星月夜の少年人形 13
「お父さん。ぼく、これから羽藤さんのところに行って来ます。」
「優月?」
「なんか話してると、すごい楽しくって。もう少し、話しようってことになったんだ。いいかな?」
「そうか。まあ、明日は学校も休みだし、行っておいで。たまには塔矢の子守りから解放されてもいいだろう。」
「うん。塔矢の機嫌、取ってあげてね。」
優月は笑顔で父に告げると、さっさと支度をして玄関に向かった。
思い付いてリビングに戻り、一時帰宅を許された母に声を掛けた。
「お母さん、気を付けてね。無理しちゃだめだよ。」
「大丈夫よ。お父さんが何もさせてくれそうにないから。行ってらっしゃい。」
「うん。あのさ・・・元気な赤ちゃん、産んでね。」
「優月?」
何気なく口にしてから、優月はうっかりしたのに気が付いた。これでは、まるでもう逢わないと言っているようだ。
わざと声を上げて、言い訳してみせた。
「なんかさ、お母さんが居るだけで、家の中が温かくなった気がするね。塔矢も、ずっと寂しかったんだよ。ほら、ぎゅうっと握ったまんま眠ってる。」
「そうね。優月にもいっぱい迷惑かけちゃったわね。赤ちゃんが生まれたら、埋め合わせするから期待してて。」
「うん。」
眠りこんだ塔矢を抱き上げて父親に渡すと、優月は家の外へ出た。
「羽藤さん。」
「貸して、荷物。」
気のせいか羽藤の声も弾んで聞こえる気がする。優月は車に乗り込む前に、ふと振り返って家を見た。大好きな家族が住む、明かりのついた温かい空間がそこにある。
見納めだと思うと、目頭が熱くなって来るのを耐えた。
何も知らない羽藤が「どうしたの?忘れ物?」と聞いた。
「いえ・・・。今日も風に乗って、すごく良い匂いがするなって思って・・・・。」
「そう言えば、何の匂いかな?ずいぶん優しい匂いだね。」
「八重咲きの木香(もっこう)薔薇です。二軒向こうに薔薇の花をたくさん植えてるおうちがあって、今の時期は窓開けてたら部屋中いい匂いがするんです。」
「近所中、贅沢な芳香剤だね。」
「ええ、ほんとに。」
車が走り出すうち、自然と二人は無口になった。
優月にしても大胆なことを口走ってしまったと、横を向いて赤面していた。羽藤も思いがけず、年下の思い人が助手席に座っている幸運をどうしたものかと思案していた。
静かに車は走り、やがて羽藤の自宅マンションの地下駐車場に滑り込んでゆく。
羽藤は、優月の顔を覗き込み優しく声を掛けた。
「優月君、緊張してる?」
声も出せずに、こくりと優月が頷いた。鼓動が空気を振動させている気がする。
羽藤は、正直に僕もだと告げた。
「なんかね、中学の時に家庭教師が好きで、どきどきしていたのを思い出したよ。おじさんも昔は可愛かったね~。先生に好かれたくて、毎日一生懸命勉強したんだよ。」
優月はふっと綻んだ顔を向けた。
「可愛い、羽藤さん。」
「可愛いだろう?男は誰だって恋をするとさ、嫌になるほど小心になるんだよなぁ・・・。」
見つめ合って…やがて、車内の影が一つになった。
(*/∇\*) 「きゃ~…、ファースト、キス~・・・」
(〃▽〃) 「ご馳走さま、優月くん。」
ψ(=ФωФ)ψ「♪うふふ~~・・・、つかの間の幸せに浸るがいい~~~!!」←ろくなやつじゃね~
過去作品をお読みくださった方、ありがとうございました。拍手をたくさんしてくださって驚きました。
すごくうれしかったです。
ポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
「優月?」
「なんか話してると、すごい楽しくって。もう少し、話しようってことになったんだ。いいかな?」
「そうか。まあ、明日は学校も休みだし、行っておいで。たまには塔矢の子守りから解放されてもいいだろう。」
「うん。塔矢の機嫌、取ってあげてね。」
優月は笑顔で父に告げると、さっさと支度をして玄関に向かった。
思い付いてリビングに戻り、一時帰宅を許された母に声を掛けた。
「お母さん、気を付けてね。無理しちゃだめだよ。」
「大丈夫よ。お父さんが何もさせてくれそうにないから。行ってらっしゃい。」
「うん。あのさ・・・元気な赤ちゃん、産んでね。」
「優月?」
何気なく口にしてから、優月はうっかりしたのに気が付いた。これでは、まるでもう逢わないと言っているようだ。
わざと声を上げて、言い訳してみせた。
「なんかさ、お母さんが居るだけで、家の中が温かくなった気がするね。塔矢も、ずっと寂しかったんだよ。ほら、ぎゅうっと握ったまんま眠ってる。」
「そうね。優月にもいっぱい迷惑かけちゃったわね。赤ちゃんが生まれたら、埋め合わせするから期待してて。」
「うん。」
眠りこんだ塔矢を抱き上げて父親に渡すと、優月は家の外へ出た。
「羽藤さん。」
「貸して、荷物。」
気のせいか羽藤の声も弾んで聞こえる気がする。優月は車に乗り込む前に、ふと振り返って家を見た。大好きな家族が住む、明かりのついた温かい空間がそこにある。
見納めだと思うと、目頭が熱くなって来るのを耐えた。
何も知らない羽藤が「どうしたの?忘れ物?」と聞いた。
「いえ・・・。今日も風に乗って、すごく良い匂いがするなって思って・・・・。」
「そう言えば、何の匂いかな?ずいぶん優しい匂いだね。」
「八重咲きの木香(もっこう)薔薇です。二軒向こうに薔薇の花をたくさん植えてるおうちがあって、今の時期は窓開けてたら部屋中いい匂いがするんです。」
「近所中、贅沢な芳香剤だね。」
「ええ、ほんとに。」
車が走り出すうち、自然と二人は無口になった。
優月にしても大胆なことを口走ってしまったと、横を向いて赤面していた。羽藤も思いがけず、年下の思い人が助手席に座っている幸運をどうしたものかと思案していた。
静かに車は走り、やがて羽藤の自宅マンションの地下駐車場に滑り込んでゆく。
羽藤は、優月の顔を覗き込み優しく声を掛けた。
「優月君、緊張してる?」
声も出せずに、こくりと優月が頷いた。鼓動が空気を振動させている気がする。
羽藤は、正直に僕もだと告げた。
「なんかね、中学の時に家庭教師が好きで、どきどきしていたのを思い出したよ。おじさんも昔は可愛かったね~。先生に好かれたくて、毎日一生懸命勉強したんだよ。」
優月はふっと綻んだ顔を向けた。
「可愛い、羽藤さん。」
「可愛いだろう?男は誰だって恋をするとさ、嫌になるほど小心になるんだよなぁ・・・。」
見つめ合って…やがて、車内の影が一つになった。
(*/∇\*) 「きゃ~…、ファースト、キス~・・・」
(〃▽〃) 「ご馳走さま、優月くん。」
ψ(=ФωФ)ψ「♪うふふ~~・・・、つかの間の幸せに浸るがいい~~~!!」←ろくなやつじゃね~
過去作品をお読みくださった方、ありがとうございました。拍手をたくさんしてくださって驚きました。
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