ずっと君を待っていた・28
もしかすると、普段使わない頭でいっぱい考えたから、頭が痛くなったのかもしれないけど・・・今は、そんなことどうでも良かった。
さっき見た映像は、きっとオロチが渡した鏡に閉じ込められていた信実だ。
一撃でスサノオの頭を打ち砕く機会があったのに、結局オロチは命がけでクシナダヒメを守ったんだ。
スサノオの水連(みずら)に結った頭に、誰よりも大切な愛おしいクシナダヒメが赤い櫛に姿を変えられて、挿してあったから自分を犠牲にした。
でもね、ぼくも子どものとき読んだ神話物語で、知っているけどね。
もしかすると、親父やお袋が何か思って、寝物語に読ませて刷り込んだのかもしれないけど。
その後、涙を拭いたクシナダヒメはスサノオと結婚して、驚くほど多くの神々を生んだんだよ。
きっと小蛇になったオロチは側にいて、長いこと自分の力が戻るまでそんなクシナダヒメを見守るしかなかったんだ。
大好きな彼女が、自分の恋敵と結婚して子供を生み育ててゆくのを、ずっと眺めているしかないなんて・・・
きっと、優しい笑顔を向けたこともあったはずだ。
だって、ぼくの知っているクシナダヒメは過去を思い起こして泣いてばかりいるような、儚げなお姫さまじゃなくて、すべてに優しい大地の神さまだったんだもの。
胸が痛んだ。
「ごめん、オロチ・・・ごめん。不実でごめん。」
ぼくが直接裏切ったわけじゃないし、全てが仕方がなかったことなのだとしても、謝らずにはいられなかった。
どこまでが本当で、どこまでが作り話かも分からない、うんと古代の話なのに。
うつむいたまま、俺はずっとオロチの膝に頭をくっつけて謝っていたような気がする。
オロチの先の割れた舌が、そっと唇に触れた。
これって、この間の「口を吸う」ってやつ・・・キスだ。
唇を滑り、緩く舌に絡みつくオロチの割れた舌・・・・う~・・・・
口を貪るように蹂躙されて、思わず握りこぶしに力を込めた。
きっと記憶を持ったまま、長いこと待っていたんだと思ったら、この位我慢できた。
なんとも・・・ない・・・このくらい。
なぞってゆく舌が、ちょっと気持ちいいかもしれない・・・
なんともない・・・我慢できるよ。
なん・・・うっ、息が出来ないっ!
長いっ!キス、長いってっ!
酸欠で死ぬっ!
口の中で、長い(?)舌が行ったり来たりした挙句、ぼくの舌の奥に巻き付くと、引き抜くように強く絡みついた。
気持ちいいかもしれないけど、息が出来なくて・・・目の前が白くなってゆく・・・
「・・・おいっ!いい加減にしろよっ。」
「そんな気合入れて、思いっきり吸い付いたら、息できないだろっ!」
どんとぼくに胸を突かれた海鎚家御当主は、ぺたりと尻餅をつき、片方の眉を上げて不器用に笑顔を作った。
「なぜ、息を止める必要があるのだ?顔の真ん中についているそれは、おそらく呼吸に使うものだと思うがな。」
しょうがないじゃんか。キスするときにどこで息するかなんて、考えたことないし。
「できないもんは、できないのっ!」
「クシナダは、もっと柔らかくて抱き心地良かったんだが、そなたは骨っぽい。口を吸うのも知らぬとは、やはりそなたは生地のままの無垢な赤子だ。」
うわ~・・・むかつく~
「骨っぽくて、悪かったなっ!これでも一応男だ。引きずった過去の女と一緒にすんなよっ!」
・・・しまった、言い過ぎたと思ったけど、もう遅い。
真剣な顔で、海鎚家御当主は、無垢を褒めているのだが・・・と寂しげに言った。
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