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続・はつこい 如月奏の憂鬱・13 

颯は顔を赤らめて頭をかく、ウィリアムを信用することにした。
全員の名誉のために、婦人が身を守る為の護身術とは、言わぬが花のようだ。

*************************

こうなると残る問題は、奏の腕から離れない赤ん坊の事だけだ。
白雪は翌朝すぐに役人に届け、付近の村を子供の身内がいないか訪ねて回ったが、親の噂は皆無だった。

確かなものではなかったが、たった一つ近くの小屋に流れ者の娼婦が住み着き、子供を生んだという話を聞いてきた。
しかも、母親は産後満足な手当てが受けられず、数ヵ月後に亡くなったということだった。
不幸な子供は、近隣の乳の出るものが面倒を見てやろうと連れて行ったそうだが、そのまま養育されているのか、手放されたのか確かなことははわからなかった。
分かっているのは、その子も薄い金髪だということだけだった。

「何か理由があって、その子供を捨てたんじゃないかと、言っていました。皆、貧しいですし。」
「そうか。あの場に赤ん坊がいるなんて、あまりに不自然だったから、捨て子だろうね。」
「奏さま。その子は役人に渡して、しかるべき乳児院に容れるべきです。」

赤ん坊を抱いた奏は、返事をしない。
聞こえているだろうに、ぷくぷくとした柔らかな頬をつついてみたりしている。

「そうだ。お前に、名前をつけてやらなければねぇ。英吉利で幸運を呼ぶ名前って何かしら・・・。」
「奏さまっ。」

白雪の苛立った声に、赤子がふぇ・・とぐずった。
よしよしと、奏は赤ん坊を軽く搖すった。

「白雪。この子をこのまま、手元で養育できないだろうか。」
「本気で、おっしゃってるんですか?」

白雪は、心底、あきれ果てた。
ただでさえ眠る時間を惜しんで、沢山の本と格闘しているというのに。
辞書と専門書に埋もれて、奏は寝台で眠ることすら稀だった。
近づく帰国の途に着く前に、学ぶことは山とあった。

「冗談はほどほどにしてください。奏さま。」
「誰とも知れない娼婦が産んだ、父親もわからない子供を面倒見るなんて、正気の沙汰じゃ・・・っ。」

言い終わる前に、ぱんと頬を張る乾いた音が室内に響く。

「僕に、それを言うのか・・・白雪。僕の両親のことを知る、おまえが・・・」

はっと、白雪は息をのんだ。
顔を背けた主人の頬に流れるものがあった。
恐る恐る見上げた白雪が認めた奏の唇は、ふるふると小刻みに震えていた。

「・・・僕が両親のことを、何も知らないとでも思っていたのか・・・。」

・・・ご存知だったのか・・・
白雪は、思い出した。

渡欧する前、如月家当主が亡くなった後、長い間不眠に襲われていた主人の姿を・・・。
両親と同じ血が流れているのが、怖いんだ、白雪・・・と憔悴しきった顔を自分に向けて、呟いていたのを。

奏の母親は、人形を抱き糸手まりをつく、童女のような公家の姫君だった。
言葉も出ないような幼いままの姫を、奏の父親、奏一郎は慈しんだが同じ褥で眠ることはなかった。
それなのに、奏は母の命と引き換えにして如月家に生まれてきた。
三十路を越えても幼いままの、公家の姫に子供を産ませたのは一体誰だったのか。
奏のそばにいる白雪には、わかっていた。

「・・・奏さま・・・申し訳ございません。」

掛ける言葉をなくした白雪は、給湯室に行って乳を温めて参りますといって、部屋から逃げ出した。
同じ空間に居るのが、いたたまれなかった。
白雪が垣間見た奏の抱える闇は、想像したよりも遥かに深い・・・
湖上颯と知り合ってから、少しずつ自分を制御する方法を覚えていた主人だったが、その深淵の渇きは満ち足りてなどいない。

「僕は、奏さまの何を見ていたんだ・・・」

自分の浅はかさに腹立ち、白雪は階段の踊り場で突っ伏してしまった。
ずっと、お側にいてね、と指切りをしたあの日から、変わらない奏の本心が見えた気がした。
これだけお側にいても、奏さまは心の内で常にお一人だったのか・・・。

寂しい、寂しい、愛に飢えた少年が、その美しい目に涙を湛えたまま、こちらに手を差し伸べてじっと見つめている気がした・・・

その手を取れなかった白雪は、滂沱の涙にくれた。
止まらない嗚咽を、押し殺して噛みしめた。

********************************

前作「はつこい」をお読みになってくださった方へ。
たくさんの拍手ありがとうございました。
小春さんも、コメントありがとうございました。
移しただけで、ちゃんと推敲、加筆できていないので申し訳ないです。
(*⌒∇⌒*)♪ でも、めっちゃうれしかったです~!

人騒がせな事件は、颯の骨折りもあって、何とか丸く収まりました。

(´・ω・`) 白雪:「あの・・・気遣いが足りず申し訳ございません、奏さま。」

(´・ω・`) 奏:「いいさ、白雪」

(*⌒▽⌒*) 赤ちゃん:「きゃっ!」

(〃^∇^)o彡(⌒▽⌒*) 奏:「ばあ。いい子でちゅね~!」

(´・ω・`) 白雪:「でも、やっぱり・・・この子を傍には置いて置けないと思います・・・」

どうなるかな・・・|ω・`)

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8 Comments

此花咲耶  

小春さま

> なんだろう?
> コメントが・・・いじけてる?
> うまく飛んでいかないの・・・・・
>
どうしちゃったんでしょう。がんばれ~!fc2!(`・ω・´)
> ~~~~~~~~~~~~~~~
> 奏君の海よりも深い心の傷、
> 身体の傷は跡が残るけれど、
> 見えない傷は痛みが何倍も・・・・・
> 「血」・・・おじいさま・・・正気の沙汰じゃありません!

おじいさまにも、いろいろありました。奏には颯がいたけど、おじい様には自分だけでした。>
傷を見るたび、辛い過去を思い出すのでしょうね
いたたまれない・・・←書いといて・・・(´・ω・`)

> いくら飾りのようで、短く、本当に傷つけるような刀じゃなくても、身体中に・・・・・そして心に深く・・・・・奏は傷つきました。
> 小雪大反省ですよね、いちばん近くで苦悩を見てきたのに、
> ☆ぱちん☆されました。

>そうですね。お読みいただきました。
お疲れ様です。

> やっぱり、「はつこい」読んできて良かったよん^^


おお~、ありがとうございました。うれしいです。
コメントもありがとうございました。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/25 (Tue) 02:13 | REPLY |   

小春  

コメント送るのも命がけ~

なんだろう?
コメントが・・・いじけてる?
うまく飛んでいかないの・・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~
奏君の海よりも深い心の傷、
身体の傷は跡が残るけれど、
見えない傷は痛みが何倍も・・・・・
「血」・・・おじいさま・・・正気の沙汰じゃありません!

いくら飾りのようで、短く、本当に傷つけるような刀じゃなくても、身体中に・・・・・そして心に深く・・・・・奏は傷つきました。

小雪大反省ですよね、いちばん近くで苦悩を見てきたのに、
☆ぱちん☆されました。

やっぱり、「はつこい」読んできて良かったよん^^

2011/01/24 (Mon) 20:12 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

びびさま

> ↑の。まだタイトルだけだったのに、送信されちゃった~(>人<;)(>人<;)
>
> もう、いいや、タイトルのまんまです。
> パラレルでも何でもとにかく、奏の幸せを請い願います。どうかお願いしますm(_ _)m

びびさま。

奏の幸せを願う・・・(´・ω・`)「びびちんっ。ありがとう。」←奏
納得していただけるように、これからお話を進めます。

コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/24 (Mon) 19:54 | REPLY |   

びび  

ぎゃー、

↑の。まだタイトルだけだったのに、送信されちゃった~(>人<;)(>人<;)

もう、いいや、タイトルのまんまです。
パラレルでも何でもとにかく、奏の幸せを請い願います。どうかお願いしますm(_ _)m

2011/01/24 (Mon) 14:56 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

鍵付きコメントさま

鍵付きコメントさま

奏の祖父は酷い人でしたが、父親はまともでした。
でも、母は何もわからない童女のような人でした。
早くに亡くなって、父代わりが性格破綻者という、とんでもない話でした。

赤ちゃんはこれから、いっぱい出てきます。
自分で書いててせつなくて泣きました。

コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/24 (Mon) 13:57 | REPLY |   

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2011/01/24 (Mon) 09:58 | REPLY |   

此花咲耶  

サフランさま

サフランさま

> 良く分かりませんけど、赤ん坊を養子にするなりして国外に連れ出すのは難しい気がします。
> 白雪も困ってますよね。
> 奏はどうするんだろう?

無理みたいです。
きっとわかってはいるのでしょうけど、かわいそうになります。(ノд-。)←書いといて・・・

>
> 又、奏の運命の人は現れないんでしょうか!?
> 奏は薄幸で孤高の人なのか!?
> 自分の忌まわしい出生の秘密を知っている上に、颯に対する報われない恋情を持っている為、このまま恋人も出来ないんでしょうか?

きっと、恋をしたとしても結婚はしません。だんだん、不憫になっていました。
そういえば、昔、違う話でもいいので何とか幸せにしてくださいって、「前・はつこい」の時に言われました。
パラレルでのお話になると思います。

> 哀れな奏…。
> 此花様~、奏に何とか人並みの幸せを~!

大丈夫ですっ!!(`・ω・´)←言い切った!
奏も幸せの形を見つけます。それを、幸せと思っていただければいいなぁ…と思っています。

コメントありがとうござました。うれしかったです。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/24 (Mon) 09:35 | REPLY |   

サフラン  

憂鬱な事

良く分かりませんけど、赤ん坊を養子にするなりして国外に連れ出すのは難しい気がします。
白雪も困ってますよね。
奏はどうするんだろう?

又、奏の運命の人は現れないんでしょうか!?
奏は薄幸で孤高の人なのか!?
自分の忌まわしい出生の秘密を知っている上に、颯に対する報われない恋情を持っている為、このまま恋人も出来ないんでしょうか?
哀れな奏…。
此花様~、奏に何とか人並みの幸せを~!

2011/01/24 (Mon) 02:58 | EDIT | REPLY |   

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