続・はつこい 如月奏の憂鬱・13
全員の名誉のために、婦人が身を守る為の護身術とは、言わぬが花のようだ。
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こうなると残る問題は、奏の腕から離れない赤ん坊の事だけだ。
白雪は翌朝すぐに役人に届け、付近の村を子供の身内がいないか訪ねて回ったが、親の噂は皆無だった。
確かなものではなかったが、たった一つ近くの小屋に流れ者の娼婦が住み着き、子供を生んだという話を聞いてきた。
しかも、母親は産後満足な手当てが受けられず、数ヵ月後に亡くなったということだった。
不幸な子供は、近隣の乳の出るものが面倒を見てやろうと連れて行ったそうだが、そのまま養育されているのか、手放されたのか確かなことははわからなかった。
分かっているのは、その子も薄い金髪だということだけだった。
「何か理由があって、その子供を捨てたんじゃないかと、言っていました。皆、貧しいですし。」
「そうか。あの場に赤ん坊がいるなんて、あまりに不自然だったから、捨て子だろうね。」
「奏さま。その子は役人に渡して、しかるべき乳児院に容れるべきです。」
赤ん坊を抱いた奏は、返事をしない。
聞こえているだろうに、ぷくぷくとした柔らかな頬をつついてみたりしている。
「そうだ。お前に、名前をつけてやらなければねぇ。英吉利で幸運を呼ぶ名前って何かしら・・・。」
「奏さまっ。」
白雪の苛立った声に、赤子がふぇ・・とぐずった。
よしよしと、奏は赤ん坊を軽く搖すった。
「白雪。この子をこのまま、手元で養育できないだろうか。」
「本気で、おっしゃってるんですか?」
白雪は、心底、あきれ果てた。
ただでさえ眠る時間を惜しんで、沢山の本と格闘しているというのに。
辞書と専門書に埋もれて、奏は寝台で眠ることすら稀だった。
近づく帰国の途に着く前に、学ぶことは山とあった。
「冗談はほどほどにしてください。奏さま。」
「誰とも知れない娼婦が産んだ、父親もわからない子供を面倒見るなんて、正気の沙汰じゃ・・・っ。」
言い終わる前に、ぱんと頬を張る乾いた音が室内に響く。
「僕に、それを言うのか・・・白雪。僕の両親のことを知る、おまえが・・・」
はっと、白雪は息をのんだ。
顔を背けた主人の頬に流れるものがあった。
恐る恐る見上げた白雪が認めた奏の唇は、ふるふると小刻みに震えていた。
「・・・僕が両親のことを、何も知らないとでも思っていたのか・・・。」
・・・ご存知だったのか・・・
白雪は、思い出した。
渡欧する前、如月家当主が亡くなった後、長い間不眠に襲われていた主人の姿を・・・。
両親と同じ血が流れているのが、怖いんだ、白雪・・・と憔悴しきった顔を自分に向けて、呟いていたのを。
奏の母親は、人形を抱き糸手まりをつく、童女のような公家の姫君だった。
言葉も出ないような幼いままの姫を、奏の父親、奏一郎は慈しんだが同じ褥で眠ることはなかった。
それなのに、奏は母の命と引き換えにして如月家に生まれてきた。
三十路を越えても幼いままの、公家の姫に子供を産ませたのは一体誰だったのか。
奏のそばにいる白雪には、わかっていた。
「・・・奏さま・・・申し訳ございません。」
掛ける言葉をなくした白雪は、給湯室に行って乳を温めて参りますといって、部屋から逃げ出した。
同じ空間に居るのが、いたたまれなかった。
白雪が垣間見た奏の抱える闇は、想像したよりも遥かに深い・・・
湖上颯と知り合ってから、少しずつ自分を制御する方法を覚えていた主人だったが、その深淵の渇きは満ち足りてなどいない。
「僕は、奏さまの何を見ていたんだ・・・」
自分の浅はかさに腹立ち、白雪は階段の踊り場で突っ伏してしまった。
ずっと、お側にいてね、と指切りをしたあの日から、変わらない奏の本心が見えた気がした。
これだけお側にいても、奏さまは心の内で常にお一人だったのか・・・。
寂しい、寂しい、愛に飢えた少年が、その美しい目に涙を湛えたまま、こちらに手を差し伸べてじっと見つめている気がした・・・
その手を取れなかった白雪は、滂沱の涙にくれた。
止まらない嗚咽を、押し殺して噛みしめた。
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前作「はつこい」をお読みになってくださった方へ。
たくさんの拍手ありがとうございました。
小春さんも、コメントありがとうございました。
移しただけで、ちゃんと推敲、加筆できていないので申し訳ないです。
(*⌒∇⌒*)♪ でも、めっちゃうれしかったです~!
人騒がせな事件は、颯の骨折りもあって、何とか丸く収まりました。
(´・ω・`) 白雪:「あの・・・気遣いが足りず申し訳ございません、奏さま。」
(´・ω・`) 奏:「いいさ、白雪」
(*⌒▽⌒*) 赤ちゃん:「きゃっ!」
(〃^∇^)o彡(⌒▽⌒*) 奏:「ばあ。いい子でちゅね~!」
(´・ω・`) 白雪:「でも、やっぱり・・・この子を傍には置いて置けないと思います・・・」
どうなるかな・・・|ω・`)
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