SとMのほぐれぬ螺旋・5
BL観潮楼秋企画【SとMのほぐれぬ螺旋・5】
蒼太が、木本のほうを振り返ることはなかった。
明晰な頭脳で学校中から羨望の眼差しを送られる、自信に溢れた生徒会長の姿は、今やどこにもない。
雑踏の中を走ってゆくのは、手ひどい失恋で傷ついた一人の高校生だった。
『・・・まともに(セクスの)相手ができるようになってから、俺の前に現れろ。』
引きつった顔を背けて、逃げるように駆ける蒼太の脳内では、木本の言葉がずっと繰返されていた。
生まれて初めて、親以外に肌を合わせた男だった。
手酷いこともされたし傷だらけにもなったが、それでも最後には名前を呼んで、頭をなぜながら「蒼太は、いい子だな・・・」と抱きしめてくれるのが支えになった。
最初はどうでも愛に飢えた蒼太は、木本を真実の恋の相手だと思って慕っていた。
「これが愛」かと問えば、少し照れたように肯いてくれた。
それなのに、どうして・・・?
どうして・・・?
目の前で他の男をなぶる木本の冷ややかな視線が、蒼太を深く傷つけていた。
いつも、年上の恋人につり合う自分になりたかった。
何も知らないで慕うだけの幼い自分が、大人の木本には重荷になったのだろうか。
ひたすら求めるだけで、返すすべを持たない自分に、腹が立ったのだろうか。
不確かな「愛」を常に口にする、女のような繰言が不快だったのだろうか。
思い当たる山ほどの答えに攻め立てられるように、涙ににじむ世界を流れるように蒼太は、ひたすら黙々と早足で歩いていた。
「あ・・・あのプレゼント、置いてきちゃった。どうしよう。」
もしかするともう一度会う口実になるかと考えたが、あまりに子供っぽくていやになる。
年上の恋人は、これからきっとあの黒い皮パンの青年と長い夜を過ごすのだ。
「・・・うっ・・・えっ・・・」
絡み合う二人のことを考えただけで、咽喉元からこらえ切れない嗚咽が、切なくこぼれた。
木本が自分と別れる決心をした高架の上に知らずにたたずみ、蒼太は声を抑えて泣いていた。
さっきまで、恋人と自分の世界は陽にあふれ喜びに満ちていたのに、いまや孤独の奈落に転がり落ちそうな蒼太だった。
ぐいと涙を拭いた手に残る、変色した数本の痣は戒められた重い枷の痕だ。
お仕置きベッドに、四肢を拘束されて愛された名残だった。
木本が自分に付けた傷すら愛おしく、蒼太はまた新しい涙に濡れた。
「木・・本さん・・、木本・・・さん・・っ・・・」
癒えかけた傷に歯を当てれば、木本の声が聞こえる気がする。
「いたっ・・・」
『痛いの好きだよなぁ、蒼太・・・』
口の中に、木本の好きな血の味が広がった。
違う・・・、蒼太は、いつも木本に言いたかった。
『ぼくが好きなのは、痛みではなくあなたです。』
『道具も何も必要ない、あなただけが、欲しいんです。』
「木本、さんっ・・・うっ・・・うぇっ・・・」
樋渡蒼太、人生二度目の失恋はあまりに大きすぎた。
恋に不慣れな蒼太くんは、どうしていいのか分からないようです。
一生懸命だけど、どこか空回りしています。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
拍手もポチもうれしいです。
ランキングに参加していますので、どうぞよろしくお願いします。 此花
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしました。連載間、お借りいたします。しっとりと物憂げな男性の表情が、色っぽくて素敵です。サディストさんでごめんなさい。愛に溢れている不器用さんです。
蒼太が、木本のほうを振り返ることはなかった。
明晰な頭脳で学校中から羨望の眼差しを送られる、自信に溢れた生徒会長の姿は、今やどこにもない。
雑踏の中を走ってゆくのは、手ひどい失恋で傷ついた一人の高校生だった。
『・・・まともに(セクスの)相手ができるようになってから、俺の前に現れろ。』
引きつった顔を背けて、逃げるように駆ける蒼太の脳内では、木本の言葉がずっと繰返されていた。
生まれて初めて、親以外に肌を合わせた男だった。
手酷いこともされたし傷だらけにもなったが、それでも最後には名前を呼んで、頭をなぜながら「蒼太は、いい子だな・・・」と抱きしめてくれるのが支えになった。
最初はどうでも愛に飢えた蒼太は、木本を真実の恋の相手だと思って慕っていた。
「これが愛」かと問えば、少し照れたように肯いてくれた。
それなのに、どうして・・・?
どうして・・・?
目の前で他の男をなぶる木本の冷ややかな視線が、蒼太を深く傷つけていた。
いつも、年上の恋人につり合う自分になりたかった。
何も知らないで慕うだけの幼い自分が、大人の木本には重荷になったのだろうか。
ひたすら求めるだけで、返すすべを持たない自分に、腹が立ったのだろうか。
不確かな「愛」を常に口にする、女のような繰言が不快だったのだろうか。
思い当たる山ほどの答えに攻め立てられるように、涙ににじむ世界を流れるように蒼太は、ひたすら黙々と早足で歩いていた。
「あ・・・あのプレゼント、置いてきちゃった。どうしよう。」
もしかするともう一度会う口実になるかと考えたが、あまりに子供っぽくていやになる。
年上の恋人は、これからきっとあの黒い皮パンの青年と長い夜を過ごすのだ。
「・・・うっ・・・えっ・・・」
絡み合う二人のことを考えただけで、咽喉元からこらえ切れない嗚咽が、切なくこぼれた。
木本が自分と別れる決心をした高架の上に知らずにたたずみ、蒼太は声を抑えて泣いていた。
さっきまで、恋人と自分の世界は陽にあふれ喜びに満ちていたのに、いまや孤独の奈落に転がり落ちそうな蒼太だった。
ぐいと涙を拭いた手に残る、変色した数本の痣は戒められた重い枷の痕だ。
お仕置きベッドに、四肢を拘束されて愛された名残だった。
木本が自分に付けた傷すら愛おしく、蒼太はまた新しい涙に濡れた。
「木・・本さん・・、木本・・・さん・・っ・・・」
癒えかけた傷に歯を当てれば、木本の声が聞こえる気がする。
「いたっ・・・」
『痛いの好きだよなぁ、蒼太・・・』
口の中に、木本の好きな血の味が広がった。
違う・・・、蒼太は、いつも木本に言いたかった。
『ぼくが好きなのは、痛みではなくあなたです。』
『道具も何も必要ない、あなただけが、欲しいんです。』
「木本、さんっ・・・うっ・・・うぇっ・・・」
樋渡蒼太、人生二度目の失恋はあまりに大きすぎた。
恋に不慣れな蒼太くんは、どうしていいのか分からないようです。
一生懸命だけど、どこか空回りしています。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
拍手もポチもうれしいです。
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
木本さんのイメージは、カロリーハーフchobonさんの素敵おじさま祭りからお借りしました。連載間、お借りいたします。しっとりと物憂げな男性の表情が、色っぽくて素敵です。サディストさんでごめんなさい。愛に溢れている不器用さんです。
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