夢の欠片(かけら)・5
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奏はたまに、理事長として華桜陰高校に顔を出す。
理事長室でたまった書類に目を通していると、聞きつけたものか征四郎が顔を出した。
「奏さん!わぁ、嬉しいなぁ。一日に二度も会えるなんて。」
踏み込んでくる屈託のない笑顔は、学校という場所もあって叶わない恋を思い出させた。
「仕事中です。」
わざと冷たく見えるように、片眉を上げてみせた。
「君はもうすぐ午後の授業でしょう?遅れないように、早くお行きなさい。」
ちらと視線だけを投げたら、征四郎の顔に落胆が浮かぶ。
意地悪をする気はなかったが、考え違いは直してやらなければ・・・と、奏は思う。
軽くノックの音が聞こえ、私室に続くマホガニーの扉がゆっくりと開かれた。
「奏・・・。」
「ああ、グザビエ・・・直ぐ行きますから、もう少しだけ待っていてください。」
洋袴の上に、シャツの両端をしどけなくたらして、胸元は大きく開いていた。
「モンテスキュウ教授?な・・・んで、ここに?」
グザビエ・シャルル・ド・モンテスキュウ、お雇い外国人のフランス語教師だった。
征四郎に見えないところで、奏は片目を閉じると人差し指を唇に当てた。
「内密にしてくださいね、征四郎くん。つまり、そういうことです。グザビエと僕は故国に帰れば投獄されてしまう世を忍ぶ仲ということです。」
「そんな・・・。嘘だ!なぜ、そんな嘘をつくんですか?」
「嘘?気持ちに嘘はつけませんよ。表ざたに出来ないから、このことは誰にも秘密です。」
「ああ、もちろん君の兄上の颯にも。」
奏は、モンテスキュウ教授のしどけない衣類を、直してやると無精ひげの浮いた頬を手の甲で撫で上げた。
「奏。」
「いけません。ほら、子供が見ているじゃありませんか・・・。」
征四郎は顔色を無くし、奏に引きつった顔を向けた。
表情のない思いつめた顔で、言葉を絞り出した。
「何故・・・こんな意地悪を?僕が兄上の・・・奏さんの叶わなかった初恋の、湖上颯の弟だから?」
奏には、征四郎にかける言葉がなかった。
「どうしてこんなお芝居を見せるんですか?僕は本気です。僕はこんなことしなくても・・・」
「僕はいつだって・・・」
それ以上は、言葉が出てこなかった。
噛みしめた嗚咽を遺し、征四郎は室外に去った。
重い扉の閉まる音が、余計に空気を重くさせた。
「…奏。相変わらず、不器用な男だね。」
振り返ることなく、奏はこれでいいんです・・・と、小さく呟いたが書類を束ねる手が震えているのは隠しようがなかった。
(´・ω・`)奏:「いいんだ、これで・・・」
(*⌒∇⌒*)♪颯:「どうした、奏。失恋か?」
(´/ω;`)奏:「ひくっ・・・」
∑( ̄□ ̄;)颯:「あ、冗談だ。忘れてくれ。」
ヾ(。`Д´。)ノ白雪:「颯さまったら、もういい加減にしてください!!」
昨夜の分は、ちゃんと反映されていなかったみたいでした。
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