続・はつこい 如月奏の憂鬱・12
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奏の襲撃された事件は、そのままにしておくわけにもいかない。
経済学の教授に相談したうえで、颯は件の「ウイリアム」を、呼び出した。
学内で査問会にかける前に、穏便に済ませる用意があると告げると、襲撃犯はあっさりと自供した。
「さて。では、どこから説明をしていただきましょうか。」
颯の厳しい口調に、殊勝にも全面的に非を認めると、大男はひたすら詫びを口にした。
奏が巧く逃げてくれて良かったとまで言う所を見ると、後悔したというよりどうやら彼らなりに如月奏という人物について、色々と調査をしたらしかった。
確かに華奢で、男装の麗人にしか見えない如月奏が、日本の近代化を牽引する鉄道会社の筆頭であるなど普通は想像もつかないだろう。
おそらく外務卿、公使などの政府要人とも親しく付き合いのあることを知り、自分達のしでかしたことが、些細な遊びの域をはるかに超えたものだと、青ざめて悟ったに違いない。
放校処分になっても、文句の言えない非礼をしたと「ウイリアム」達は恐縮した。
「どうするね、如月?君は、彼の放校処分を望む?」
慈母観音のように、蜂蜜色の巻き毛の幼子を抱いた奏は、ほっと一つ息をついた。
「僕は・・・大事(ごと)にする気は、ありません。」
「以後、僕の勉学の邪魔をしないと誓ってくださるなら、学部の友人としてのお付き合いならできます。」
ぱっと明るい顔になって、男は誓った。
「勿論!約束する。君の国の武士道のように、英国の紳士道(プリンシバル)に誓う。」
「余りに君が薫り高い白薔薇のようなので、つい手折りたくなってしまったのだ。一時の気の迷いを許してくれたまえ。」
奏はそういう大男を、黙って見つめていた。
「この上は、君がどんなに俺を魅惑的に誘惑をしても、もう理性をなくさないと、約束する。」
「・・・あくまでも僕が、あなたを誘惑したと・・・。そうですか。まあ、いいでしょう。」
普通なら聞いているだけで、赤面しそうな野卑な言葉に奏は、顔色一つ変えなかった。
「そういう風に面と向かって内心をあけっぴろげにする所は、嫌いでは有りませんよ。ただね・・・。」
きっぱりと言っておく必要があると思った。
「僕にはあなたを誘惑するよりも、官費留学生として、身命を賭してすべきことがあります。」
「そこだけは以後も忘れずに、覚えて置いてください。そうすれば、今回のことはすべて水に流します。」
「そうでなければ、あなたを男色家(ソドミィ)として告発します。」
すまなかった、肝に銘じると、もう一度頭を下げて男は退出した。
颯はすぐに、その後を追った。
ウイリアムが見たはずの奏の傷のことを、決して口外しないように言っておくほうが良いと思ったのだ。
噂が無責任に面白おかしく一人歩きして、奏を苦しめるような事態は避けたかった。
「ミスター、彼の痛ましい傷を見ただろう?
「あ?ああ・・・ずいぶん、酷い傷だったな。」
「実はあの傷のせいで、彼は人付き合いが苦手なんだ。」
「そうなのか。」
真剣に思いやる表情を見て安心し、颯は言葉を続けた。
「如月はあの通り、誰にも卑屈になったりはしないし、毅然としているだろう?」
「ああ。」
「国許では如月は、私学の理事として既に多方面で築いた名声もあるが、反面、ひどく精神的に脆い面があるんだ。だから、傷のことは他言無用に願いたい。」
男は、笑うとひどく幼い印象になった。
「よし、わかった。心配しないでくれ。全て、この場所で聞いたことはこの場でお終いにすると約束する。誰にも決して口外はしないよ。」
「そうか。そうしてくれると肩の荷が下りた気がする。彼をこれ以上、傷つけたくないんだ。もう、十分すぎるほど傷ついてきたからね。」
「そうか。勿論、そういう事情を知りたい気もするが、この先ずっと一緒にいるわけにはいかないからこれ以上の詮索は止めておこう。」
腹を割って話をすればそれなりに分かり合える相手のようだ。
おそらく奏の方にも問題があったに違いない。
推測するに頑なな性格が災いして、衆人環視の中で恥をかかせるなど、最初の付き合い方を間違えたのだろうと思う。
「奏は幸せだね。君のような生涯の友人が傍にいて。」
友人以上の存在になれない颯には、その単純な言葉は重かった。
「時代が変わったが、侍には作法があってね。約束事には刀で誓いの金丁を打つのだが、君の国の騎士は約束を守る時どうする?」
「刀か・・・では、アーサー王の聖剣エクスカリバーに誓おう。伝説の騎士のように。」
ウィリアムは、大真面目に答えた。
「正直言うと、実はこれまで、東洋の島国の何も知らない留学生が、得るものさえ得れば帰国するというのが気に入らなかったんだ。」
「しかも誰もが望む、教授の私邸への招待を受けたと聞いて、僕らはあの「黒真珠の貴人」に、嫉妬したんだよ。」
颯には、大方の想像がついた。
この赤毛の大男は、美貌の奏が色仕掛けで教授をたらし込んだと考えたのだ。
誰の目にも華やかな奏の容姿を思えば、あまりに納得のいく答えだった。
「だが・・・見た目で判断するのは、良くないとつくづく思い知ったよ。まさか、あの白薔薇のような細腰に、この俺が伸されるとは思いも寄らなかった。」
「侍の国の護身術やらは、大したものだね。」
颯は顔を赤らめて頭をかく、ウィリアムを信用することにした。
全員の名誉のために、婦人が身を守る為の護身術とは、言わぬが花のようだ。
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前作「はつこい」をお読みになってくださった方へ。
たくさんの拍手ありがとうございました。
移しただけで、ちゃんと推敲、加筆できていないので申し訳ないです。
(*⌒∇⌒*)♪うれしかった~!
人騒がせな事件は、颯の骨折りもあって、何とか丸く収まりそうです。
ヾ(。`Д´。)ノ彡 奏:「なんで、僕があの赤鬼を誘惑したみたいになってるんだ、不愉快だ!」
(´・ω・`) 白雪:「精一杯の自尊心なんですよ、きっと。許してあげましょうよ、奏さま。」
ヾ(。`Д´。)ノ彡 奏:「まったく!こっちにだって選ぶ権利が・・・」
(*⌒▽⌒*) 赤ちゃん:「きゃっ!」
(〃^∇^)o彡(⌒▽⌒*) 奏:「ばあ。ご機嫌でちゅね~!」
(*´・ω・)(・ω・`*) 白雪・颯:「やっぱり・・・ね~」
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