SとMのほぐれぬ螺旋・4
目元を赤くしてうつむき、耐える蒼太になおも言う。
「なあ。これが、何かわかるか?」
年上の恋人の手の中にあるのは、小さなコードのないリモコンのようだった。
いつも、可愛らしい色の震えるものを、固いつぼみに挿入して時間をかけて解してくれる優しい木本の様子が、どこか違っていた。
「いえ・・・わからないです。それ、使ったことない・・・。」
「無線のバイブレータだよ。見てな。」
「・・・え?」
手のひらで操作した時、木本の肩越しに蒼太の見知らぬ男の頭がびくと揺れたのを見た。
蒼太よりもきっと年上の、細い黒い皮パンが似合う男は、ゆるいウエーブのかかった長い髪を撫で上げこちらを向くと唇をなめた。
上気して潤んだ視線が木本に向けられ、振り向きざま肩口に縋って甘くあえいだ。
「木本さ・・・、もう・・・。俺、もう、ずくずくで、はや・・く、あんたのを入れて。」
ファミリーレストランの奥の喫煙席で、男の頭を抱えて応えるように深く口付ける姿に、蒼太は我慢できず立ち上がった。
「木本・・・さん、この人は誰ですか?」
「セフレかな。もしくは、エロミク。」
にやりと、最愛の男が微笑んだ。
「おまえはガキで、処女みたいにおぼこくて何もやらしてくれないからさ~。こいつにバイブ入れて、いつでも好きなときに突っ込めるように準備させてるんだ。」
「おまえに分かるように言うなら、『調教』?」
「き、もと・・・さん。」
なじろうとして震える声が、奥まで走ってきた子供の声にかき消された。
「お母さーん、このおじちゃんたち、キスしてるーーー!」
店中の視線が、立ち上がった蒼太に一瞬で集まり、人目に晒された蒼太は慌てて座った。
「何だよ。言いたいことがあるんなら、言ってみな。蒼太、おまえにもいつかニップルと、そこに、プリンス・アルバート・・・開けてやるから、楽しみにしてろよ。」
ぶるっと、蒼太の全身が傍目に分かるほど大きく震えた。
木本が自分にくれたのが、本気で尿道口からピアッシングする準備のための、医療用のジブーなのだと知った。
木本の愛に応えるには、これからもこういうことはきっと起こる。
蒼太の切れ長の奥二重が、三日月になって潤んでいた。
「これも、・・・愛?木本さん。」
小さな声で問う蒼太の子猫の瞳が、木本の真意を探って真っ直ぐに向けられていた。
蒼太の頬に、一筋つっと涙が走ったのを木本は認めた。
「さあ、どうだかなぁ・・・。ほら、見てみな。こいつには、もうハファダ が入ってるんだ。(たまたまの包皮にするピアッシング)可愛いよなぁ、俺への従属の証だってさ。似合うだろう?」
喫煙席は 、店の一番奥なので人目はなかったが、 蒼太は自分の想い人が目の前で悠然と自分の知らない男の茎をなぶるのを、無言で眺めていた。
愛する男の手の中で、自分ではなく違う男の持ち物が姿を変え、たらたらと露をこぼすのを眺めるのは辛かった。
ほろほろと蒼太の頬に涙がこぼれるのを眺めて、木本はとうとう年下の恋人に告げた。
「いいか、蒼太?まともに相手ができるようになってから、俺の前に現れろ。」
「いちいち、ぴいぴい泣き喚くようなガキには用はないんだよ。蒼太・・・もともと、沢木の旦那の仕置きで仕方なく抱いたのが初めだったからなぁ。」
癖のない生徒会長の黒髪が、うつむくとはらりと額に落ちた。
「し・・・かたなく・・・?い、今もそう思ってる?」
「ああ。」
愛する三白眼が、否定の言葉を待つ蒼太の心を見透かしていた。
「そのうち、こいつに飽きたら、暇見つけて遊んでやるから。ションベンくさいガキは、さっさとおうちに帰りな。」
蒼太はその答えを聞くと、こわばる指先で何とか財布から千円を抜き取ってその場に置き、ひとつ頭を下げてその場から逃げるように駆けた。
「蒼太!忘れ物!」
木本が与えた黒いケースが、その場に残された。
そばにいた男が、上気した顔を向けてささやいた。
「あ~あ、かわいそうに泣いちゃった。・・・ひどい人だな、木本さん。」
木本の顔も、どこかこわばって見えた。
蒼太くんがもう少し大人だったら、木本さんの気持ちも分かるかもしれないのだけれど、まだ自分のことで精一杯の年齢です。
愛に不器用なのは、意外にも年上の恋人のほうかもしれません。本物見たこと無いですけど、ファンタジーの世界なのでいろいろ書いてます。 此花(//▽//)きゃあ。いたそう・・・
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしました。連載間、お借りいたします。しっとりと物憂げな男性の表情が、色っぽくて素敵です。サディストさんでごめんなさい。愛に溢れている不器用さんです。
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