星月夜の少年人形 4
眠ってしまうと年齢よりも幼くなって、ひどく心許なく見える。
母親が入院してから、家事はこの子の肩にかかっている。気のせいではなく、少し痩(や)せたように思う。
父は、ソファからそっと優月を抱き上げ、寝室へと運んだ。疲れ切っているのだろう、身じろぎもしなかった。
3年前、父はパソコンスクールで出会った、優月の母、美晴と結婚することを決めた。
たった一人で子供を連れて暮らしていた美晴は、それまでずっとスナックで働いていたと寂しげに語った。
「お金を貯めて、何か資格を取りたかったの。そうしたら、給料が少しでも上がるでしょう?昼の仕事なら、子供に少しでも寂しい想いをさせずに済むから。」
「前向きだね。」
「そうよ。子供は親の背中を見て育つんですもの。わたしは父親の役もするの。」
化粧気のない顔で髪を一つにまとめ、真剣な眼差しで液晶画面に向かっていた。
優月が高学年になってからはきっぱりと水商売からは足を洗い、スーパーのレジ打ちに行っていたらしいが母子年金を加えても収入は12万円しかなかったそうだ。
懸命に生きる美晴に神村が好意を持つのに、さほど時間は要らなかった。
一緒に暮らさないかと持ちかけた時、美晴は驚いてしばらく言葉を発せなかった。
幸せになることを、とうに諦めていた表情だった。
「同情されるのは嫌です。一緒になったら、あなたに経済的に負担をかけるってわかっているのに・・・。」
そうじゃないんだと、神村は言葉を尽くした。同情ではなく、共に居たいからだと語った。
「美晴さん、もしそうとしか思えないのなら、それでもいいです。俺に甘えてくれませんか?同じ子連れ同士、家族になってください。どうか、よろしくお願いします。」
堰を切って溢れる涙を拭いながら、うんうんと頷く美晴と息子の優月はとても良く似ていた。
初めてお互いが子供を連れて食事をしたのを思い出す。子供たちはすぐに仲良くなって、互いの親はほっと胸をなでおろした。
トイレに立った時に、優月は神村を追いかけてきて、戸口のところで自分だけに聞こえるように小さな声で告げた。
「お母さんは、小父さんのことがとても好きなんです。お母さんをよろしくお願いします。」
「こちらこそ。君のお父さんにしてくれると嬉しいよ。仲良くしような。」
「はい。」
「塔矢は甘えん坊だから、きっと迷惑かけると思うけど大丈夫かな。」
「ぼく、一人っ子だから兄弟のできるのがすごくうれしいです。塔矢くんみたいに可愛い弟ができて、毎日何して遊ぼうって思ってしまう。」
優月の笑顔は心底嬉しそうで、神村は思わず愛おしいと思い、中学になったばかりの優月を抱き上げた。
「きゃあ~・・・」と、何とも言えない声を上げたのは、優月にはそんな経験がなかったからだ。父の顔を知らない優月は、思わず声を上げてしまったが、その表情は上気していて決して嫌がってはなかった。
そんなささやかな幸せを求めた家族に、別れが訪れようとしている。
月を隱す厚い雲のような大きな影が、優月と家族を飲み込もうとしていた。
ψ(=ФωФ)ψ← 此花大魔王 :命名 けいったんさま
やばす~、気に入ってしまった。こうなったら、いじめっ子上等だ~~!(*⌒▽⌒*)♪←違ってる~
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