夢の欠片(かけら)・4
如月奏の、幸福の断片はそこかしこに溢れていた。
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あれから毎日、奏が自社に着くと、必ず征四郎が顔を出す。
「如月さん!」
「おや。征四郎くん。また、來たの?」
「はい!会いたかったです。」
駆け寄る征四郎の満面の笑顔に困ったような顔を向けて、奏が肩をすくめた。
少し冗談が過ぎたかな・・・と内心思っていた。
「華桜陰高校の理事として質問します。今日学校は?」
「これから行きます。奏さんの顔を見に来ただけだから。じゃあ!」
栗毛の駒にひらりと乘ると、あっという間に駆けて行ってしまう。
日課になってしまった朝の風景だった。
「湖上さまはかなり正直な方だと思っていましたけれど、征四郎くんはそれ以上に素直な方ですねぇ。」
「奏さまのこと、本当に大好きなんですね。可愛いじゃないですか。」
可愛い・・・?
子供が素直に親愛の情を現したからと言って、何なんだ。
奏は、毎日顔を見せる少年に、少しばかり苛立っていた。
まっすぐに向ける思慕に、思わず過ぎた過去がゆらりと立ち上がりそうになる。
あんな感情は知らない。
まっすぐに向ける思慕が、相手に屆いたことの無かった奏には対処の方法がなかった。
何より・・・まだ少年と言った方が良いくらいの征四郎は、心の底に封じ込めて来た初恋の男にあまりに似すぎていた。
颯を呼び出して、食事に誘った。
「あなたからも、言ってくれませんか?」
「なんと?征四郎は誰かの意見を聞いたりしないぞ。世の中で、自分が一番正しいと思っているんだから。」
「そんなところまで・・・」
あなたにそっくりじゃありませんか・・・と、思いながら牛鍋に口を付けた。
「仕方がないと思うがね。まあ、あれははしかのようなものじゃないか?いずれ、熱も冷めるだろう」
「・・・だったらいいのですけど。」
「公家はどうかしらんが、武家には衆道というものがあって、征四郎にはおそらく念者を持つのにそれほど背徳感はないだろうね。」
食の細い奏の皿の肉までどんどん平らげて、颯は豪快に笑った。
「まあ、よろしく頼む。それに、ぼくには征四郎の気持ちもわからんではないんだ。」
「・・・?」
小首をかしげると、細い髪がさらりと流れた。
「華桜陰に入学したとき、壇上に立った君を見て、世の中にこんな綺麗な生き物がいるのかと思って息を呑んだ。」
「生き物って。一体・・・僕を何だと思ってるんです・・・?それにぼくは、もう27ですよ?」
「君は、あの頃と何も変わらんぞ。」
ずいと颯が奏に身を寄せ、ささやいた。
「ここの牛鍋屋の主人が言うには、腐りかけた牛肉が一番美味いそうだ。」
「なっ・・!」
思わず立ち上がった奏を、颯がにこにこと笑って掛けさせた。
「甘やかして育てたせいか、天真爛漫すぎるかもしれないが、気のいいやつなんだ。嫌わないでやってくれ。」
「・・・あなたの弟を、嫌ったりしませんよ。特別なんですから。」
「ただ、戸惑っているだけです。あまりに征四郎くんがまっすぐで、日輪のようだから、僕には眩しすぎるんです。」
微笑む奏は、少し悲しそうに見えた。
(´・ω・`)奏:「腐りかけた牛肉って、ぼくのことですか?」
(*⌒∇⌒*)♪颯:「あはは。冗談に決まっているだろう。」
(´/ω;`)奏:「ひどいです~・・・」
∑( ̄□ ̄;)颯:「あ、冗談の通じないタイプなの忘れてた・・・」
ヾ(。`Д´。)ノ白雪:「颯さまったら、もう~~~!!」
昨夜の分は、ちゃんと反映されていなかったみたいでした。
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