深い森の奥の魔導師・21
「ヨハネの黙示録」に記された最期の戦いが近づいていた。
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初めに駆け上がってきたのは、地獄の番犬と言われる「ケルベロス」だった。
獅子のような巨大な一つの身体に、三つの頭を持ち、それぞれが別々に思考する魔獣の姿に、魔導師の卵たちは震えた。
寧猛な性格は、魔導師は皆知っていた。
背後から襲おうとすれば背中に無数に並んだ顔が、敵だと叫んだ。
うっかり傷をつければ、飛び散った体液は猛毒の毒液となって、魔導師を傷つける。
彼らは逃げ出しそうになる自分を奮い立たせながら、必死に魔法をかけた。
小山のような巨大な魔犬は、喉元に喰らい付く機会をうかがいながら、卵たちとの距離を測っていた。
今はない大魔導師エルの使い魔、古代竜カーディナルは、卵たちに蜂蜜を準備するように告げた。地獄の番犬ケルベロスの好物、芥子の実と蜂蜜を練って作った菓子を最悪の時の切り札として、卵たちは腰に付けた。
一人の脱落も許せないほど、情勢はひっ迫していた。
小物たちは、あとからあとから無尽蔵に闇の世界から這い上がってくる。
潰してもきりのない泥人形は、卵たちを取り囲み逃げ場を奪った。
高い岩場に追い詰められて、飛翔する使い魔を持つ者は逃げ出せたが、跳べない者はじわじわと飮まれてゆく。
泥人形たちは、一体一体が魔導師の卵にしがみつき、人海戦術で一人ずつ潰して行く戦法を取っていた。
「た…助けて…助けてっ!」
「きゃあああーーーっ!」
身体に泥人形がしがみついてしまったら、逃れようがなかった。
耳、鼻、口、ありとあらゆる隙間から、泥は侵入し魔導師の息を止めてゆく。
トモの仲間たちが、崖の上に数人追い詰められて転がり落ちて行くのをジェードが見つけた。
だが、ジェードは押し寄せる地獄の業火が、溶岩のように流れてくるのを必死で食い止めねばならなかった。
すべての竜が魔導師に与したわけでもなく、古代竜のような知恵があるものの中にも、敵に付いた竜も多い。
同じ火喰い竜の仲間でも、ジェードは混血で聖獣の流れをくんだが、小型の火喰い竜は火蜥蜴と呼ばれ火口で静かに暮らすだけのものもいた。
彼らは魔界に難なく取り込まれ、溶岩を火口から運び結界の向こう側からこちらに向けてどんどん投げてよこした。
「ジェード!また大きな波が来た!」
トモが必死に励ますのは、火の手がますます寄せて来たからだ。
翼竜達や天馬は風を興し、魔導師の世界に火が襲い来るのを防ごうとしていた。
だが火勢いは強く、風はいくら送っても食い止めることはできなかった。
ジェードは火喰いとして懸命に火を食らった。
喰らっても喰らっても、火の玉は魔導師の世界へと転がってきて今や火の手は草原を渡る風のようになって全てを飲み込む火の海原になろうとしていた。
「ジェード!」
どれほどの火をジェードは呑みこんだろう。
腹をぱんぱんに張らせて、竜のジェードは苦しそうだった。
トモの励ましに何とか一つ二つ、火の塊を飲み込んだが、すでに限界だった。
外から見ても腹の皮は薄くなり、トモは心配のあまり泣きそうになった。
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∑( ̄□ ̄;)トモ:「これ以上、火を飲み続けたらジェードが壊れてしまう!」
!(`・ω・´)ジェード:「キュエッ!」←がんばる!
(´/ω;`)トモ:「無理させちゃって、ごめんね。」
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