SとMのほぐれぬ螺旋・6
BL観潮楼秋企画【SとMのほぐれぬ螺旋・6】
一方、こちら木本の周囲でも誰もが、様子がおかしいと気がついていた。
国際ライセンスを持っている男が、車庫入れに失敗して高級外車のテールランプを割った。
傷ついたバンパーを眺めて、木本は呆然としている。
「俺、木本さんの名誉のためにも、絶対誰にも言いませんから!」
松本の励ましにも、ただ虚ろな目を向け困ったように肩をすくめただけだった。
仕事のほうも、心ここにあらずという様子で、ショーに出るM女が切れた。
「ちょっと。なめないで欲しいわね。真性Sだっていうから期待してきたのに、縄抜けできそうな緩い縛りなんて冗談じゃないわ。」
「言っておくけどこんな生温いショーじゃ、金も取れないし、あたしどころか客だって誰も満足しないわよ。」
「兄貴は今、体調不良なんですみません。本当に、すみません。代役を直ぐに立てますんで、勘弁してやってください。」
木本が役にたたないので、松本がM女に必死に謝って、周二の知り合いの縄師に無理を言って来てもらった。
会員制のマニアックなショーはいつも木本が仕切り、常にキャンセル待ちが出るほど盛況で、嗜虐の熟れた舞台は一度目にしたものは必ず次も・・・とねだるほど洗練されていたのだ。
「・・・なあ、あいつどうしちゃったんだ?」
周二の問いに、松本はあっさりと、木本が想い人と別れたんだと打ち明けた。
「え、生徒会長と、別れたのか?あんなにいちゃこらしてたのに、何で?」
生徒会長と別れて以来、木本はずっとこの調子で腑抜けたようになっている。
周二は、二人の相性の良さそうな睦み合う様子を垣間見たことがあったから、別れたのは意外だった。
それから2、3日後、木本はSMショーで生ぬるいといわれ意地になって鞭を振るい、とうとう出演者に病院へ担ぎ込ませるほどの擦過傷を負わせた。
嗜好ではなくショーとして、ぎりぎりのところで駆け引きをして、相手が理性を失い感情の赴くままに堕ちるのを引き出す天才といわれた木本が、今や色をなくしていた。
どんな出演者にも、絶対の信頼を得ていたはずの木本が、舞台で病院送りにした話を聞いて、いまや出演者が二の足を踏む始末だ。
「兄貴・・・何、やってんだよ。」
男も女も手玉にとって落とし方(くどき)のマニュアルムービーまで作ったやつが、たがだか高校生相手に骨抜きにされていると思うと松本は腹立たしくて堪らなかった。
商売においても、揉め事においても尊敬すべき兄貴分のこの体たらくはどうだ。
こうなると、蒼太まで憎らしくなってくる。
「木本の兄貴!」
「んー・・・?」
ぼうっと、ソファに深く沈み込んで木本は視線だけをやるせなく松本に向けた。
「いったい、どうしたんです?あんなションベンくさいガキとの色恋をここまで引っ張るなんて、兄貴らしくも無い。」
「どこまでも自信に溢れて、腹立つほど高慢ちきなドSの兄貴はどこに行っちまったんですか?」
木本は激昂する松本に、薄く笑ったがその目は力なく潤んでいるようだった。
ほっと深くひとつため息をつくと、肩を落としてソファに沈み込んでいた。
その頬には、無精ひげがうっすらと浮かび、その横顔を眺めて松本は悲しくなった。
「まともに飯も食ってないみたいだし、このままやつれていく兄貴を見てるのなんてごめんですからね。」
「・・・蒼太を忘れられないって言うんなら、俺が・・・俺が忘れさせてあげます。」
思いつめた表情の松本が、木本ににじり寄った。
恋する男はみんな不器用で、相手を思うもどかしさが切ないです。
大人って、面倒くさいですね~・・・好きなら好きでいいのにね。
このちょっと弱った横顔に、きゅんきゅんします。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
拍手もポチもうれしいです。
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしました。連載間、お借りいたします。しっとりと物憂げな男性の表情が、色っぽくて素敵です。秘かに愛に溢れている不器用さんです。
一方、こちら木本の周囲でも誰もが、様子がおかしいと気がついていた。
国際ライセンスを持っている男が、車庫入れに失敗して高級外車のテールランプを割った。
傷ついたバンパーを眺めて、木本は呆然としている。
「俺、木本さんの名誉のためにも、絶対誰にも言いませんから!」
松本の励ましにも、ただ虚ろな目を向け困ったように肩をすくめただけだった。
仕事のほうも、心ここにあらずという様子で、ショーに出るM女が切れた。
「ちょっと。なめないで欲しいわね。真性Sだっていうから期待してきたのに、縄抜けできそうな緩い縛りなんて冗談じゃないわ。」
「言っておくけどこんな生温いショーじゃ、金も取れないし、あたしどころか客だって誰も満足しないわよ。」
「兄貴は今、体調不良なんですみません。本当に、すみません。代役を直ぐに立てますんで、勘弁してやってください。」
木本が役にたたないので、松本がM女に必死に謝って、周二の知り合いの縄師に無理を言って来てもらった。
会員制のマニアックなショーはいつも木本が仕切り、常にキャンセル待ちが出るほど盛況で、嗜虐の熟れた舞台は一度目にしたものは必ず次も・・・とねだるほど洗練されていたのだ。
「・・・なあ、あいつどうしちゃったんだ?」
周二の問いに、松本はあっさりと、木本が想い人と別れたんだと打ち明けた。
「え、生徒会長と、別れたのか?あんなにいちゃこらしてたのに、何で?」
生徒会長と別れて以来、木本はずっとこの調子で腑抜けたようになっている。
周二は、二人の相性の良さそうな睦み合う様子を垣間見たことがあったから、別れたのは意外だった。
それから2、3日後、木本はSMショーで生ぬるいといわれ意地になって鞭を振るい、とうとう出演者に病院へ担ぎ込ませるほどの擦過傷を負わせた。
嗜好ではなくショーとして、ぎりぎりのところで駆け引きをして、相手が理性を失い感情の赴くままに堕ちるのを引き出す天才といわれた木本が、今や色をなくしていた。
どんな出演者にも、絶対の信頼を得ていたはずの木本が、舞台で病院送りにした話を聞いて、いまや出演者が二の足を踏む始末だ。
「兄貴・・・何、やってんだよ。」
男も女も手玉にとって落とし方(くどき)のマニュアルムービーまで作ったやつが、たがだか高校生相手に骨抜きにされていると思うと松本は腹立たしくて堪らなかった。
商売においても、揉め事においても尊敬すべき兄貴分のこの体たらくはどうだ。
こうなると、蒼太まで憎らしくなってくる。
「木本の兄貴!」
「んー・・・?」
ぼうっと、ソファに深く沈み込んで木本は視線だけをやるせなく松本に向けた。
「いったい、どうしたんです?あんなションベンくさいガキとの色恋をここまで引っ張るなんて、兄貴らしくも無い。」
「どこまでも自信に溢れて、腹立つほど高慢ちきなドSの兄貴はどこに行っちまったんですか?」
木本は激昂する松本に、薄く笑ったがその目は力なく潤んでいるようだった。
ほっと深くひとつため息をつくと、肩を落としてソファに沈み込んでいた。
その頬には、無精ひげがうっすらと浮かび、その横顔を眺めて松本は悲しくなった。
「まともに飯も食ってないみたいだし、このままやつれていく兄貴を見てるのなんてごめんですからね。」
「・・・蒼太を忘れられないって言うんなら、俺が・・・俺が忘れさせてあげます。」
思いつめた表情の松本が、木本ににじり寄った。
恋する男はみんな不器用で、相手を思うもどかしさが切ないです。
大人って、面倒くさいですね~・・・好きなら好きでいいのにね。
このちょっと弱った横顔に、きゅんきゅんします。
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木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしました。連載間、お借りいたします。しっとりと物憂げな男性の表情が、色っぽくて素敵です。秘かに愛に溢れている不器用さんです。
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