ずっと君を待っていた・20
諦めて周囲を眺めれば、見渡す限りの低い野山と、斜めに薄い雲が流れるどこまでも青い空が広がっていた。
肺に染み込むように、美しく透明に澄んだ空気が、現代と時代が違うのだと俺に告げる。
目には見えないけれど、今ぼくがいる場所とは、空気の色さえも違う気がする、そんな感じ。
俺はきっと、今映画のフィルムに焼かれていない観客だ。
こちらから見えるけど、向こうの住人には見えていない、きっと。
広がる稲田は、黄金に色づき人々は手仕事で従事する。
農機具は粗末で、作業は重労働だ。
非力なぼく・・・じゃなくて、クシナダヒメが稲わらを束ねるのに苦労しているが、その背後から力強い筋肉質の男の手が添えるように伸びる。
「力仕事は、我が来るまで置いておくようにと言ったはずだが。」
「オロチ。」
俺に似た顔の娘は振り向くと、この上なく蕩けるように、嬉しそうに笑いかけた。(しかも、ごく自然に)
「ありがとう。でも、日があるうちに刈り取った稲を稲木に掛けたいの。」
娘の額の汗を、眩しげに見やりながら、オロチと呼ばれたご当主にそっくりの男は、黙々と力のいる作業に精を出した。
小一時間も経った頃、稲わらはすべて天日干しにされ、稲木は太陽に向かって並んだ。
「今年は日照りになりそうだったのに、オロチのおかげで水が間に合ったから、豊作になった。」
「ありがとう、竜神さま。」
自分に向かって手を合わせる愛する娘に、目を細める人外の男の名は、高志之八俣遠呂知(ヤマタノオロチ)という。
八つの峰と谷、大海を支配する、れっきとした龍神の息子だった。
娘の名は、櫛名田比売(クシナダヒメ)。
こちらは、稲田を守る豊穣の女神であった。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
龍神は元来乱暴者で、過去には戯れに川を氾濫させたこともあった。
いつしか、里で出会ったクシナダヒメの諌(いさ)めを聞くようになり、田畑で働く人々の願いにも耳を傾けるようになった。
美しいクシナダヒメの喜ぶ顔が見たくて、オロチは人中に混ざり汗をかくこともいとわなかった。
人に理不尽な責めばかり与えていた、水の神がいつくしみを知った。
若い龍の眷属の初めての恋は、人の世に五穀豊饒を約束し、里の野山は潤っていた。
「先ほど、海の底の宮城で、父上に会ってきた。」
妻に迎えたい娘がいると話をして来たと龍神は告げ、それはまるで人間の幼い恋のように、そっと大切に扱われた。
花のように唇がほころび、あまやかな声が背筋をくすぐった。
「あぁ、海神様はなんとおっしゃったの、オロチ。」
「先年の川の氾濫を、我が人々に害をなし狼藉を働いたとお怒りであったのだが、今回の水防工事を手助けした事でお許しを貰った。」
「海神はそなたといる我を、好ましいといわれた。」
晴れ晴れとオロチは告げた。
「海神は、我とそなたの婚儀を、喜んで認めてくださるそうじゃ。」
「あぁ・・・オロチ。なんと、うれしいこと。」
頬を染めてクシナダヒメは、人の形の恋人オロチの胸に抱かれた。
力強い男の声は降り注ぐ慈雨のように、クシナダヒメの耳元で甘露となる。
「地上に生きる全ての命を、そなたを愛でるように慈しむと誓う。」
「クシナダ。我はこの世の果てが来るまで、終生そなたと共に・・・。」
娘の頬を、清らかな涙が伝う。
・・・こうして、厳かに神々の二世は誓われた。
大地の女神と水の男神の婚姻は、とても自然なことだった。
オロチは、そっと銀鱗の煌く腕を伸ばし、田仕事で荒れた娘の手を包み込んだ。
「この働き者の娘の手にかけて、我は二度と人を裏切らぬ。」
「クシナダ。我とともに永久(とこしえ)を生きよう。」
********************************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、がんばります。 此花
昨日は(正しくは一昨日)は、うっかり愚痴ってしまってごめんなさい。
でもたくさんの方から、お話を聞かせていただいたり、励ましていただいたりしてとてもありがたかったです。
世の中はいろいろな人が居て、当たり前だけどそのすべての人と上手く行くのは難しいですけど、少なくとも今よりは注意を払って、気をつけてゆこうと思います。
体験談とか聞かせていただいて、思わず・・・Σ!!な話もありました。でも不思議とこちらの世界にいる人のほうが優しいと感じるのは何故なんだろう・・・
先日、会員制の乱交ぱーてぇが発覚して、大勢逮捕されたと雑誌で書いてありました。此花、思わず「何で?個人の自由じゃないの?」←心の中で。しかも出てこないだけで、全国的に組織はたくさんあるんですって。おお~~~!メモメモ・・・
・・・順調に「腐脳」になっております。(//▽//)きゃあ。
肺に染み込むように、美しく透明に澄んだ空気が、現代と時代が違うのだと俺に告げる。
目には見えないけれど、今ぼくがいる場所とは、空気の色さえも違う気がする、そんな感じ。
俺はきっと、今映画のフィルムに焼かれていない観客だ。
こちらから見えるけど、向こうの住人には見えていない、きっと。
広がる稲田は、黄金に色づき人々は手仕事で従事する。
農機具は粗末で、作業は重労働だ。
非力なぼく・・・じゃなくて、クシナダヒメが稲わらを束ねるのに苦労しているが、その背後から力強い筋肉質の男の手が添えるように伸びる。
「力仕事は、我が来るまで置いておくようにと言ったはずだが。」
「オロチ。」
俺に似た顔の娘は振り向くと、この上なく蕩けるように、嬉しそうに笑いかけた。(しかも、ごく自然に)
「ありがとう。でも、日があるうちに刈り取った稲を稲木に掛けたいの。」
娘の額の汗を、眩しげに見やりながら、オロチと呼ばれたご当主にそっくりの男は、黙々と力のいる作業に精を出した。
小一時間も経った頃、稲わらはすべて天日干しにされ、稲木は太陽に向かって並んだ。
「今年は日照りになりそうだったのに、オロチのおかげで水が間に合ったから、豊作になった。」
「ありがとう、竜神さま。」
自分に向かって手を合わせる愛する娘に、目を細める人外の男の名は、高志之八俣遠呂知(ヤマタノオロチ)という。
八つの峰と谷、大海を支配する、れっきとした龍神の息子だった。
娘の名は、櫛名田比売(クシナダヒメ)。
こちらは、稲田を守る豊穣の女神であった。
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龍神は元来乱暴者で、過去には戯れに川を氾濫させたこともあった。
いつしか、里で出会ったクシナダヒメの諌(いさ)めを聞くようになり、田畑で働く人々の願いにも耳を傾けるようになった。
美しいクシナダヒメの喜ぶ顔が見たくて、オロチは人中に混ざり汗をかくこともいとわなかった。
人に理不尽な責めばかり与えていた、水の神がいつくしみを知った。
若い龍の眷属の初めての恋は、人の世に五穀豊饒を約束し、里の野山は潤っていた。
「先ほど、海の底の宮城で、父上に会ってきた。」
妻に迎えたい娘がいると話をして来たと龍神は告げ、それはまるで人間の幼い恋のように、そっと大切に扱われた。
花のように唇がほころび、あまやかな声が背筋をくすぐった。
「あぁ、海神様はなんとおっしゃったの、オロチ。」
「先年の川の氾濫を、我が人々に害をなし狼藉を働いたとお怒りであったのだが、今回の水防工事を手助けした事でお許しを貰った。」
「海神はそなたといる我を、好ましいといわれた。」
晴れ晴れとオロチは告げた。
「海神は、我とそなたの婚儀を、喜んで認めてくださるそうじゃ。」
「あぁ・・・オロチ。なんと、うれしいこと。」
頬を染めてクシナダヒメは、人の形の恋人オロチの胸に抱かれた。
力強い男の声は降り注ぐ慈雨のように、クシナダヒメの耳元で甘露となる。
「地上に生きる全ての命を、そなたを愛でるように慈しむと誓う。」
「クシナダ。我はこの世の果てが来るまで、終生そなたと共に・・・。」
娘の頬を、清らかな涙が伝う。
・・・こうして、厳かに神々の二世は誓われた。
大地の女神と水の男神の婚姻は、とても自然なことだった。
オロチは、そっと銀鱗の煌く腕を伸ばし、田仕事で荒れた娘の手を包み込んだ。
「この働き者の娘の手にかけて、我は二度と人を裏切らぬ。」
「クシナダ。我とともに永久(とこしえ)を生きよう。」
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いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、がんばります。 此花
昨日は(正しくは一昨日)は、うっかり愚痴ってしまってごめんなさい。
でもたくさんの方から、お話を聞かせていただいたり、励ましていただいたりしてとてもありがたかったです。
世の中はいろいろな人が居て、当たり前だけどそのすべての人と上手く行くのは難しいですけど、少なくとも今よりは注意を払って、気をつけてゆこうと思います。
体験談とか聞かせていただいて、思わず・・・Σ!!な話もありました。でも不思議とこちらの世界にいる人のほうが優しいと感じるのは何故なんだろう・・・
先日、会員制の乱交ぱーてぇが発覚して、大勢逮捕されたと雑誌で書いてありました。此花、思わず「何で?個人の自由じゃないの?」←心の中で。しかも出てこないだけで、全国的に組織はたくさんあるんですって。おお~~~!メモメモ・・・
・・・順調に「腐脳」になっております。(//▽//)きゃあ。
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