夢の欠片(かけら)・6
振り返ることなく、奏はこれでいいんです・・・と、小さく呟いたが書類を束ねる手が震えているのは隠しようがなかった。
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奏とモンテスキュウ教授のやり取りを、下手な芝居だと見破ったものの、やりきれない気分の征四郎は、授業に出る気もせずとうとう午後の授業をさぼってしまった。
愛馬の流星号を厩舎から引き出して、珍しく鞭をくれた。
今は、届かない思いを抱えて、同じ敷地にいることが辛かった。
兄以外の、家族に会いたいと征四郎は無性に思った。
年上のあの綺麗な人は、どれだけ慕おうとも、自分を友人の幼い弟としてしか認めてはくれないのだ。
物腰は柔らかく丁寧だったが、見えない壁を作って決して内側に近寄らせようともしない。
頑なまでに距離を置き、孤高を貫こうとするのは、なぜなのか。
征四郎にはわからないことが多かった。
何故、あの人の同級生が兄上で、自分ではないのだろうと思っても年の差は詮無いことだ。
8つも下の自分が、どれほど頼りない存在か、いまだ親に生活の殆どを依存している学生の身上なのが悔しかった。
あの華麗な白い匂い薔薇のような人は、おそらく今も兄上が好きなのだ。
流す視線を手繰るとその先にいつもいる自慢の兄が、今は嫉ましくてたまらなかった。
兄よりももっと早くに出会いたかった。
兄よりももっと早くに生まれたかった。
決して振り向くはずのない兄の代わりに、あの人を抱きしめたかった。
事業家としてやり手で自信家の如月奏という人間は、征四郎の目には時折ひどく頼りなく心許なく見える。
鏡に反射した輪郭のおぼろげな肖像のような、物憂げな表情。
本気で惹かれていたが、如月奏を知るに付けわからないことが多すぎて、悲しくてたまらなくなる。
あの人は、何も求めていない。
手酷く拒絶されるたびに思う。
きっと、あの人は誰かを手に入れた後、失うのが怖いのだ。
自分よりももっと内面は傷つきやすく幼いくせに、誰かの手を取る勇気もない。
兄が華桜陰高校に入学して以来、如月奏の噂話をするたびに、長く思いを募らせてきた征四郎の分析は、正しかった。
もしかすると、奏本人よりも奏のことをわかっていたかもしれない。
「くそぉ・・・っ!」
流星号に八つ当たりの鞭をくれながら、征四郎は国許への一本道をひたすら走った。
風に涙が流れ、いつしか湖上家の領地に入っても、流星号は足を緩めようとはしなかった。
この愛馬は誰よりも主人の気持ちを汲み、常に傍らに寄り添っていた。
思いつめた征四郎に、じわ・・・と運命のい影が忍び寄っていた。
鞭をかけ続ける主人の尋常ではない荒れ様に、流星号はひひんと鼻を鳴らし従っていたが、主従は人影に気が付くのが遅れた。
厚い雨雲に陽が遮られて、まだ夕刻なのに闇が近いほど辺りは薄暗くなっていた。
「奏太郎――――っ!!」
義姉の悲鳴を、どこか遠くで聞いた。
(´・ω・`)奏:「いいんだ、これで・・・」
(´/ω;`)奏:「ごめんね、征四郎くん・・・」
(´・ω・`)颯:「何があったんだ、二人とも。」
ヾ(。`Д´。)ノ征四郎:「兄上なんて、嫌いだ~!!くそぉ~~!」
最後の悲鳴の訳は・・・?
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