続・はつこい 如月奏の憂鬱・3
公家生まれの奏には、説明の仕様もなかった。
西洋の男色は、武家社会の衆道とも、奏の生きてきた公家の稚児とも話が違う。
うっかり例えようとすると、間違いなく奏の古傷をえぐることになる。
元々、奏が人になれない性分なのは知っていたから、向こうで護衛を雇うよう勧めるのはあきらめた。
だが、このままだと小姓の白雪は身の回りの世話ばかりか、襲い来る紅毛人からの護衛まで勤めねばならない。
白雪にも多くの仕事が有り、ずっと側に控えているわけには、いかないだろう。
官費留学の栄えある一員として、共に渡欧するまでは良かったが、各自学ぶものが違っているため、自分も終始同じ行動を取るわけには行かない。
颯の同郷であり、妻、聡子の兄でもある清輝などは少し落ち着いたら、細菌学を学ぶため独逸の医学所にゆくことになっていたし、奏と白雪は経済学を学ぶため、英吉利に一年間、逗留することになっていた。
勿論、白雪は政府の公費というわけにはいかなかったので、私費留学生として留学費用は如月財閥の経費で賄うことになっていた。
颯は、英国に降り立った後も、欧羅巴各地の建物を検分するため移動が多くなるはずだった。
「あ。そうだ。」
ふいに颯は思い立ち、強盗除けという名目で、妻の聡子でも扱えるような、簡単な護身術を船の中で教えた。
自尊心を傷つけぬように、物騒だから、少しは身を守る方法も覚えておくといいねと、奏の好きな彼の父に似た声を意識する。
奏は颯の声にこくりと肯いた。
「急所が簡単に効くのは、あごの先と、肝臓の真上のここ。後は、鳩尾に振り切った膝頭を叩き込む。背後からこう迫られたら、まずは思い切り肘鉄を入れて戦意を削ぐ。」
「・・・如月は、いざとなったら金的を使うしかないかな。それなら、確実だから。」
「よく、わかりました。自分の身くらい守れますから、心配しないで下さい。」
この教え子は、こうして忠実に急所を狙う明快な護身方法を取得した。
もっともそれは、婦女子の習うものだったが、それを言えばきっと不機嫌になるだろうから内緒にしておく。
こうして迎えた大学生活は、波乱万丈の日々だった。
奏の極上の社交上の微笑に惹かれたまでは良かったが、手を伸ばすものには容赦なく覚えたての護身術が役に立った。
どうやら、如月奏は優雅でたおやかな見かけに反して、中身は意外にそうでもないらしい・・・と、少しずつ周囲で噂になっていた。
実際、生まれ付きの性質は、どうみても従順な質ではない。
このしなやかな仔猫は、一見貴族の高価な愛玩動物のようでいて、中身はまるで手加減を知らない野生の豹並の粗暴さを持っていたのだ。
先刻、犠牲となって呻っていた赤毛の男が、血走った濁った目で奏を見上げた。
「ひ・・・どいじゃないか。僕はただ友人として、親愛の情を表しただけなのに。」
「ふ・・・ん。」
冷ややかな視線が、ちらりと落された。
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いきなり、船中での護身術が役に立っています。
留学生活はこの先、どうなりますやら・・・
きっと痛かったよね~・・・
(つ∀`*)っ))⌒☆や~ん・・・どこが痛いか、此花わかんない。
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