夢の欠片(かけら)・2
「征四郎っ!」
ノックもなく、いきなり扉が開け放たれた。
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パイルのガウンを着て、ソファの上でくつろいだ風で形ばかり頭を下げた弟に、探し回って息を切らした颯は呆れた。
「まったくおまえは!いい年して、迷子なんぞになるなんて。」
「兄上、ごめんなさい。馬車にレールがあるのが珍しくて、つい付いて行ってしまいました。」
「でもそのおかげで、運よく兄上よりも先に如月さんに、お会いできました。」
にこにこと、屈託のない笑顔でそういう弟に、子供か・・・と颯はごちた。。
「こんな兄上より、ぼくは、ずっと前から如月さんにお会いしたかったんです。」
「こんな・・・だと・・・?征四郎っ!」
「助けてっ、如月さん。」
首根っこを押さえつけようとしたら、すっと逃れて奏の後に隠れてしまった。
「だって、姉上が毎日うっとりと写真を眺めながら、どんな役者よりも素敵なのよ~って言うんですもん。ぼく、気になって気になって・・・くしゅっ。」
「いい加減にしないかっ。軽々しいにも、ほどがある。」
とうとう拳骨を喰らって、征四郎は涙目になった。
「・・・如月さんは、どうしてこんな粗暴な兄上と、友人なんですか。そんな清楚なたたずまいで兄上とは雲泥です。」
「まだ言うか、征四郎っ!」
「きゃあーっ!」
言いたい事を口にして相手を怒らせるのは、どうやら兄と似た性分らしい。
とうとう掴まって、ぐりぐりと拳を頭に入れられ、征四郎は降参した。
「あ、兄上。義姉上から、伝言があります。」
「なんだ?」
「奏太郎のお宮参りには、お帰りになってね、ですって。」
何も、ここで言うことはないと思ったが、颯はとりあえず頷いた。
「酷い父上ですねぇ・・・仕事にかまけてろくに家にも帰らないんだから。」
「息子にぼくの一字をくれと言うから、どんなに最初の子どもを大切にするのかと思っていたのに・・・」
奏は優雅な物腰で、白雪の肩に手を置いた。
征四郎はすっかり魅入ってしまって、ティーカップを持ったままぽかんと半分口をあいたままだ。
「白雪・・・君のハンケチを貸してくれ・・・」
「奏さま。お気の毒に・・・ご心痛、お察しいたします。」
征四郎が目を丸くする前で、奏は白雪から白い華奢なレェスのハンケチを受け取ると、そっと目に当てた。
家に帰らないので、寂しい思いをしているだろう小さな奏太郎を思って、奏は思わず零れ落ちる涙を拭いたらしい。
「忙しい父上が恋しくて、小さな奏太郎君は泣くんでしょうねぇ・・・。父上に逢いたいって。」
「かわいそうに・・・奥様も、きっと困り果てて征四郎くんにご伝言を頼んだんですね。」
奏の細い指が、髪をかき上げた。
「お月さまに、小さな手を合わせて今夜もお願いするんでしょうよ。」
「お月さま。奏太郎を父上に逢わせてくださいって・・・」
「うっ・・・うっ・・・」
感極まって、征四郎は貰い泣きしそうになっていた。
というか、すでに嗚咽が漏れた。
「き・・・如月さんって・・・見た目も綺麗だけど、心根も本当に優しいんだ・・・。」
「やっぱり、ぼくがずっと思ってきたとおりの方だったんだ。」
まるで西洋絵画を眺めるように憧憬を込めて、征四郎は奏をくいいるように見つめていた。
(´・ω・`)白雪:「ちょっとやりすぎじゃありません?奏さま。」
(*⌒∇⌒*)♪奏:「あはは。子供をからかうのって楽しいねぇ、白雪。」
(〃▽〃) 征四郎:「綺麗だ~、奏さん~・・・」
∑( ̄□ ̄;)颯:「征四郎?」
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