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朔良咲く 23  【最終話】 

成長して青年になった朔良と再びめぐり合い、こうして話が出来るようになるなどとは、思いもよらなかった島本だった。

高校の頃、乱暴に踏みつけにした下級生は、真っ直ぐに首を上げて自分を見つめている。
塵に汚れた床の上に、蹂躙された挙句に気を失って倒れた少年の、成長したしなやかな背には、傷の癒えた神々しいまでの白翼が見える気がした。

「やっぱり、うっとりするほど綺麗だな……朔良。」
「懲りないね。馬鹿みたい。それは男に使う褒め言葉じゃない。」
「そうだな。でもな、初めてちゃんと朔良の顔を見たときのことを、俺は今でも覚えてる。世の中にこんな顔した奴が居るのかと思った。穢した時、本当は少し怖かった。」
「ふ~ん……。」

厭味を言ってやろうかと思ったが、大人げない気がして朔良は口をつぐんだ。

「朔良はその頃と何も変わっていない。誇り高くて……繊細だ。最近になって、雰囲気が変わったかな。柔和になった気がする。」
「あんたの感想はいいよ。」
「優美な見かけと違って、鼻っ柱が強いところも変わらないな。」

ふと気になって、島本は聞いてみた。

「それよりパニックは、しょっちゅう出るのか?俺のせいなんだろう?」
「さあ、殆どよくなっているから。トラウマが原因とは限らないんじゃない?それに発作が出た時、あんたが言ってくれた言葉で落ち着いたのは確かだし。」
「俺が?」
「うんと昔、僕がおにいちゃんに助けてもらった時、おにいちゃんも言った言葉だったよ。正直、あんたの口から聞くとは思わなかったけど。」
「織田彩か。朔良が、高校の時に好きな奴だったよな?今でも好きなのか?」
「好きも何も、向こうにとっては、昔から僕は弟みたいなものだ。恋愛対象にはなれないけど、大事にしてもらって感謝してる。事故の後も、うんと甘やかして貰ったよ。僕はおにいちゃんが傍に居るのが当然だと思ってたから、おにいちゃんが僕のせいでたくさんの物を失ったのにも気が付かなかったんだ。すごく悪いことをしたと思ってる。」
「恨んだりしていないよ。……朔良の事は、誰でも好きになるさ。きっと、織田彩だってそうだ。後悔はしていないはずだ。」
「あんたの口から、おにいちゃんと同じ台詞は聞きたくない。」

朔良は、自分から島本に一歩近づいた。
胸が苦しくなると思ったが、何ともなくてほっと安堵する。

「……じゃ、ね。」
「話せてよかった。朔良、あの……ありがとう。」
「うん。」

ドアを開けたら、入って来た冷たい初春の風に、甘い香が混じっている気がする。
風に弄られた髪をかき上げた朔良に、島本は思わず息を詰めた。
凛とした横顔は、もう青年のものだった。

*****

朔良は彩を呼び出した。
これから本気で理学療法士をめざして、勉強を始めると告げた。

「朔良。伯父さんに話せないなら、俺が一緒に行ってやろうか?」
「いいよ。自分で言うから。これから帰って、すぐに言うんだ。」
「一人でちゃんと言えるのか?駄目っこ朔良のくせに~。」
「おにいちゃん、よっかかると重い。真っ直ぐ歩けないよ。……もう~、酔っ払い。」
「あはは……朔良が自分でしたいこと見つけたなんてなぁ~。おにいちゃんは嬉しいぞ~!」
「酒臭い~!もう~!」

朔良は父の許しを得て、それから猛勉強に励んだ。

誰もが懸命な朔良を支えた。

やがて主治医に宛てて、手術が成功したいずみから手紙が届く。
さくらちゃんに渡して下さいと書かれた手紙には、いずみの入院した病院に植えられた桜の花びらが押し花になって張られていた。
脳腫瘍を取り除く手術は、顕微鏡を使った大変なもので、長時間に及んだが上手くいったそうだ。
腫瘍さえ取り除けば、問題は無い。これから全てが上手くいくだろうと、医師は朔良に告げた。

「しばらくは向こうで経過観察する必要があるけど、落ち着いたらすぐに退院できるそうだよ。子供の治癒力は高いからね。朔良君。次は君の番だね。」
「いずみちゃんに、いい報告が出来るように僕も頑張ります。」

*****

来年の同じ頃、一枚の封筒が朔良の自宅ポストに届くだろう。
その書面に何と書かれているか、朔良は知っている。

封を切った朔良は、微かに微笑むと顔を上げた。


「サクラ サク」


                           


                               ― 朔良咲く 完 ―




長らくお読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

不器用な朔良が、やっと一人で歩きはじめました。
ここまで来るのはなかなか大変でした。何しろ言うことを聞いてくれないキャラクターでした。

(`・ω・´) 「全部カメムシのせい。」

(´・ω・`) 「そうじゃないと思うんだけど……」

(`・ω・´) 「じゃ、ガラパゴスゾウガメのせい。」

 |ω・`)  「朔良たん……そうじゃなくて。」

(つд・`。)・゚「僕、悪くないもん……」

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「そうだな。朔良は悪くないよな。」「うん……」←朔良を駄目っ子にしたのは、たぶん甘やかした彩だな


後書きを書こうと思います。  此花咲耶



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2 Comments

此花咲耶  

奈々さま

> このちん。「朔良咲く」の完結。おめでとうございます。そして読ませて頂きありがとうございました。たった今読み終わりました。そして心がキュンキュンしてて、さっそくコメ書かせて頂いてます。

奈々ちん。お読みいただきありがとうございました。
きゅんきゅんしてくださって、此花もうれしいです。(〃゚∇゚〃)

朔良くんあなたはメチャ男前!えらい!頑張った!あんなに辛かった高校時代の思いを乗り越えたんだ!カメムシくんに勝ったよ。

(〃゚∇゚〃) ←褒められてちょっとうれしくなっている朔良。

そうです。このちん。こうなったら、もうカメムシくんと朔良姫をくっつけちゃって下さい。そして、一生かけてカメムシくんは朔良姫を幸せにするべきです。朔良姫は、ずーとカメムシくんを尻に敷いてやりなさい!。なんか考えただけで、にやけてきます。だって姫はめちゃめちゃ我が儘なんだよ・・・カメムシ覚悟しろ!う~ん。そして結局はカメムシは姫にメロメロなんだよな~~~このちん。


おお~、朔良と島本がカップルに~?それもありかな~。
(〃ー〃)「えへへ……」←島本
ヾ(。`Д´。)ノ 「やだ~~!」

この続き、ぜひいつか、いつでもよいですから、よろしくお願いしまーす。って最後はおねだりで終わりました(笑  PS 「サクラサク」 を見て。だからタイトル「朔良咲く」だったんだ。って感動しました。

いつか続きを書きたいです。
誰かといちゃこらしている朔良を見て、くそ~~となってる島本とか……♪ψ(=ФωФ)ψ
コメントありがとうございました。うれしかったです。(〃゚∇゚〃)

2014/03/16 (Sun) 00:25 | REPLY |   

奈々  

このちん。「朔良咲く」の完結。おめでとうございます。そして読ませて頂きありがとうございました。たった今読み終わりました。そして心がキュンキュンしてて、さっそくコメ書かせて頂いてます。朔良くんあなたはメチャ男前!えらい!頑張った!あんなに辛かった高校時代の思いを乗り越えたんだ!カメムシくんに勝ったよ。そうです。このちん。こうなったら、もうカメムシくんと朔良姫をくっつけちゃって下さい。そして、一生かけてカメムシくんは朔良姫を幸せにするべきです。朔良姫は、ずーとカメムシくんを尻に敷いてやりなさい!。なんか考えただけで、にやけてきます。だって姫はめちゃめちゃ我が儘なんだよ・・・カメムシ覚悟しろ!う~ん。そして結局はカメムシは姫にメロメロなんだよな~~~このちん。この続き、ぜひいつか、いつでもよいですから、よろしくお願いしまーす。って最後はおねだりで終わりました(笑  PS 「サクラサク」 を見て。だからタイトル「朔良咲く」だったんだ。って感動しました。

2014/03/15 (Sat) 01:32 | REPLY |   

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