夢の欠片(かけら)・8
流星号のいなくなった厩舎で、征四郎は長い間残された鞍を撫でていた。
虚ろな瞳は力なく、何も映していなかった。
「僕が・・・殺した・・・」
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流星号が護った征四郎の命は、奇跡的に軽傷で済んだ。
家人が駆け付けた時、本来なら重い馬体に押し潰されているはずの征四郎は、流星号の背中に跳ね上げられて気を失っていた。
呼ばれた獣医が流星号に声を掛けると、かすかに鼻面を寄せて主人に何事か告げるようにしたらしい。
戸板で病院に運ばれてゆく征四郎に、軽くいなないて別れを告げると流星号は静かに体を横たえたのだという。
それが征四郎に向けた、流星号の精いっぱいだった。
馬にとっては前脚の骨折は、命とりだ。
どれほど生かしておきたくとも、傷めた足はやがて壊死する。
腐敗菌感染が回り壊疽した足からは毒素が出て、それが全身にまわると感染症により苦しんで、どの道死亡することになる。
颯は、征四郎が病院にいる間に、流星号の安楽死を決めた。
「兄上!何で勝手に僕の流星号を処分したんです!」
血相を変えた征四郎は、見舞いに訪れた兄に詰め寄っていた。
「体をハンモックで釣り上げて馬体を支えてやれば、もしかして助かったかもしれな・・っ・・・!」
「愚か者っ!」
颯は我を忘れた弟の頬を、思い切り打った。
「なぜ、こんなことになったか、自分が一番分かっているだろう?征四郎、泣き喚いていないで流星号に頭を下げて詫びて来い!大馬鹿者がっ!」
馬が寝たきりになれば、地面に当たったところから床ずれを起こし結局は、感染症に至り苦しませることになると征四郎にはわかっていた。
「流星・・・・っ・・!」
それでも、兄に迫り掴みかかり、慟哭せずにはいられなかった。
流星号は、年の離れた兄よりもはるかに仲の良い、征四郎の身内だったのだ。
小さな奏太郎が父親の膝にかきつくまで、兄は浅はかな行いで家族のような馬を失った弟を殴り続けた。
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奏はあれ以来、顔を見せない征四郎のことが気になっていた。
どれだけ冷たくしても、次の日にはまたにこにこと人懷っこい笑顔を浮かべて愛馬に乗って現れる征四郎だった。
苛めすぎたかなと胸が騒いだが、これで良いのだときっぱりと思いなおすことにした。
征四郎はまだ若い。
これから真っ当に燦然と輝く路を、太陽に愛されて歩いてゆかねばならない。
奏は山と積まれた事業と、格闘していた。
「大変ですっ、奏さま!」
血相を変えて飛び込んできた白雪に、奏は何事かと顔を向けた。
「先ほど湖上さまから連絡があって。征四郎くん、落馬されたそうです。」
「落馬っ!?」
がたと音を立てて立ち上がった奏の机から、書類の束が崩れ落ちた。
「白雪。」
「外に馬車を呼んであります。すぐにお出かけになってください。お供します。」
軽く頷いて車中の人になった奏の脳裏には、満面の笑顔の征四郎が浮かび消えた。
気が付けば、膝の上に握り締めた拳が小刻みに震える。
無事を祈りながら、奏は蒼白の顔で病院へ向かった。
心臓を冷えた濡れ手でずっと握られているような気がする、こんな思いは初めてだった。
病院の入り口で、颯が二人を待っていた。
「颯・・・こんな所で、どうしたんです?征四郎君は?」
「奏・・・僕は征四郎に、厳しく言い過ぎたかもしれない。」
病室は、もぬけの殻だった。
呆然と空の寝台を見つめる奏に、颯が打ち明けた。
「流星号を処分したんだ。征四郎が人事不省の間に・・・。」
「颯。あの馬は、征四郎君にとっては・・・」
「ああ。流星号は征四郎とは生まれた時から一緒にいた兄弟のようなものだったから、頭では分かっていてもおそらく納得がいかなかったのだろう。」
「可哀想に・・・」
白雪が先に涙ぐんだ。
愛馬にさっそうと跨って駆ける征四郎は、人馬一体という言葉を絵に描いたようだった。
人馬は互いを理解し、誰よりも長く一緒にいた。
奏の心に、ひんやりとした不安が這い登る。
「すぐに、心当たりを探しましょう。」
きっと、どこかで自分を責めて泣いている。
奏には、わかっていた。
華桜陰高校の馬場で、話し込むように長い間、早足で駆ける人馬を何度も見てきた。
理事長室で執務に励みながら、放課後顔を上げれば笑顔の征四郎と流星号が見える。
夕日を背に伸びやかな青年が、奏に気が付き大きく手を振った。
(´・ω・`)奏:「征四郎君、どこへ行ってしまったんだろう、・・・」
(´/ω;`)征四郎:「流星号・・・」
(´・ω・`)奏:「責任感じるなぁ。」
(´;ω;`) 征四郎:「兄上のばか~・・・」
傷心の征四郎はどうなるのでしょう・・・?
っていうか、此花エチはいつ?
(*⌒∇⌒*)♪今日ちょっとだけ書けるかと思ったら、挫折~。
ヾ(。`Д´。)ノ「笑って言うな、ぼけ~!」
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