星月夜の少年人形 6
「はじめまして。土光財閥の顧問弁護士です。」と名乗り、校長室のソファを、我物のようにどうぞと優月に勧めた。
「失礼します。」
「ああ、君が美晴さんのご子息か。報告通り、お母さんに良く似ているね。これなら、会長の機嫌を損ねないで済むかな。」
「あの・・・?報告通りって?」
「失敬、神村君。なんでもない。」
土光財閥という、優月でも聞いたことのあるような大企業の弁護士が、自分に一体何の用があるんだろう。怪訝な気持ちで、じっと弁護士と名乗った男を見つめると、思いがけず相手はふっと破顔した。
「そんな顔しなくても、食ったりはしませんよ。大切なお話があるので、ここまで出向いた次第です。」
優月は椅子に座って、膝をそろえ話を聞いた。
余りにとんでもない話が次々に出てくるので、話の腰を折ることもできず身体を固くして、ただ弁護士という怜悧狡猾な男が語るのを聞いていた。
「経団連会長を務めた、土光財閥会長、土光宗光さんが、あなたのお爺様です。ご存知でしたか?」
ただ、ぶんぶんと頭を振るしかなかった。母は、天涯孤独だとしか聞いていなかった。
優月の小さなころに、父も病気で死んだのだと聞かされていた。
「この最近、マスコミにリークされましてね、社長、つまり君の伯父さんになるのだけれど・・・闘病が世間に洩れてしまって、後継者問題が浮上したわけです。土光財閥のように大きな組織だと、町工場のようなわけにはいきませんからね。」
そんなものなのかなと、優月は思う。普通に考えれば、確かに会社が大きくなればなるほど、組織の存亡は多くの人の人生を左右するのだろう。
「会長が社長に代わって、指揮を執れる間はいいのですが何分御高齢なので、周囲が心配するわけです。ワンマンな方ですから、他人に会社を渡すくらいなら解散した方が良いと、経済を揺るがすようなとんでもないことを言い出しまして・・・。」
それで…と、顧問弁護士は優月に切り出した。
「会長には、子供が二人いましてね、一人は今闘病中の社長、こちらは独身です。もう一人は家を出た神村美晴という女性です。」
「お母さん・・・?」
「ええ、そうです。社長の土光聖悟(しょうご)さんが闘病中の今、必然的に美晴さんが後継者として浮上したわけです。」
優月の周囲で、想像もつかない大きなうねりが起きようとしていた。
「我々は、とうに美晴さんの行方は突きとめていました。闘病中の若社長が、妹は自由にしてやりたいからとおっしゃっていましたので、これまで接触を図ることは極力抑えてきました。元々、美晴さんが家を出られたのは、身分違いの恋をなさったのが原因です。」
身分違いだなんて…。どこかの国の王女がお忍びで恋をするみたいな話は、映画やドラマの中だけだ。
思わず、優月はくすりと笑った。だが、弁護士が真剣に言うには、母は当時家に住み込んで社長の警護をしていた男と恋に落ちたらしい。
頭の切れる男で、警護だけではなく経済の勉強をしろと社長の肝いりで、秘書のようなこともしていたそうだ。深窓のお嬢様として、何不自由なくそして世間から隔離されて育った美晴が初めて近くに来た見目良い異性と恋に落ちるのは不自然ではなかった。
恋に落ちた母と男は、当然のように周囲から猛反対を受けた。駆け落ちした二人は、その後何か理由があって、別れたらしいが、美晴はそれでも家に帰ろうとはせず一人、子供を産み育てる道を選んだのだという。
「それが・・・ぼく?」
「その通りです。調査の結果、美晴さんは我々の知っている男と別れた後、神村氏と再婚された。現在、切迫流産の可能性があって入院中だということもわかっています。会長は身重の美晴さんよりも、直系のお孫さんである優月さんに、後継者になっていただきたいのです。これから仕込んでも十分間に合うだろうとおっしゃいました。」
不思議そうな顔を浮かべた優月に向けて、ああ・・・と、男は言葉を継いだ。
「学校の成績も調べさせてもらいました。殆ど自宅で勉強時間は取れていないなかで
公立ながら、そこそこのレベルにある高校で上位キープは大したものです。」
「そんなことまで・・・。」
「それが、企業の最優先事項でしたから、そうしたまでです。会長がお決めになったことですから、優月さんには申し訳ありませんが選択の余地はないと思って下さい。」
優月は余りの事に、大きく目を見開いたまま息を呑んだ。
(°∇°;) …ここしばらく、このサイトにはコメント欄に関して不具合がありました。
先程、気が付いたのですがカテゴリーがアダルトになっています。
個人的には、決して即物的なものを描いているつもりはなく、構成上必要不可欠な場面として書いているつもりでした。まして、お読みいただければお分かりいただけると思いますが、男女の性的な表現は皆無です。
正直言ってすごくショックなのですが、成人【R】指定を自分でつけている以上は、仕方がないのかもしれないとも思います。(´;ω;`) 「ど・・・どうしたらいいんだろう・・・?」
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