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続・はつこい 如月奏の憂鬱・6 

すべき事をひたすら成そうとする、どこまでも一途な生き方がそこにあった。

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週末は、小姓の白雪を伴って郊外の教授の家を訪問する。

そんな話を無防備にも教室でついうっかりと交わしていたから、奏の気をひこうとしている周囲の連中にも、会話は筒抜けだった。

当然、くだんの奏に沈められた赤毛の大男も聞いていたようだ。
元々、英語は日本語のように、回りくどい言い回しなどを使わない。

英語の上達のため、ほとんどの会話を単純な異国の言葉で交わしていたため、彼等にとっては奏の駄々漏れの情報を拾うのは優しかった。

教室では日本語で会話すべきだったと、後に奏と白雪は深く後悔することになる。

つれない美貌の東洋人に、千載一遇の恥をかかせる機会が来たと、赤毛の大男と仲間はほくそ笑んだ。
構内ならば人目があって、手出ししにくくとも郊外ならば打つ手はいくらでもあった。

白雪の頼む予定の御者など、その倍額の金を払えばあっさりと買収できるだろう。
地理に不案内な彼らには、近道だとでもいえばごまかし誘い込むのも簡単だろう。

赤毛の大男は、他に奏に侮辱(勿論、本人にその気はなかったのだが)された者達に声をかけ、思いついた残酷な思惑にほくそ笑んだ。

たっぷりと親愛の情を示してやり、自分に冷淡な態度をしてすまなかったと奏が許しを請うて謝るまで、泣かせてやろうと思っていた。
小生意気な小さな東洋人を、思うさま開いて嬲ってやろうと、入念な計画を練った。

大英帝国の紳士をこけにした侍を、足元に跪かせてやる。
(もっとも紳士はこういうことを思いついたりはしないと思うのだが。)
妄想の中で心ゆくまで奏の下肢を掴みあげ、自慢の器官を押し込んで喘がせたこの青年には、紳士道(プリンシバル)の欠片も見当たらない。

奏と白雪は、自分たちの身が危ういと知らぬまま、教授の家を訪問する好機に胸を弾ませていた。

だが、奏は週末近くになると、ため息をついた。

週末、颯が自分の近くにいない・・・。
それだけで、何となく胸の奥が苦しいようなやるせない気持ちになってしまう。
この気持ちを、誰に言うこともできなかった。
奏がただ一つ、ほしいもの。
それは子供のころから常に、傍らをすり抜け消えていった。

こんな説明のつかない感情は、やり過ごすに限る。
ふと目が合って、奏は白雪に笑いかけた。
この上なく寂しい儚げな透明な笑みをたたえて、白雪に向けられた小さな顔がそのままうつむいてしまって涙をこぼすのではないか・・・と、白雪が見詰めた。

時折、奏はひどく脆く心もとなく見えた。

「どうした?白雪。早く支度をおし。」
「あ。もうできました。奏さま。」
「わたくし、もうじき雇った馬車が、門まで来ているはずですから見てまいります。」

狐狸の巣に投げ込まれる餌の野鼠のように、奏の近い将来は危うくなっているが、下卑た言葉が理解できなかった白雪も何も知らない。
奏は、留学船の船旅の間、仕込んだ護身術を更ってみて、どこか不安そうな奏に出来るじゃないかと颯が笑ったのを思い出していた。

「良いか、如月。最後に湖上家嫡男が、不埒者を撃退する、一子相伝の極意を教えてやろう。」
「なんですか?」

至極、真面目な顔をして、颯は奏を指でくいっと呼んだ。
奏はそっと、颯の口許に耳を寄せた。

「三十六計(さんじゅうろっけい)逃げるに如(し)かず・・・と、言う。」

緊張がふっと解けて、和らいだ様子をみて白雪が聞く。

「何かの、まじないですか?颯さま。」
「うん?ああ・・・面倒なことが起こったときには、とりあえず逃げろと言うことだね。」

事実無根の噂でしかないが、学部の違う颯の耳にも不穏な噂は入っていた。
華奢な肢体で大男を沈めた日本の小さな侍は、意外にも構内でやんやと勇名とどろいて、護身術を教えた颯を苦笑させた。
手折られる前の白百合は、純潔な花首をきりりともたげ、どこまでも清らかだった。


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ヾ(。`Д´。)ノ彡☆「奏:手折られる前って何~~~~!?」
(´・ω・`)「白雪:心配です~・・・やっぱりぱんつ2枚はきましょう、奏さま~。」

どうなりますやら・・・

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4 Comments

此花咲耶  

小春さま

小春さま

> そんな話を無防備にも教室でついうっかりと交わしていたから、奏の気をひこうとしている周囲の連中にも、会話は筒抜けだった。
> ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
> 奏と白雪はふたりの会話もイングリッシュ?
> 日本語で話すと周りが悪口とか思うから?
> 内緒の話は♪~あのねのね~日本語が良いよね^^

英語を覚えるのは、留学の目的でもありました。
ですから、普段の生活で使う会話は英語で過ごします。

> ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
> 小春は雪玉を硬く握って貯め込んでいます!
> 脚は悪いが手は元気!!!
> 悪い子は月に代わってお仕置きよo(`ω´*)oフン!!!

> ( ・`ω・)-○))~~~~~~~Ю☆ロケットパンチ

(*⌒∇⌒*)♪白雪:「おお~!もしいです~!応援よろしくお願いします。」

!(`・ω・´)奏:「ご心配には及びません。いささか武道のたしなみもございます。」

(´・ω・`)此花:(だから、それはご婦人用・・・)

コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/24 (Mon) 20:06 | REPLY |   

小春  

NoTitle

そんな話を無防備にも教室でついうっかりと交わしていたから、奏の気をひこうとしている周囲の連中にも、会話は筒抜けだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
奏と白雪はふたりの会話もイングリッシュ?
日本語で話すと周りが悪口とか思うから?
内緒の話は♪~あのねのね~日本語が良いよね^^
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小春は雪玉を硬く握って貯め込んでいます!
脚は悪いが手は元気!!!

悪い子は月に代わってお仕置きよo(`ω´*)oフン!!!


( ・`ω・)-○))~~~~~~~Ю☆ロケットパンチ

2011/01/24 (Mon) 19:17 | EDIT | REPLY |   

此花咲耶  

Rinkさま

Rinkさま

> 男塾でも、美少年は危なくなったら逃げろと重々教育しています(笑)

(`・ω・´) 「奏:勿論そうするつもりです。ご忠告ありがとうございます。」
「あ、それからいつもあんぽんたんがお世話になっております。
。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。「うるさいやいっ!」←此花

> わ~、赤毛のアンポンタンの罠に簡単にかからないことを祈ります~

色々画策しているみたいです。
塾長さま~・・・加筆しすぎて、中々襲えません・・・(´・ω・`)

コメントありがとうございました。嬉しかったです♪

2011/01/17 (Mon) 13:21 | REPLY |   

Rink  

そうだ!逃げるしかない!

男塾でも、美少年は危なくなったら逃げろと重々教育しています(笑)
わ~、赤毛のアンポンタンの罠に簡単にかからないことを祈ります~

2011/01/17 (Mon) 13:13 | REPLY |   

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