小説・初恋・27(如月奏一郎の悲しみ )
ほどなくして如月奏一郎は、父の精神異常に気が付いた。
婚約者を失ってから数日を置いて、性急に見合わせられた遠縁の沙耶宮は、30を越えて手まりをつき、人形を抱く童女だったのだ。
戦慄の婚姻を勧める父に、奏一郎は絶望し、実家に戻ろうとするが、既にそこは家屋すらない更地になっていた。
全て、湖西の歪んだ思惑通りに進む・・・
「お父様は、とてもお寂しい方でした。」
天然痘のあばたが残り、見目は確かに人並みとは行かなかったが、生前、母は父を悪く言わなかった。
「母は、夢を見たのですよ。」
思い返す母の声は、とても優しい。
「物語の光源氏と末摘花のように、いつか心が寄り添う夢。」
「わたくしは、お父様をお慰めする術をもたなかったけれど、いつかお目にかかったら優しくして差し上げてね、奏一郎。」
「あなたは、とてもお父様に似ているから、きっと気に入っていただけるでしょう。」
それで母は、幸せだったのだろうか・・・
母が亡くなったと知らせをやっても、顔すら見せなかった父親。
酷薄な微笑を浮かべて、自分の全てを支配しようとする父は尋常ではなかった。
深く葛藤するうち、やがて奏一郎は不治の病を得る。
初めて吐血したとき、思いがけず父は優しかった。
だがそれが自分を思うのではなく、財産を守る跡継ぎを失う心配でしかないと知ったとき、彼は病床で深く絶望した。
・・・父にとって如月奏一郎の存在理由は、それ以外どこにもなかったのだ。
・・・そんな時、ただ側で見守るしかなかった、童のような妻が懐妊した。
十月十日後。
「おめでとうございます。若様ですよ。」
祝福と共に、絹に包まれ寝屋につれてこられた嬰児と対面し、父親になった奏一郎は顔を覆って涙した。
和子に対面した父親に喜びはなく、あるのは悲嘆の言葉だけだった。
「父上・・・」
「父上・・・。
この子の父親は誰なんです・・・?」
婚約者を失ってから数日を置いて、性急に見合わせられた遠縁の沙耶宮は、30を越えて手まりをつき、人形を抱く童女だったのだ。
戦慄の婚姻を勧める父に、奏一郎は絶望し、実家に戻ろうとするが、既にそこは家屋すらない更地になっていた。
全て、湖西の歪んだ思惑通りに進む・・・
「お父様は、とてもお寂しい方でした。」
天然痘のあばたが残り、見目は確かに人並みとは行かなかったが、生前、母は父を悪く言わなかった。
「母は、夢を見たのですよ。」
思い返す母の声は、とても優しい。
「物語の光源氏と末摘花のように、いつか心が寄り添う夢。」
「わたくしは、お父様をお慰めする術をもたなかったけれど、いつかお目にかかったら優しくして差し上げてね、奏一郎。」
「あなたは、とてもお父様に似ているから、きっと気に入っていただけるでしょう。」
それで母は、幸せだったのだろうか・・・
母が亡くなったと知らせをやっても、顔すら見せなかった父親。
酷薄な微笑を浮かべて、自分の全てを支配しようとする父は尋常ではなかった。
深く葛藤するうち、やがて奏一郎は不治の病を得る。
初めて吐血したとき、思いがけず父は優しかった。
だがそれが自分を思うのではなく、財産を守る跡継ぎを失う心配でしかないと知ったとき、彼は病床で深く絶望した。
・・・父にとって如月奏一郎の存在理由は、それ以外どこにもなかったのだ。
・・・そんな時、ただ側で見守るしかなかった、童のような妻が懐妊した。
十月十日後。
「おめでとうございます。若様ですよ。」
祝福と共に、絹に包まれ寝屋につれてこられた嬰児と対面し、父親になった奏一郎は顔を覆って涙した。
和子に対面した父親に喜びはなく、あるのは悲嘆の言葉だけだった。
「父上・・・」
「父上・・・。
この子の父親は誰なんです・・・?」
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