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小説・初恋・26 

その頃、醜女の妻女が産んだわが子は玉のように美しく、湖西は自分の血に心から満足した。


誇り高い如月湖西の血は、何者にも邪魔されることなく、何があっても清らかなまま汚れたりはしないのだ。


豪商の竹野家に望みどおり、高貴な血を引く跡取りをくれてやって、湖西は約束どおり離縁し自由の身となった。


もう迷うことは何もなかった。


次の結婚相手も、同じような相手を見つけて来ればいい。

金さえ積めば誰にでもなびく男妾、陰間と悪口が聞こえても、端整な顔と優美な姿を元手に繰り返した婚姻で、広大な領地と持参金を手に入れた。


こうして如月湖西は、政局すら左右できる押しも押されぬ地位にまで上り詰めたのだ。


四位以上に許された「黒袍」をまとい、紋様は「轡唐草紋」。


参内の装束は誰よりも華やかで、絢爛だった。


この上は財産を減らさぬように、親族の中で、叶う限りの血族結婚を繰り返し如月宮家の領地を守る。


それが湖西の選んだ方法だった。

いつしか濃過ぎる血に、家を継げない不具なものもでてきた。


粘った血のせいだろうか、湖西の血を継いだ者は6人生まれたがまともに育ったのは、始めに生まれた一人と孫の奏だけだった。


だが折りよく、時代は激動へと流れ、離縁した妻女がなくなった後は、財産も跡取りも全て後見となった湖西の懐に転がり込むことになる。


16のときに生まれた息子は、湖西の予想以上の美丈夫だった。


母より十も若い白皙の面の父親に、はにかみながら挨拶をした息子に、湖西はいきなり婚約者の存在を告げた。

「この月の十日に、沙耶宮さまと杯を交わせ。」


「お父上。

せっかくのご縁談なれど、わたくしには二世を誓った者がおります。」

「お断りしてください。」


当然の申し入れに、湖西はどこの家の娘かと問うた。


そして、娘を考えられない惨劇が襲う・・・


亡骸を抱きしめて慟哭する息子に、湖西は頭上で見えぬように極上の笑みを浮かべながら、葬儀の手配すら優しく手を貸した。


佐幕派の手によるものだろうか・・・と、湖西は告げたが、渦中の息子以外誰もが皆、犯人を知っていた。
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