SとMのほぐれぬ螺旋・8
BL観潮楼秋企画【SとMのほぐれぬ螺旋・8】
周二は松本に、それとなく木本の仕事の様子を聞いていた。
「なんかさ、何とかやってるみたいだけど、無理してるんだろ?あいつ。」
「大丈夫です、周二さん。木本の兄貴が自分で決めたことですから、きっとすぐにもとの兄貴に戻ります。」
いつまでもあのガキに振り回されてる兄貴じゃありませんよと、嬉々として話をする松本に、だったら、もういいかーと、話を振るのをやめた。
人の恋路に関わるのは、誰にとっても多聞に大きなお世話なのだ。
周二が木本に伝えようとした学校での樋渡蒼太の様子は、登校はしているもののまるで人が変わったようだった。
中間テストの順位は変わらず一位だったが、それはこれまでの預貯金で何とか死守したに過ぎない。
総合得点は50点も下がり、みな天才の不調の理由を知りたがった。
生徒会室でぼんやりと時間を過ごし、皆勤更新中だった授業時間にさえ間に合わないこともあった。
自分の恋で精一杯の周二さえ、どこか哀れに思うほど思いつめた顔をしていた。
「樋渡会長。そんなに悲しいのなら、いっそ泣いてください。我慢しているのを、見るのも辛いです。」
蒼太の遅い初恋の相手、書記の沢木隼が書類の整理の手を止めて、可愛らしい顔で憂いの生徒会長の顔をじっと覗き込んできた。
ふいに優しい言葉をかけられただけで、切なくなって樋渡蒼太の目元が滲む。
「沢木・・・。もうね、いっぱい泣いたんだよ。涙ってこんなに出るんだ・・・って、驚くくらい。」
「ううん。一人で泣くんじゃなくて、好きな人の胸で泣いてください。会長、木本さんの前で泣いたことありますか?」
「沢木はあるの?木庭の胸で泣いたこと。」
微笑む一年生は、ぎこちなく単語を操りながら懸命に、蒼太の力になろうとしていた。
沢木隼の恋人は、蒼太の想い人の知り合いだから、きっと二人の別れ話は耳に入っているのだろう。
「ぼく・・・ね。泣いたこともあったけど、今は、いっぱい話をします。一緒にいても、分からないことってたくさんあるから。」
「そう。沢木は木庭と話をいっぱいするの。いいね。ぼくは・・・あの人とどうだったかな。」
忘れようと努力しても忘れられない木本の面影が、まぶたの奥で揺れる。
「考え方も育った環境も違うから、黙っていても分かるはずだって相手に求めるのは、エゴだってパパが言ってました。」
「エゴなの?愛じゃなくて?」
「あのね。会長に上手く伝わるかどうか分からないけど、これはパパの受け売りです。」
「うん。話してみて、沢木。」
「ぼくがね、う~んとおなかがすいて、おうどんが食べたくなってるとするでしょ?」
「でね、おうどんやさんに行って『天ぷらうどんが食べたい!』って、心の中で一生懸命思うでしょ?」
「・・・ああ。」
生徒会室の長椅子の隣に座り一生懸命に話をする沢木隼の目は、幼い子供のように白目が青みがかっている。
こんな風に、懸命に自分の気持ちを伝えようと、自分は木本に近く向かい合ったことがあっただろうか。
「心で天ぷらうどんが食べたいって力いっぱい叫んで、注文をとりに来たお姉さんに『カレーうどん、ください』って小さな声で頼んだら、何が来ると思います?」
「注文したんだから、カレーうどんだろう?」
「そうです、先輩。言葉で伝えたから、来るのはカレーうどんなんです。だからどんなに思っていても、相手には自分の気持ちを言葉で伝えなきゃだめなんです。百万回胸で唱えるよりも、一回言葉にしたほうが伝わります。」
「こんなに好きなんだから分かってくれるはずって、みんな言うけど、好きならなおさらきちんと言わないと・・・パパがね、昔、恋をしたときに、欲しいものは欲しいと言わなきゃ一生伝わらないって、好きな人に言われたんですって。」
「そうか・・・ああ、伝えるってそういうことか。沢木・・・いい子だな。」
「ぼく、話すの下手だから、ちゃんと伝わったら嬉しいです。」
夕日の射す生徒会室で、蒼太ははにかむ初恋相手の言葉に、癒されていた。
隼ちゃん、ぴんくのぞうさんの付いた、ただのあんぽんたんじゃなかった。
ちゃんと言葉を選んで、蒼太くんに励ましの言葉を語ってた。
えらい~ (*⌒▽⌒*) やっぱり、いい子だ~♪ ←親ばか。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
拍手もポチもうれしいです。
ランキングに参加していますので、どうぞよろしくお願いします。 此花←今日も言うことは言う・・・みたいな。
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしています。連載間、お借りいたします。涙ぐむ蒼太に思わず「がんばれ~!」・・・いや、むしろ、がんばれ自分。
周二は松本に、それとなく木本の仕事の様子を聞いていた。
「なんかさ、何とかやってるみたいだけど、無理してるんだろ?あいつ。」
「大丈夫です、周二さん。木本の兄貴が自分で決めたことですから、きっとすぐにもとの兄貴に戻ります。」
いつまでもあのガキに振り回されてる兄貴じゃありませんよと、嬉々として話をする松本に、だったら、もういいかーと、話を振るのをやめた。
人の恋路に関わるのは、誰にとっても多聞に大きなお世話なのだ。
周二が木本に伝えようとした学校での樋渡蒼太の様子は、登校はしているもののまるで人が変わったようだった。
中間テストの順位は変わらず一位だったが、それはこれまでの預貯金で何とか死守したに過ぎない。
総合得点は50点も下がり、みな天才の不調の理由を知りたがった。
生徒会室でぼんやりと時間を過ごし、皆勤更新中だった授業時間にさえ間に合わないこともあった。
自分の恋で精一杯の周二さえ、どこか哀れに思うほど思いつめた顔をしていた。
「樋渡会長。そんなに悲しいのなら、いっそ泣いてください。我慢しているのを、見るのも辛いです。」
蒼太の遅い初恋の相手、書記の沢木隼が書類の整理の手を止めて、可愛らしい顔で憂いの生徒会長の顔をじっと覗き込んできた。
ふいに優しい言葉をかけられただけで、切なくなって樋渡蒼太の目元が滲む。
「沢木・・・。もうね、いっぱい泣いたんだよ。涙ってこんなに出るんだ・・・って、驚くくらい。」
「ううん。一人で泣くんじゃなくて、好きな人の胸で泣いてください。会長、木本さんの前で泣いたことありますか?」
「沢木はあるの?木庭の胸で泣いたこと。」
微笑む一年生は、ぎこちなく単語を操りながら懸命に、蒼太の力になろうとしていた。
沢木隼の恋人は、蒼太の想い人の知り合いだから、きっと二人の別れ話は耳に入っているのだろう。
「ぼく・・・ね。泣いたこともあったけど、今は、いっぱい話をします。一緒にいても、分からないことってたくさんあるから。」
「そう。沢木は木庭と話をいっぱいするの。いいね。ぼくは・・・あの人とどうだったかな。」
忘れようと努力しても忘れられない木本の面影が、まぶたの奥で揺れる。
「考え方も育った環境も違うから、黙っていても分かるはずだって相手に求めるのは、エゴだってパパが言ってました。」
「エゴなの?愛じゃなくて?」
「あのね。会長に上手く伝わるかどうか分からないけど、これはパパの受け売りです。」
「うん。話してみて、沢木。」
「ぼくがね、う~んとおなかがすいて、おうどんが食べたくなってるとするでしょ?」
「でね、おうどんやさんに行って『天ぷらうどんが食べたい!』って、心の中で一生懸命思うでしょ?」
「・・・ああ。」
生徒会室の長椅子の隣に座り一生懸命に話をする沢木隼の目は、幼い子供のように白目が青みがかっている。
こんな風に、懸命に自分の気持ちを伝えようと、自分は木本に近く向かい合ったことがあっただろうか。
「心で天ぷらうどんが食べたいって力いっぱい叫んで、注文をとりに来たお姉さんに『カレーうどん、ください』って小さな声で頼んだら、何が来ると思います?」
「注文したんだから、カレーうどんだろう?」
「そうです、先輩。言葉で伝えたから、来るのはカレーうどんなんです。だからどんなに思っていても、相手には自分の気持ちを言葉で伝えなきゃだめなんです。百万回胸で唱えるよりも、一回言葉にしたほうが伝わります。」
「こんなに好きなんだから分かってくれるはずって、みんな言うけど、好きならなおさらきちんと言わないと・・・パパがね、昔、恋をしたときに、欲しいものは欲しいと言わなきゃ一生伝わらないって、好きな人に言われたんですって。」
「そうか・・・ああ、伝えるってそういうことか。沢木・・・いい子だな。」
「ぼく、話すの下手だから、ちゃんと伝わったら嬉しいです。」
夕日の射す生徒会室で、蒼太ははにかむ初恋相手の言葉に、癒されていた。
隼ちゃん、ぴんくのぞうさんの付いた、ただのあんぽんたんじゃなかった。
ちゃんと言葉を選んで、蒼太くんに励ましの言葉を語ってた。
えらい~ (*⌒▽⌒*) やっぱり、いい子だ~♪ ←親ばか。
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