ずっと君を待っていた・11
「・・・すみません・・・」
ぐっしょりとびしょぬれにしてしまった手前、そう言うしかなく神妙に頭を下げた。
「え・・・と。はじめまして・・・?」
そういいながら、ぼくは御当主の観察をした。
大蛇に見えたので、思わず叫びましたなんて、言えるわけもなく・・・
どうすんの、俺~(・・・ふるっ!)
「湯船に半分沈んでいたから、溺れたのかと思ったが大丈夫そうだな。」
頷くしかなかった。
「まあ、慌ててすくい上げようとしたから、どの道濡れただろう。」
そう言いながら、滴の垂れた袖口を固く絞った。
「あの。迷惑かけて、すみませんでした。」
ぼくは頭を下げ、夕べ一睡も出来なかったと、正直に話した。
「お父さんが・・・父が、何だか要領の得ない話をするので、何だかずっと気になって。」
意外な事に、年若い御当主は声を上げて、楽しげに笑った。
「そうであったか。大方、父御(ててご)が人身御供だなんだと脅したのであろ?」
「違うんですか?」
どこか前時代的な物言いをするご当主に、おそるおそる聞いてみた。
ぼくはそのことで、寝られないほど悩んだのだ。
「今時、人を神への供物にするなど、そんな話を聞いたことがあるか?」
意外と気さくで明るく、話やすそうなのでぼくはすっかり気を良くしていた。
「良かったぁ・・・ちょっとほっとしました。」
「安心しなさい。そなたの嫌がるようなことは何もしないから。」
・・・嫌がらなかったら・・・?と、頭を掠めたけど、そこは考えないようにしないと。
ご当主の雰囲気は柔らかだったけど、「俺、巫女さんになるのはイヤです!」・・・そう言える雰囲気は、その場に皆無だっ
た。
誘われるまま、窓の外を眺めた。
「ここから見えるんだが。ほら、そこに舞台があるだろう。」
指を指す方向に、先ほどの能舞台が見えた。
「海鎚の家では先祖供養に、あそこで神事として、神楽を奉納するんだ。」
「おまえは、古代神楽と言うのを知っているか?」
ぼくは、頷いた。
神楽の名前くらいは、知っている。
近所の神社で、田舎神楽の奉納を見たことがあった。
「面をつけて踊るんですよね?昔話とか、古い伝承の舞いを、奉納しているのを見たことがあります。」
「そうだ。その奉納神楽の舞い手が、一人ずつ稲田家と須田家と本家から選ばれる。」
出雲大社を知っているかと、若い御当主は俺に聞いた。
ひたと据えられたその目は、切れ長の一重か奥二重で典型的な和風の男前だ。
白皙の額が形良くて、太すぎない眉がとても凛々しかった。
ほら、時代劇とか似あいそうだよ、お殿様のちょんまげとかさ。
殿中でござる・・・。
「出雲大社では、古い奉納神楽の形が、今も伝わっている。」
「こことは又、少し違うものだがな。」
ふうん・・・そうなんだ。
親父は訳のわからないことを言っていたが、御当主の話を聞く限り、ぼくが巫女さんの格好をして神楽を舞えばいいだけの話
らしかった。
観光客に見せるわけじゃなし、そんなに深く考えなくてもいいのかな?
ちょっと、気が軽くなった。
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