見つめた。
鹿島は沢木に聞こえないように、一人つぶやいた。
「もし沢木さんみたいな人が、僕の父親だったら……僕は。」
(°∇°;) こいつ、怪しくね……?
♪~(・ε・。)鹿島 「何がですか?」
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃) 此花咲耶
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