夢の欠片(かけら)・7
「奏太郎――――っ!!」
義姉の悲鳴を、どこか遠くで聞いた。
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湖上颯の一粒種「奏太郎」は、颯が家族を残して英国に遊学しているときに故国で生まれた。
誕生の電信を受け取った颯の喜びようは相当なもので、奏も普段の規律正しい生活の中で、ただ一度だけスコッチで祝杯を挙げた。
男子の出生に喜んだ颯は、命名に悩むことはなかった。
「如月の一字をもらいたい。」
自分の血を一代限りでお終いにするという奏に、颯なりに考えての申し出だったのだろう。
「ご自分の名前を付けるのならともかく・・・。」
と、渋る奏に、颯は大書した文字を見せた。
その場で、何も言わなかった奏は、自室にこもって密かに涙した。
命名・湖上 奏太郎
父・湖上 颯
母・湖上 聡子
これから先も、家族を持たないと決心した奏の名前が、そこにあった。
颯が帰国したとき、すでに奏太郎は一歳二か月になっていて、よちよちと歩き始めたところだった。
あれから月日は流れ、早くも奏太郎は二歳になっている。
父親に似て、身体も大きく丈夫な子供だった。
征四郎が流星号に鞭を当て、自宅前の生け垣の傍で手綱を緩めたとき、鶏を追って奏太郎が走り出た。
義姉の悲鳴は、奏太郎が流星号の蹄に掛けられたと思ったものだ。
「どおっっ!!」
慌てて手綱を引き締めるより前に、流星号が反応した。
全速力で駆けてきた馬から落馬した場合、骨折で済めば運がいい。
打ち所が悪ければ、落命しても仕方がなかった。
流星号は利口な馬で、軍馬としての調教を受けていたが普段は温厚で従順な性質(たち)だった。
征四郎と同じ年に生まれ、共に育ってきた二代目流星号は、征四郎を背から振り落としたことは一度もない。
大怪我、もしくは絶命を覚悟した馬上の征四郎は流星号の首がしなり、ありえない方向に傾いたのを見た。
流星号は征四郎の落馬を全身で阻止し、どっと転倒する前に首を立てた。
征四郎は地面に叩きつけられる瞬間、流星号が長い首で自分を背に押し戻すのを感じた。
子供のころから知っている、優しい愛馬の目だった。
今生で二度と会うことの叶わない流星号が、前脚を骨折し薬殺されたのを、征四郎は気を失ったまま運ばれた病院で聞いた。
自分が感情のまま鞭を当て続けた流星号が、自分を守って消えた。
滂沱の涙にくれる征四郎に、かける言葉を誰も持たなかった。
流星号のいなくなった厩舎で、征四郎は長い間残された鞍を撫でていた。
虚ろな瞳は力なく、何も映していなかった。
「僕が・・・殺した・・・。」
(´・ω・`)奏:「征四郎君・・・」
(´/ω;`)奏:「ごめんね、流星号・・・」
(´・ω・`)颯:「何があったんだ、征四郎。」
(´;ω;`) 征四郎:「ぼくのせいで、流星号が・・・」
傷心の征四郎はどうなるのでしょう・・・?
っていうか、此花エチはいつ?
(*ノωノ)…もうちょっと待ってね。
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