夢の欠片(かけら)・9
きっと、どこかで自分を責めて泣いている。
奏には、わかっていた。
華桜陰高校の馬場で、話し込むように長い間、早足で駆ける人馬を何度も見てきた。
理事長室で執務に励みながら、放課後顔を上げれば笑顔の征四郎と流星号が見える。
夕日を背に伸びやかな青年が、奏に気が付き大きく手を振った。
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カンテラの明かりに照らされて、厩舎に長く影が伸びた。
広い厩舎に、眠りに落ちた馬の小さないななきが聞こえる。
「流星号」と書かれた木札がまだ外されないで置いてあった。
奏が伸ばした、灯りの中に見覚えのある上着の端が目に入った。
思わず声を掛けようとした白雪を制し、毛布を二枚持ってくるように告げた。
征四郎は奏の考えた通り、華桜陰高校の馬房に居た。
「僕がここに居るから、君は湖上に連絡を頼む。」
「はい。」
征四郎は流星号が使っていたネルの毛布にくるまって、敷き藁の中に埋もれていた。
飼い葉桶には新しい物が入れられ、主のいない水桶にも征四郎が入れたらしい水が、なみなみと注がれていた。
もういなくなったと頭では理解しながらも、ここに来れば流星号に逢えると思った征四郎の気持ちが切ない。
カンテラに浮かび上がった征四郎は、ひどい隈を浮かべて熟睡しているようだった。
げっそりと頬のこけた痛ましい姿に、奏はそっと白雪の持参した毛布を掛けてやると、そばに座った。
柔かい光に浮かぶ征四郎の顔は酷くやつれていて流星号を失ってどれだけ心に痛手を負ったかわかる。
子供のように快活な笑顔は、今は淵に沈み陽の欠片も感じられなかった。
奏は傍らにそっと膝を落とすと、征四郎の髪をかき上げ優しい口づけを贈った。
「征四郎くん・・・」
征四郎は夢を見ていた。
大好きな流星号の夢・・・
流星号に初めて鞍を置き、父の後をついて領地を回った。
流星号が軍馬として調教に出る時も、まるで出生に行く兵士を見送る子供のように首にかきつき兄たちに、情けないと叱られた。
流星号が征四郎の前に立ち、ぶる…と甘えた声で鼻を鳴らした。
「流星号。やっぱりここにいたのか。」
近寄った征四郎に「もう、行け」と愛馬が肩を押す。
征四郎はじっと流星号を見つめていた。
長い睫に縁どられた大きな優しい目が、じっと征四郎を見返している。
手を伸ばして温かい馬体に触れ、黒いたてがみを撫でた・・・。
「流星・・・」
目を開けたら、流星号が居なくなる。
征四郎は腕の中の温もりに顔をうずめ、嗚咽した。
「流星・・・ごめん・・・ごめん・・・うっ・・うっ・・・」
胸にかきついて、幼い子供のように泣きじゃくる征四郎の頭を、静かに奏は抱きしめていた。
藁の中に眠る征四郎を見つけて、安堵した奏は今はこの感情が何なのか知っている。
「流星号は、誰よりも君を好きでしたよ。」
「自分の命を捨てても助けたいと思うほどにね・・・僕も、流星号のように君が好きですよ・・・。」
悲しみのどん底で、一番欲しかった幸せな言葉を聞いた。
「・・・奏さ・・・ん・・・。」
胸から這い上がった征四郎が、奏をそっと抱きしめた。
次第に強くなる抱擁に、奏は息を詰め背中をとんとんと叩いた。
「せめて・・・寝台にしていただけませんか。」
征四郎がしとどに濡れた頬を向け、くしゃと笑顔に変えた。
(*⌒∇⌒*)♪奏:「征四郎君、見つけた~!」
(´/ω;`)征四郎:「奏さん、流星号が・・・」
(´・ω・`)奏:「責任感じるなぁ。」
(´;ω;`) 征四郎:「くすん・・・」
傷心の征四郎をちゃんと励ましてあげられるかな・・・っていうか、此花エチはいつ?
(*⌒∇⌒*)♪今日ちょっとだけ書けそうだったけど、持越し~。
ヾ(。`Д´。)ノ「逃亡せずにちゃんと書けよ、ぼけ~!」
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