続・はつこい 如月奏の憂鬱・4
「ひ・・・どいじゃないか。僕はただ友人として、親愛の情を表しただけなのに。」
「ふ・・・ん。」
冷ややかな視線が、ちらりと落された。
********************************
「僕は身体に触らないで下さいと、あなたに何度もお願いしたはずです。」
男は初めて机を並べた学友だった。
東洋からの珍しい留学生に興味を示し、必要以上に親しくなろうとしたのが彼の大きな失敗だった。
モンテスキュウ教授の言葉は、気の毒なほど的を得ていた。
べたべたと、背後から必要以上にあちこち触られて、とうとう奏の我慢の限界は、沸点に達してしまったのだ。
「でもね、奏さまにしては、よく辛抱されたほうですよ。」と、小姓の白雪は後日、颯に語った。
「重ねて言っておきます。いいですか?僕はあなたの国に勉学のためにきたのであって、あなたと親愛を深めるつもりはない。」
傍らの白雪が、言葉を足した。
「お相手を、間違えたようですね。・・・大丈夫ですか・・・?お気の毒に。」
赤毛の大男は、股間を押さえて、のろのろと立ち上がった。
颯に教わった、護身術は見事に役に立っていた。
白雪が、洋袴の埃を払ってやった。
「き、君は、友人を作る気もないのかっ・・・?」
「生憎ですが・・・学ぶべきことが多くあるというのに、それらを差し置いてまで、英国人の友人を欲しいとは思いません。」
「あなたが欲しいのは、友人ではなく愛人ではないのですか?僕のように、線が細くて女性のようにたおやかな方がお好みでしたら、他にもいるじゃありませんか。」
「たとえば、東の塔にはヨシュアという貴族の美しい安所(天使)がいると、聞きましたよ。蜂蜜色の柔らかい前髪を払う仕草が神々しいばかりだとか。そちらに伺えば、よろしいのです。」
この男には気の毒だったが、実際、奏の苛立ちももっともだった。
何しろ、奏は寝る時間も削って、必死で学んでいたのだ。
英国に上陸前、颯に苦言を呈されて以来、こうして孤高に学ぶ姿勢を見せることが、煩わしい干渉を避けると、奏は一途に思っていた。
その考えは確かに多少、楽観的過ぎると言わざるをえない…と、奏はのちに認識の甘さを知ることになる。
やがて、取り付くしまのない東洋のつややかな陶器の肌の人形は、かえって誰の手に落ちるかという下賤な賭けの対象になってしまう。
高級な磁器人形が一体誰の持ち物になるか、留学生には理解できない隠語が飛び交った。
自尊心の高い奏には、多少柔らかな対応が出来るようになったとはいえ、激高しないでいるには随分骨が折れた。
周囲が静かなのは、授業中だけだった。
その後、正当な英語しか理解できない留学生の周囲で、おおっぴらに飛び交う隠語は下劣な計画となり、奏に迫る危険を告げていた。
*********************************
べたべた触られて、奏切れました~ヾ(。`Д´。)ノ彡☆「触るな~~~!」
でも、きれいな人がそこにいたら、ちょっと触ってみたくなるよね。
この後、大丈夫かな。
拍手もポチもありがとうございます。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。
- 関連記事
-
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・14 (2011/01/24)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・13 (2011/01/23)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・12 (2011/01/22)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・11 (2011/01/21)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・10 (2011/01/20)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・9 (2011/01/19)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・8 (2011/01/18)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・7 (2011/01/17)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・6 (2011/01/16)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・5 (2011/01/15)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・4 (2011/01/14)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・3 (2011/01/13)
- 続・はつこい 如月奏の憂鬱・2 (2011/01/12)
- 続・はつこい【如月奏の憂鬱】・1 (2011/01/12)
- 続・はつこい【如月奏の憂鬱】作品概要 (2011/01/12)
- 如月奏の物語(明治) >
- 如月奏の憂鬱
- 12
- 0