純情子連れ狼 2
「たった今、入ってきた臨時ニュースです。これまで落ち着いていた関西の暴力団「墨花会」事務所が、何者かに襲撃された模様です。まだ安否はわかりませんが、被害者は墨花会組長、英(はなぶさ)龍水さんということです。」
「えっ!まじ?墨花会って、先代の兄貴分の所っすよね?ついこの間、跡目を継いだんじゃなかったっすか?」
「墨花の若い組長か……こいつは、関東にも火の粉が飛んでくるだろうから、腹をくくるしかねぇな。情報仕入ておけよ、松本。」
「木本の兄貴、おれ、とにかくおやっさんに知らせて来ますっ!後、三丁目の叔父貴にも。」
それと共に、事務所の電話がけたたましく鳴り始めた。あちこちからニュースを聞いて、詳細を知りたがる親戚筋の者達だった。しかし、英龍水(はなぶさりゅうすい)を襲撃したのが一体何者なのか、肝心な情報は警察に伏されて表には出なかった。
*****
最近、隼と周二は校内でも一緒にいるようになっている。
周二とつるんでいた仲間も、マルボウの沢木の息子という事で煙たがっていたが、いつの間にか隼を認めている。露骨に嫌な顔をするようなことはなくなっていた。
他の生徒たちも隼が傍に居ると、気の荒い野獣が思いがけず優しい顔を向けるのを知って歓迎しているようだ。
放課後、周二は玄関ロビーで隼を捕まえた。
「なぁ、隼。生徒会の用事が無かったら、帰りにばあちゃん家に寄って帰ろうぜ?ばあちゃんから、たまには顔見せろってメールが来た。」
「割烹のばあちゃん?かっこいいよねぇ。優しいからぼく、好き。」
「爺さんが見初めた頃は、相当の別嬪だったらしいぞ。爺さん面食いだったしな。」
「でも、夕飯のお買いものして帰らないと。」
「メニューは?」
「ん~、冷奴です。」
昨日は確か、湯豆腐だったぞ……
豆腐率高いな、隼。
「……あのな、夕飯は割烹の料理を持ち帰りさせてやるってさ。くそ親父の退院のお祝いをしてやるって。」
「やった~。」
隼の顔がぱっと明るくなる。
周二の祖母の料理は、何回か周二と一緒に食べたことがある。隼の好きな、甘い卵焼きや野菜の煮つけ。どれも丁寧に出汁を取った優しい味付けで、隼はとても好きだった。
「じゃあ、パパに晩御飯の心配いらないからねってメールしとくね。」
「そう言えば、秋限定の男のプリン、栗尽くしも買ってあるから一緒に食おうって書いてたぞ。」
「きゃあ~、男のプリン~。好き好き。」
隼は花のように笑う。
*****
先代の妾は、二人の到着を待ちかねていた。
「こんにちは~。」
「隼ちゃん、いらっしゃい。今日も可愛いわね~。あら、ちょっと背が伸びたのかしら?」
「うふふ。成長期です~。ばあちゃんも、お着物素敵だよ。薄い紫似合うね。」
「そうかい?先代の好きな色なんだよ。惚れた男の好きな色が似合うなんて言われると、この年になっても嬉しいもんだね。」
「ばあちゃん、若いよ~。」
「隼ちゃんもね。」
「ほんとは、周二くんより三つお兄さんなんです~。」
きゃっきゃっうふふ~な先代の妾と隼の様子は、傍目には祖母と孫に見えるだろうか。
「なあ。ばあちゃん。俺に急ぎの用があるってなんだよ?」
「大事な話があるから、周二は桔梗の間に行ってなさい。隼ちゃんは、奥の妾(あたし)の部屋でちょっと待っててくれるかい?直ぐに男のプリン持ってくからね。」
「はい。」
先代の妾は、周二の祖父が亡くなって以来、木庭組には出入りしていない。ただ、周二は幼い時から本当の祖母のように慕っていた。時折、こうして顔を見に来るのも、父親公認だ。
「……あれ?ガキの泣き声がする……?」
桔梗の間に向かいかけた周二の足が止まった。嫌な予感がする……
こういう時の、野獣の勘は確かだった。
本日もお読み頂きありがとうございます。
やっとタイトルと関係ありそうな雰囲気に……(〃゚∇゚〃)
隼ちゃんの得意料理は、冷奴と電子レンジでチンする湯豆腐なのです。(`・ω・´)
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