優しい封印 12
もがけばもがくほど枷はきつくなり、求は自分を逃げ場のないすり鉢状の蟻地獄の巣に落ちたちっぽけな羽虫のようだと思う。
「……う……」
身体は強張り、節々が痛んだ。長く縛められたせいで、痺れが取れない。
遮光カーテンが引かれたままの部屋で、求は時間の感覚さえ失っていた。昼と夜の区別もつかない。
連絡の取れなくなった義兄と縁を切って、やっと逃げおおせたと思った。
束の間の自由の中で、涼介の母と知り合い恋をした求だった。
だが今は、あの母子に関わるべきではなかったと思う。
義兄は求を諦めたわけではなかった。結婚の許しを求めるために、実家を訪問すると知らせた、たった一通の手紙が命取りになった。家を出た求を血眼になって探していた義兄は、薄い一つの消印から郵便局を割り出し、時間をかけて住所に見当をつけ、駅に張り込んで求を探した。
大学卒業を期に恐ろしい執着から逃げられたと思っていたのは、求の誤算だった。
泣きながらお父さん……と縋った涼介の顔が、道に迷った旅人を救う微かな灯りのように、時々まぶたに浮かぶ。
「怖い目に遭わせて……ごめん……ごめんね、涼介君……」
やっと掴みかけた人並みの幸せは儚く泡沫となり、無残に霧散した。
*****
すっと音も無く、滑るようにドアが開いた。
「いい子にしてたか?求~。兄ちゃんが留守で寂しかっただろ?」
諾と肯けば機嫌が良くなると分かっていたが、僅かな自尊心が残っていた。
「……義兄さん……ぼくは、もう10歳の子供じゃない……んだ。話を聞いてくれないか?」
「素直じゃねぇな。まだ、そんな口を聞くのか。」
武骨な指が、求の切れた唇の傷を押さえ、思わず苦痛にゆがんだのを笑った。抗おうにも散々に加虐を受けた上、体力を奪うため薄い粥しか与えられていない求は、寝台から動けなかった。
奇しくも涼介が転がりこんだ鴨嶋組と同じく極道の世界に、義兄は住んでいた。
ただ鴨嶋組と絶対的に違うのは、義兄がいるのは、任侠とは程遠い口ばかりで漢気を語る野卑な組織だということだった。出所した義兄は箔をつけ幹部の一員として手下を引き連れ、肩で風を切っていた。
「わかってるよ。求~、お前は俺が怖いんだろう?だが、怖いと言いながら、求は俺が好きだ。違うか、求?言ってみな。嫌よ、嫌よも好きのうちで~すってな。」
反論はできなかった。
ぐいと押さえつけられた下肢に、たらたらと甘い香りのする粘り気のある液体が零された。拒もうとしても、催淫効果のあるローションの匂いに鼻腔を侵され、意識を裏切って敏感な個所が反応する。
「直に欲しくてたまらなくなる……ほ~ら、固くなってきたじゃねぇか。お前は根っからの好き者なんだよ。求は変態だからなぁ……兄ちゃんが遊んでやらないと、おかしくなっちゃうだろ?」
「違う……。ぼくは、こんなこと好きじゃない……!」
「うるせぇっ。四の五のぬかすな。刻むぞ!黙ってやらせてればいいんだよ!」
「いやだ……義兄さん……いやだぁ……」
怒声を聞くと、封印していた過去がフラッシュバックする。自分の中の小さな子供が救いを求めて泣き叫ぶのを、求は止められなかった。
そして蹂躙に傷ついた求の持ち物が、意思に反して義兄を誘った。
「いい子にしてたら優しくしてやる……求。ほら、俺のも勃ちあがったぞ。解いてやるから、暴れるんじゃないぞ。昔みたいに、俺が欲しいってねだってみろよ。可愛いなぁ、求~。」
「あ……あ……」
束の間の自由は、次なる凌辱への入り口でしかなかった。とんと背中を押されて、求は深淵へと転げ落ちた。薬物で剥き出しにされた感覚が、おぞましい行為のすべてが快感とすり代わって、ぞわぞわと背中を這い登った。
敷布を握り締めて耐える求の裸足の指を一本ずつ、義兄が舐め上げてゆく。
「求の身体は綺麗だからな……兄ちゃんは、傷痕残さないように気ぃ使ってんだぞ。」
寝台の脇に置かれた銀盆の覆いを取ると、液薬で満たされた細い注射器を取り上げた。
「いやだ!それは嫌だ!……義兄さん!……」
液漏れした腕は美しくないからな……そう言って、義兄はもがく求の足首を掴むと、指の股へと針を刺した。ぷつりと針が皮膚を貫通した瞬間、逆さまにぶら下げられた求の全身が跳ねた。
「や……だああぁーーーーーーっ!!」
「求っ。いい子にしてろって言っただろう。直ぐ、回って気持ちよくなるから……な?ちょっとだけ我慢しろよ。」
がくがくと震える最愛の義弟を抱きしめて、義兄は耳朶に優しい声を掛けた。
「やっと帰って来たな……求~。」
*****
薄くドアが開いたのに気付くと間島は声を荒げた。
「てめぇら!覗くんじゃねぇ!」
「大事な弟と、込み入った話をするんだ。誰も通すんじゃねぇぞ。」
異様な気配を心配した手下が覗いたのが気に障ったらしい。
ドアは再び静かに閉じられた。
伸ばした腕は義兄に絡め取られ、求の薄い腹の上には、召喚された淫魔が降臨して高嗤いしていた。
あなた……
お父さん……
求を呼ぶ妻と涼介の声が、遠ざかってゆく。
愛する二人の輪郭が滲んだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
どうやら、求さんはあのまま監禁されているみたいです……(´・ω・`)
愛する妻子の元に帰る日は来るのか……
( *`ω´) 求「こら~、覚えてろよ~。」
(〃゚∇゚〃) 此花 「えっと……このちん、ハピエン主義だから……だいじょぶよ?」
「どりゃあ!」■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ 「きゃあ~」
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