純情子連れ狼 1
隼と周二の束の間の同居も、それに伴いあっさりと解消される。自宅に帰ってゆく隼の大荷物を眺めた周二は、小さくため息を吐く。
「あ~、つまんね。くそ親父、もう少し入院してりゃ良かったのに。」
「周二くん……怪我が治って、パパがやっとおうちに帰って来るのに。……(´;ω;`) うりゅ……そんなことを言っては駄目です~。」
「お~、そうだな。悪かったな、隼はずっと退院の日を待ちわびてたんだものな。」
「うん……」
「俺は隼が家に帰っちまうのが、何かこう寂しい気がしたんだ。木本も松本もそうだ。たった数ヶ月だったけど、この家に隼がいるのが当たり前になってたからさ。」
「パパが病院に居る間、周二くんと一緒にいたから、ぼくは寂しくなかったよ。実家に帰るけど、「めのほよう」のお仕事しに来るから、待っててね。長らくお世話になりました。」
「隼。なぁ……無理すんなよ?甘えてもいいんだぞ。」
隼は手を伸ばして、周二の頬に触れた。
「ん……だいじょぶ。周二くん、ありがと。また、明日学校でね。」
恋人たちは、別れを惜しんで軽いキスを交わした。
どうせ、学校へ行けば会えるし、放課後は「めのほよう」のお仕事にやって来る。しばらく一緒に暮していたと言うのに、結局最後の一線を越えられなかった不憫なばかっぷるだった。
*****
ちなみに、「めのほよう」というのは、このシリーズでは何度も繰り返しているが、隼が周二に騙されて行っている借金払いの事である。
最初は高級外車に自転車をぶつけ、次いで虎の毛皮のカーペットをちびって汚してしまった隼は、放課後、自分の裸体を鑑賞してもらうという『めのほよう』というアルバイトでクリーニング代金を少しずつ返済している。
元より、周二の出まかせで、実際は隼に借金などはない。だが、全裸に手錠と首輪を付け寝台につながれる悩殺的な姿で返済に励む隼は、そうするのが漢(おとこ)らしくけじめをつける行為だと信じて疑わない。
とてつもなく残念な、ありえない世間知らずであった。
「漢(おとこ)ですからっ!(`・ω・´)」←隼
*****
翌朝、学校に来て直ぐに周二を見つけると、飛びつくようにして隼は寄ってきた。
精一杯、パパ沢木の世話をしようと試みていたが、どうやら思うようにいかないらしい。
「周二くん……あのね……」
手首に油の跳ねた跡があるのに、周二は気付いた。
「……火傷したのか、隼?こっち来い、絆創膏持ってるから、貼ってやる。薬は?」
「ううん……」
悲しげに黒い瞳が揺れた。周二は想像がついていた。何しろパパ沢木が過保護にしまくったせいで、まともに家事などやったことなどない。隼に出来るのは、お湯を注いで三分間待つチキンラーメンだけだ。
退院したとはいえ、まだ体の不自由な沢木に、必死に尽くそうとする隼の姿が想像できる。
「あのな、隼。フライパンに水が残ってる時に、油を入れると水蒸気が閉じ込められてはねるんだ。目玉焼き作る時は、ちゃんとフライパンを熱くして水気を飛ばしてからじゃないとな。」
「そっか~。周二くん……見てたみたいだね。」
「見てなくても隼の事なら分るさ。隼なら、ぜってぇ頑張るだろ?朝ご飯は、うちに居る時もゆで卵よりも目玉焼きが好きだったろ?そうだな、怖かったら卵入れる時に一回火を消せばいいんだ。卵を落としてから、もう一回火をつけてふたをして一分間待てば、隼の大好きな半熟卵の目玉焼きが出来るぞ。」
「そっか~。」
隼はメモに一回火を消す、卵を入れる……と手順を書いた。
「後な、わからないことが有ったら、電話して来い。俺がバイトで居なくても、木本か松本に話をしておくからな。それとな、火を使うときは危ないから、ちゃんと長袖着てエプロン付けるんだぞ。」
「変な周二くん。ぼく……いつもはちゃんと服着てるよ……?」
「あはは……そうだったな。隼が漢らしくまっぱになるのは、「めのほよう」の時だけだった。」
「漢(おとこ)だもん。一度決めたことは、頑張ります。(`・ω・´)」
こんな風に戻ってきた日常に、嵐が来ることを誰も考えていなかった。
お読みいただきありがとうございます。
お久しぶり~ふな、このはなでっす。このお話の時間軸は、「沢木淳也最後の日」から一か月くらい後となっております。
相変わらず何もできない隼ちゃんです。(´・ω・`) ……がんばるもん……
久しぶりにアップしたら、下書きのままでした……すまぬ~(´・ω・`) ←
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