続・はつこい【如月奏の憂鬱】・1
それもまた、「愛」と呼ぶべきなのだろう。
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煌く明治。
はるか欧羅巴に渡欧した留学生達の胸は、甘い期待と興奮で高鳴っていた。
大志に胸を膨らませて長旅を終え新天地に上陸した後、晴れ晴れしく各々、自分の学ぶ先へと向かう。
美貌の青年、如月奏(きさらぎ かなで)の降り立った倫敦の町は、昼というのに雲は厚く垂れ込め、湿気はまといつくように重かった。
如月奏(きさらぎ かなで)にとっての学生生活は、日本での暮らしと何の変わり映えもしないどころか、この町の空気にも似た鬱とおしい好奇心に晒されることから始まった。
故国にいたときの、金がらみのおもねるような媚びた視線こそないものの、留学先の大学生の中には衣類の下まで覗き込もうとするような不躾な手合いも多い。
時々背筋に怖気が走るような目に、何度も遭っていた。
ほおっておいてくれれば良いものを、日本での生活以上に煩わしい人間が多い。
東洋の島国からやってきた、官費留学を勝ち取ったほどの明晰な頭脳を持つ、綺麗なお人形の中身を皆知りたがった。
今、足元でうずくまって呻いている大男に、侮蔑の目線をくれながら奏は、友人の湖上颯(こじょう はやて)の予言が満更外れていなかったことに、苛立っていた。
「自分の身ぐらいは、自分で守れるようにしておいたほうがいい。」
「如月は、あまりにも無防備すぎるからな。」
数日前、湖上颯は、船室で上陸の支度をする奏に向かってそういったのだ。
「いいかい、周囲を眺めてご覧よ。西洋人というのは、ほとんどが君よりもはるかに大男だろう?君の、その女のような細腕など、一まとめでへし折られてしまうだろうよ。」
奏は怒りに赤くした頬を向けると、震える唇をきゅっと噛み締めて、言葉を選んだ。
武家出身の颯と違い、公家華族の自分が極めて非力なのは、当然知っていたが馬鹿にされて黙っていられるような性格ではない。
この華奢な美貌の実業家は、外面如菩薩、内面如夜叉というとんでもない激しさを秘めていた。
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新しいお話です。
カテゴリーの中にあります【はつこい】の続編です。
過去作品をお読みいただかなくても、大丈夫なようにがんがん加筆しました。
お読みいただけると嬉しいです。
実はこの作品の主人公は、此花のお気に入りです。
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