星月夜の少年人形 ５
翌日、父が朝刊を何気なく開くと、日本の経済に影響を与える財閥のトップが、脳梗塞で半身不随になったというスクープ記事が踊っていた。
闘病を隠していたのがすっぱ貫かれたらしく、テレビをつけてもそのニュースばかりだった。
戦前から続く誰もが名を聞けばわかるような財閥で、戦後解体したものの、今も政財界に顔が利く「帝王」とあだ名される人物の長男ということだった。
倒れたという線の細いその男は、何度も写真が出るたび眼を引く芸能人顔負けの優男だった。柔和な人好きのする頭の切れる男は、ワンマンな先代の長男ということで鳴り物入りの大抜擢で社長に就任したが、激務で体調を崩しがちだったらしい。
実際には会長職に退いた先代が、背後で全てを牛っている黒幕ということだった。
「まだ４５歳の若さで半身不随なんてなぁ、気の毒に。どうなるのかね。」
優月はバタバタとお弁当を作りに忙しく、父の話には上の空だった。
父の取引先の関係で、まだその記事に載っている大きな会社が自分の家族に深くかかわる話だとは思いもよらなかった。
「塔矢、お弁当のおかず、つまみ食いしちゃだめだよ。ほら、朝ご飯にもちゃんと、あるからね。」
「う～ん。あ、兄ちゃんすっごい、お弁当のこれ！」
塔矢は遠足のお弁当が気になって仕方がないらしい。海賊の戦隊ものの主人公がかぶっている二角帽子のどくろマークがきちんと付いているか、確認したくてたまらないようだった。
「お弁当開けた時の楽しみが無くなっちゃうからね。今は、我慢だ、塔矢。ラジャ？」
「ラジャ！」
胸を叩き海賊の挨拶をすると、聞き分け良く塔矢は自分でスモックを着て、帽子をかぶった。
今日は遠足で、塔矢には特別な日だった。塔矢が起こされずに自分でできちんと起床し、支度するなんて滅多にないことだ。
優月は、塔矢を父に預けると「行ってきます！」と、声を掛け家を出た。
優月も塔矢も、父も、まだ知らなかった。今日、塔矢に作った遠足弁当が、優月の作る最後になる。
精いっぱいの思いを込めたのが、せめてもだったと後に星を見上げて優月は思い出す。
「元気かな・・・塔矢・・・。」
どこまでも墮ちて行く中で、ふと思い出すのはかけがえの無い家族のことだった。
胸に広がる屈託のない弟と両親と、大好きな人の笑顔。
たった一つの綺麗な思い出だけが、優月の支えだった。
＊＊＊＊＊＊＊
「優月！一限目の数学の例題やってきた？」
教室に入るなり、友人につかまった。
「半分だけ。昨日、風呂上りに寝ちゃった～。」
「くっそ、優月を当てにしていた俺はどうなるんだ。今日、当たるのに～～～！！」
「何問目？大急ぎでやっつけるよ。」
「優月～、心の友よ～！」
頭を抱えたジャイアン…友人の例題を一生懸命解く優月を、友人はじっと見つめていた。
長い睫に縁どられた印象的な瞳をノートに落とし、半開きになった口元から白い真珠の歯がほんの少し覗いている。
声に出さずにここはこう・・・と、呟いたのが口の形でわかる。ぼうっと綺麗な横顔に見惚れていたら、ふいに向き直られて狼狽えた。
「わ・・・。優月、早ぇ・・・もうできたのか？」
「一問だけ先にやっといた。これでいいかな？」
「助かる～！」
広げた手元のノートには、完璧な答えが並んでいる。授業の始まる数分前が勝負だった。
からりとドアが開き担任が授業前のホームルームにやってくる。今朝は少し様子が違っていて、いきなり「神村。」と優月を呼んだ。
「校長室に客人が見えている。急いで行きなさい。」
学校に客と聞いて優月の顔色が変わった。
「先生、それは父ですか？母に何か・・・？」
「いや、詳しくは聞いてないが御親戚の方だそうだ。大丈夫だ。もし、お母さんの事なら病院から直接学校に連絡が有るか、お父さんが見えるだろう？」
ふっと力が抜けた。自分でも知らない内に、母の事に敏感になっていたらしい。
「すみません。行ってきます。」
軽くうなづいた担任は、優月以外の出欠を取り始めた。
これまで、ゆっくりと進んで来ましたがこれから優月の運命が変わってゆきます。
校長室で待っている客人は一体・・・・(´・ω・｀)
♪ψ(=ФωФ)ψ←出演はもう少し向こうです。(*⌒▽⌒*)♪
拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
闘病を隠していたのがすっぱ貫かれたらしく、テレビをつけてもそのニュースばかりだった。
戦前から続く誰もが名を聞けばわかるような財閥で、戦後解体したものの、今も政財界に顔が利く「帝王」とあだ名される人物の長男ということだった。
倒れたという線の細いその男は、何度も写真が出るたび眼を引く芸能人顔負けの優男だった。柔和な人好きのする頭の切れる男は、ワンマンな先代の長男ということで鳴り物入りの大抜擢で社長に就任したが、激務で体調を崩しがちだったらしい。
実際には会長職に退いた先代が、背後で全てを牛っている黒幕ということだった。
「まだ４５歳の若さで半身不随なんてなぁ、気の毒に。どうなるのかね。」
優月はバタバタとお弁当を作りに忙しく、父の話には上の空だった。
父の取引先の関係で、まだその記事に載っている大きな会社が自分の家族に深くかかわる話だとは思いもよらなかった。
「塔矢、お弁当のおかず、つまみ食いしちゃだめだよ。ほら、朝ご飯にもちゃんと、あるからね。」
「う～ん。あ、兄ちゃんすっごい、お弁当のこれ！」
塔矢は遠足のお弁当が気になって仕方がないらしい。海賊の戦隊ものの主人公がかぶっている二角帽子のどくろマークがきちんと付いているか、確認したくてたまらないようだった。
「お弁当開けた時の楽しみが無くなっちゃうからね。今は、我慢だ、塔矢。ラジャ？」
「ラジャ！」
胸を叩き海賊の挨拶をすると、聞き分け良く塔矢は自分でスモックを着て、帽子をかぶった。
今日は遠足で、塔矢には特別な日だった。塔矢が起こされずに自分でできちんと起床し、支度するなんて滅多にないことだ。
優月は、塔矢を父に預けると「行ってきます！」と、声を掛け家を出た。
優月も塔矢も、父も、まだ知らなかった。今日、塔矢に作った遠足弁当が、優月の作る最後になる。
精いっぱいの思いを込めたのが、せめてもだったと後に星を見上げて優月は思い出す。
「元気かな・・・塔矢・・・。」
どこまでも墮ちて行く中で、ふと思い出すのはかけがえの無い家族のことだった。
胸に広がる屈託のない弟と両親と、大好きな人の笑顔。
たった一つの綺麗な思い出だけが、優月の支えだった。
＊＊＊＊＊＊＊
「優月！一限目の数学の例題やってきた？」
教室に入るなり、友人につかまった。
「半分だけ。昨日、風呂上りに寝ちゃった～。」
「くっそ、優月を当てにしていた俺はどうなるんだ。今日、当たるのに～～～！！」
「何問目？大急ぎでやっつけるよ。」
「優月～、心の友よ～！」
頭を抱えたジャイアン…友人の例題を一生懸命解く優月を、友人はじっと見つめていた。
長い睫に縁どられた印象的な瞳をノートに落とし、半開きになった口元から白い真珠の歯がほんの少し覗いている。
声に出さずにここはこう・・・と、呟いたのが口の形でわかる。ぼうっと綺麗な横顔に見惚れていたら、ふいに向き直られて狼狽えた。
「わ・・・。優月、早ぇ・・・もうできたのか？」
「一問だけ先にやっといた。これでいいかな？」
「助かる～！」
広げた手元のノートには、完璧な答えが並んでいる。授業の始まる数分前が勝負だった。
からりとドアが開き担任が授業前のホームルームにやってくる。今朝は少し様子が違っていて、いきなり「神村。」と優月を呼んだ。
「校長室に客人が見えている。急いで行きなさい。」
学校に客と聞いて優月の顔色が変わった。
「先生、それは父ですか？母に何か・・・？」
「いや、詳しくは聞いてないが御親戚の方だそうだ。大丈夫だ。もし、お母さんの事なら病院から直接学校に連絡が有るか、お父さんが見えるだろう？」
ふっと力が抜けた。自分でも知らない内に、母の事に敏感になっていたらしい。
「すみません。行ってきます。」
軽くうなづいた担任は、優月以外の出欠を取り始めた。
これまで、ゆっくりと進んで来ましたがこれから優月の運命が変わってゆきます。
校長室で待っている客人は一体・・・・(´・ω・｀)
♪ψ(=ФωФ)ψ←出演はもう少し向こうです。(*⌒▽⌒*)♪
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