沢木淳也・最後の日 14
空中に投げ出された沢木は、落ちながら目の前にあった床に手を掛けた。
その位の反射神経はあるが、ぽかりと空いた空間に辛うじて指先だけでしがみつく格好になった。
「すごいなぁ。沢木さんって、運動神経もいいんですね。落ちると思ったのに。」
「……くっ!」
頭上から鹿島が覗き込む。
「返事してくれないんですか?冷たいなぁ。」
「あ、そうだ、いいものがあるんです。聞かせてあげますね。きっと、僕に返事をしたくなりますよ。」
「なんだ……?」
手のひらの携帯ほどの小さな器械が、ボイスレコーダーだとすぐにわかった。捜査上、こういったものが必要なこともある。不安定な姿勢で、沢木は呻いた。
『パパ……』
「隼……!」
聞き覚えのある声に、沢木の顔色が変わる。
「鹿島!隼に何をした?」
「やだなぁ……。何もしませんよ。会いに行ったから、声を聞かせてあげただけじゃないですか。ほら、もう少し続きがあるんです……。」
『パパ……心配しないでね。ぼくは大丈夫……。』
「可愛い子ですね、あの子。沢木さんには余り似ていない気がするけど、すごく愛されて育ったんだろうなってわかります。羨ましいですよ。あ、沢木さんも心配しなくても大丈夫ですよ。下に落ちても怪我しないように厚いマットレス敷いていますから。……わっ!」
沢木の動きは、鹿島には想像できなかった。ぶら下がった状態から、くんと指に力を込めると、大車輪のように身体を振って反動をつけ、手力だけで一気に床の上に飛びあがった。
呆然とした鹿島に飛び掛かると、そのままのど輪を締め上げる。
「お前は、俺の別名を知らなかったのか?」
冷ややかな声に、鹿島が総毛立つ。
「俺はな……お前がキャリアだろうが、親父が警視監だろうがどうだっていいんだよ。こういう手を使う奴が、一番許せねぇんだ。隼を巻き込もうとしたのが、お前の失策だ、鹿島。」
「隼には守ってくれる奴が居るから、声だけ吹き込んで持ってきても、あいつが無事なのはわかっている。だがなぁ、こういう冗談は俺には通じないと覚えておくんだな。親父にちゃんと叱られたことがなかったんだろう?鹿島……親の想いってやつを教えてやるよ。俺はおまえの教育係だからな。」
首元を押さえつけたまま、沢木は鹿島の頬を往復張り飛ばした。
「あっ……ひ……苦し……さ、わきさ…………」
柔道の絞め技の様に、沢木は鹿島を締めた。足で胸に体重をかけ、呼吸が出来ないように圧迫する。鹿島は酸素を求めて、喘いだ。
「は……なし……」
隼が絡んだことで、確かに沢木は平常心ではなかった。二人きりだと油断していたかもしれない。
鹿島を落とした瞬間、息を吐いた沢木の背後には隙が出来た。だから背後から迫った誰かに気付かず、何か重いものでいきなり後頭部を強打され時、沢木には何が起きたか理解できなかった。
「雄ちゃんをいじめちゃ駄目だよ~、おまわりさん。」
「ぐわっ!」
振り返る間もなく、首筋に痛みが走る。払いのけたら、乾いた音がして注射器が転がった。
「てめぇー……。」
「気を付けないと駄目だよ~。犯人は複数犯って、プロファイルに出てたんだろ。雄ちゃんが言ってたよ~。おっさんは、もの忘れしやすいんですか。」
相手の影が二重になり、目がかすむ。
(°∇°;) だ、だれだ……?
本日もお読みいただきありがとうございます。拍手、ポチ、コメントもありがとうございます。
とても励みになっています。 (〃゚∇゚〃)
その位の反射神経はあるが、ぽかりと空いた空間に辛うじて指先だけでしがみつく格好になった。
「すごいなぁ。沢木さんって、運動神経もいいんですね。落ちると思ったのに。」
「……くっ!」
頭上から鹿島が覗き込む。
「返事してくれないんですか?冷たいなぁ。」
「あ、そうだ、いいものがあるんです。聞かせてあげますね。きっと、僕に返事をしたくなりますよ。」
「なんだ……?」
手のひらの携帯ほどの小さな器械が、ボイスレコーダーだとすぐにわかった。捜査上、こういったものが必要なこともある。不安定な姿勢で、沢木は呻いた。
『パパ……』
「隼……!」
聞き覚えのある声に、沢木の顔色が変わる。
「鹿島!隼に何をした?」
「やだなぁ……。何もしませんよ。会いに行ったから、声を聞かせてあげただけじゃないですか。ほら、もう少し続きがあるんです……。」
『パパ……心配しないでね。ぼくは大丈夫……。』
「可愛い子ですね、あの子。沢木さんには余り似ていない気がするけど、すごく愛されて育ったんだろうなってわかります。羨ましいですよ。あ、沢木さんも心配しなくても大丈夫ですよ。下に落ちても怪我しないように厚いマットレス敷いていますから。……わっ!」
沢木の動きは、鹿島には想像できなかった。ぶら下がった状態から、くんと指に力を込めると、大車輪のように身体を振って反動をつけ、手力だけで一気に床の上に飛びあがった。
呆然とした鹿島に飛び掛かると、そのままのど輪を締め上げる。
「お前は、俺の別名を知らなかったのか?」
冷ややかな声に、鹿島が総毛立つ。
「俺はな……お前がキャリアだろうが、親父が警視監だろうがどうだっていいんだよ。こういう手を使う奴が、一番許せねぇんだ。隼を巻き込もうとしたのが、お前の失策だ、鹿島。」
「隼には守ってくれる奴が居るから、声だけ吹き込んで持ってきても、あいつが無事なのはわかっている。だがなぁ、こういう冗談は俺には通じないと覚えておくんだな。親父にちゃんと叱られたことがなかったんだろう?鹿島……親の想いってやつを教えてやるよ。俺はおまえの教育係だからな。」
首元を押さえつけたまま、沢木は鹿島の頬を往復張り飛ばした。
「あっ……ひ……苦し……さ、わきさ…………」
柔道の絞め技の様に、沢木は鹿島を締めた。足で胸に体重をかけ、呼吸が出来ないように圧迫する。鹿島は酸素を求めて、喘いだ。
「は……なし……」
隼が絡んだことで、確かに沢木は平常心ではなかった。二人きりだと油断していたかもしれない。
鹿島を落とした瞬間、息を吐いた沢木の背後には隙が出来た。だから背後から迫った誰かに気付かず、何か重いものでいきなり後頭部を強打され時、沢木には何が起きたか理解できなかった。
「雄ちゃんをいじめちゃ駄目だよ~、おまわりさん。」
「ぐわっ!」
振り返る間もなく、首筋に痛みが走る。払いのけたら、乾いた音がして注射器が転がった。
「てめぇー……。」
「気を付けないと駄目だよ~。犯人は複数犯って、プロファイルに出てたんだろ。雄ちゃんが言ってたよ~。おっさんは、もの忘れしやすいんですか。」
相手の影が二重になり、目がかすむ。
(°∇°;) だ、だれだ……?
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