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続・はつこい 如月奏の憂鬱・10 

吹き寄せた真白い雪の溜りの中に、奏のシルエットが沈んだ。

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奏が力尽きて、意識を失ったその頃。

颯は建築家の友人達と共に、グラスゴーでの見聞を終え帰寮していた。
夕刻遅く寄宿舎に戻ったとき、奏達がまだ帰宅していないのを不審に思った。
真夜中になっても帰らない友人を心配する颯に、おそらく教授の家に泊まることになったのではないかと告げる者もいたが、颯は奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
これまでに、奏の行方が分からなくなるようなことは、一度もなかった。

颯には、神経質な奏が着替えも持たずに、初めて訪問する家に、図々しく宿泊するとは到底思えなかったのだ。
紳士としてどうふるまうべきか、人がどんな目で見ようと奏は日本男児として、常に気を張っていた。
礼節を重んじる奏は、どれだけ勧められようと、遅くならないうちに寮に帰ってくるだろう。

大学の馬丁に訳を話し、厩舎から馬を借り出したのは、既に丑三つ時になろうかという遅い時間だ。
颯が馬上の人となり、一里も駆けた頃、月明かりの中を奏の革靴を片一方だけ抱えて、とぼとぼと奏の外套を引きずりながら、田舎道を歩いてくる白雪を見つけた。

「どうした!白雪!一人なのか?帰りが遅いから心配した。」

颯の姿を見つけた途端、白雪は「奏さまが・・・」というなり、その場に崩れ落ちてしまった。
ひらりと拾い上げ、すぐさま馬上に抱え上げたものの、白雪は冷え切っていた。
白雪はどれほど歩いたものか、道もわからず闇雲に主人を求めて彷徨っていたらしい。
何とか自力で戒めを解き、奏を探し回っていたらしいが辺りはすぐに陽が落ちて、暗くなってしまった。

「奏さまぁ・・・」

白雪は自分を責め、靴を抱きしめて颯が呆れるほど、世もなく泣いた。
月明かりでの捜索は無謀だろうと、直も探しに行くという白雪をなだめ連れ帰った。

話によると、教授の家からの帰り道、馬車がいきなり車道を外れ、雑木の中に突っ込んだのだという。
雪が深いせいだけじゃないと思います、きっと誰かの陰謀です・・・と、白雪は涙を拭いた。

「君たちは、誰かに今日の訪問の話をした?」
「いいえ。食堂で颯さまにお話しただけです。」

そのとき、周囲に関わりのあるものはいなかったかと颯は聞いた。
雰囲気や、声や覚えてはいないかと颯は聞いた。

「あっ。」

すぐ側にいた、赤毛の男を白雪は覚えていた。

「あの方です!しつこく付きまとうので、いつかとうとう奏さまがお怒りになって、お手をおあげになった・・・!」

颯も、学内で一時、話題になっていたのを思い出した。

「ああ。奏が金的を当てた大男か。」

「恥をかかされたと大層ご立腹だったそうなんですが、何しろあのご気性なものですから、詫びる必要などこちらにはないと、突っぱねてお終いになりました。」

白雪はもう絶望的になってしまって、奏さまに何かあったら・・・と、どこまでも悪いほうに思案を巡らせていた。

「まともにやりあって、勝てるわけなどないんです。向こうは数人いたんですから・・・颯さま・・・奏さまに何かあったら、わたくし・・・もう、腹掻っ捌いてお詫びするしかありません。」

颯は思いつめた白雪の手の中に、温かいカップを置いた。

「切腹だのと、時代がかっていないで、ほら。お飲みよ、白雪。お前が淹れたほうが美味いけど、飲めないこともない。」
「あ・・・りがとうございます。」

こくりと甘い茶が喉元を過ぎ、湯気で颯がにじんで見えた。
ほろほろと、白雪は泣いた。

「僕が付いていながら、こんなことになって・・・どうしましょう、湖上さま。」
「僕ではなく、初めから白菊をよこせばよかったんです。白菊なら、少しはきちんとお守りできたかもしれなかったのに・・・」

くすん・・・
余りに深刻な白雪の様子だが、颯はもし痴情のもつれなら案外心配することはないと思っていた。

「白雪。気に病むことはないと思うよ。」
「お前が思っているよりも、あれで如月は世間を知っているし、色恋に関してはおそらく僕や君より如月は、はるかに手練れだ。」

さや当てに関しては、確かにその通りだと白雪はうなずいた。

「もうじき夜が明ける。そうしたらすぐに駆けてこよう。君は、冷え切った如月がすぐに入れるように湯の準備をしておくんだね。」
「はい。」

白々と、長い夜が明けようとしていた。
共に探しに行きたいという白雪に、まずは湯の支度をしておくようにと告げて、颯は昨日、白雪とあった方角へと単騎、馬を走らせた。

教授の私邸のある方向は、大きな道が緩やかに蛇行しているばかりで、地理感がなくとも迷うことはないはずだった。
役人に知らせるような不測の事態にならないよう、とにかく無事な姿を求めるのが先だ。

国からの使命を帯びた財界人の身に、何かあった日には外交問題に発展しかねないと、彼らを襲ったものは解っているのだろうか。
時折、馬を停めて、静まり返った周囲に声をかけた。

「如月ー!」

この国では霧のまといつく時間が長い。
どこかにさらわれて、幽閉されてしまったのか。
誰に向けても、常にできうる限りの虚勢を張る奏を探して、颯は叫んだ。
異国の地で、このままあの哀しい目をした不器用な青年を失いたくはないと、本心から思う。

「如月!返事をしたまえ!」

虚しい時間は、颯も長く感じた・・・。

奏・雪2




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冷え切った奏は行方知れずになりました。
雪は湿気て、深いのです。

使用いたしました写真は詩腐徒交遊記のかやさんのフリー写真です。
煌く素敵詩と写真のサイトです。創作の萌えを刺激されます。
雪の中出向いて、わざわざ写真を撮って来て下さいました。
馬車のわだちが残るほどの、雪の量です。
イメージどおりのお写真、お借りいたします。ありがとうございました。
脱げた靴で、バナーも作りました~ (〃∇〃)


(´・ω・`)奏:「早く助けに来ないと、風邪をひきそうだ、白雪。」

゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚白雪:「奏さま~!いったいどこにいらっっしゃるのです。わ~ん・・・」


もう少し書きたかったのですが、ここまでしかできませんでした。ごめんね。

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