星月夜の少年人形 11
「ぼく・・・帰ります。」
「優月君。送るよ。」
大丈夫と言いながら立ちあがったら、ふらついた。泣くのを我慢したのと、理不尽な出来事に腹を立てたせいで頭痛がしていた。
今、きっと酷い顔をしていると思った。羽藤も、よく見れば疲れ切った顔をしている。
優月に関わったせいで・・・きっと何かが起きて、仕事に追われていたのだろう。
「羽藤さん、あの・・・うち、今夜は残り物のカレーなんですけど、食べに来ませんか?ぼくが作ったから、インスタントなんだけどちゃんと飴色玉ねぎ作って煮込むから、美味しいと思います。」
「いいね、カレーか。うん、聞いたら腹が空いてきた。神村食堂まで、飛ばすか。」
「はい。」
*******
車中で話すのは他愛もないことばかりだった。塔矢の日々の出来事を、優月は面白おかしく語った。
「・・・それでね、塔矢は海の中でおしっこがしたくなったのを、必死で我慢したんですって。で、浜辺を必死で走って、やっと見つけたトイレで用を足したら目が覚めたんですって。」
「布団の中だったか。」
「そうなんです。着替えさせている間、ずっと一生懸命話すんです。自分はトイレを探して頑張ったんだって。だから、ぱんつが濡れているのは、仕方のないことだって。」
「そうだなぁ、確かに夢の中で、トイレを探して努力してるよな。」
「ぼく、塔矢を怒れませんでした。惜しかったね~って言いました。」
「可愛いなぁ。」
「はい。何をしても、すごく可愛いんです。お父さんは、もっと厳しくしろって言うんですけど、なかなか怒れなくって。」
優月の話を、羽藤は時折声を上げて笑いながら、楽しそうに聞いた。
父と弟は、まだ入院中の母親の所にいるのだろうか。家の明かりが点いていないのがどこか寒々しく、羽藤が一緒で良かったと思う。
いつも塔矢と帰宅するから、優月はずっと嫌いだった誰もいない家のよそよそしさを忘れていた。母と二人で暮らしていた頃、家にテレビがなかったから、優月は静かな部屋で長い時間一人で過ごした。本を読んだり、絵を描いたりするのは好きだったが、小さい頃は冬の夕暮れの急に気温が下がった部屋に入ると孤独に苛まれて泣きそうになった。
母が結婚して、家族を得て一番喜んだのは塔矢よりも優月だったかもしれない。
*******
優月が手慣れた様子で冷蔵庫から鍋を取り出し、家事をするのを羽藤は見つめていた。視線に気づいて振り返った優月に声を掛けた。
「ずいぶん、手際がいいな。うまいもんだ。」
「毎日やってるから自然に慣れただけです。」
ざくざくと水菜を切り、細切りのハムと混ぜた。くし型に切ったトマトと和える。タイマーの音で、ゆで卵の火を止めた。
「うまいな、これ。」
「そう・・・?良かった~!」
心配そうに、羽藤がカレーを口に運ぶのをじっと見つめて居た優月が、感想に安堵する。
「お代わりもらったら、後がなくなるかな?」
「大丈夫です。本当の事言うと、作りすぎてたから。塔矢とお父さんには、カレーリゾット作りましたから遠慮しないでお代わりしてください。」
「カレーリゾット・・・って?」
「スープで残りご飯を炊いて、カレーを混ぜてチーズを乗せて焼くだけ。手抜き料理も得意です。」
優月は、はにかんだ笑顔を向けた。
「優月君!」
「はい!」
不意に真面目な顔を向けられて、何事か身構える。
「それ、少しでいいから食わせて。」
優月はぷっと吹き出し、何を言うのかと思ったと笑った。束の間の和やかな時間、羽藤も変わらなく見えた。
優月の心は決まっていた。
(〃▽〃)「カレーはジャガイモを入れない、お豆とキノコとお肉のカレーです。煮込み時間が少しで済みます。」
(`・ω・´) 「うまいよ、優月くん!」
(*⌒▽⌒*)♪「よかった~~♡」
拍手もポチもありがとうございます。
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コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
「優月君。送るよ。」
大丈夫と言いながら立ちあがったら、ふらついた。泣くのを我慢したのと、理不尽な出来事に腹を立てたせいで頭痛がしていた。
今、きっと酷い顔をしていると思った。羽藤も、よく見れば疲れ切った顔をしている。
優月に関わったせいで・・・きっと何かが起きて、仕事に追われていたのだろう。
「羽藤さん、あの・・・うち、今夜は残り物のカレーなんですけど、食べに来ませんか?ぼくが作ったから、インスタントなんだけどちゃんと飴色玉ねぎ作って煮込むから、美味しいと思います。」
「いいね、カレーか。うん、聞いたら腹が空いてきた。神村食堂まで、飛ばすか。」
「はい。」
*******
車中で話すのは他愛もないことばかりだった。塔矢の日々の出来事を、優月は面白おかしく語った。
「・・・それでね、塔矢は海の中でおしっこがしたくなったのを、必死で我慢したんですって。で、浜辺を必死で走って、やっと見つけたトイレで用を足したら目が覚めたんですって。」
「布団の中だったか。」
「そうなんです。着替えさせている間、ずっと一生懸命話すんです。自分はトイレを探して頑張ったんだって。だから、ぱんつが濡れているのは、仕方のないことだって。」
「そうだなぁ、確かに夢の中で、トイレを探して努力してるよな。」
「ぼく、塔矢を怒れませんでした。惜しかったね~って言いました。」
「可愛いなぁ。」
「はい。何をしても、すごく可愛いんです。お父さんは、もっと厳しくしろって言うんですけど、なかなか怒れなくって。」
優月の話を、羽藤は時折声を上げて笑いながら、楽しそうに聞いた。
父と弟は、まだ入院中の母親の所にいるのだろうか。家の明かりが点いていないのがどこか寒々しく、羽藤が一緒で良かったと思う。
いつも塔矢と帰宅するから、優月はずっと嫌いだった誰もいない家のよそよそしさを忘れていた。母と二人で暮らしていた頃、家にテレビがなかったから、優月は静かな部屋で長い時間一人で過ごした。本を読んだり、絵を描いたりするのは好きだったが、小さい頃は冬の夕暮れの急に気温が下がった部屋に入ると孤独に苛まれて泣きそうになった。
母が結婚して、家族を得て一番喜んだのは塔矢よりも優月だったかもしれない。
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優月が手慣れた様子で冷蔵庫から鍋を取り出し、家事をするのを羽藤は見つめていた。視線に気づいて振り返った優月に声を掛けた。
「ずいぶん、手際がいいな。うまいもんだ。」
「毎日やってるから自然に慣れただけです。」
ざくざくと水菜を切り、細切りのハムと混ぜた。くし型に切ったトマトと和える。タイマーの音で、ゆで卵の火を止めた。
「うまいな、これ。」
「そう・・・?良かった~!」
心配そうに、羽藤がカレーを口に運ぶのをじっと見つめて居た優月が、感想に安堵する。
「お代わりもらったら、後がなくなるかな?」
「大丈夫です。本当の事言うと、作りすぎてたから。塔矢とお父さんには、カレーリゾット作りましたから遠慮しないでお代わりしてください。」
「カレーリゾット・・・って?」
「スープで残りご飯を炊いて、カレーを混ぜてチーズを乗せて焼くだけ。手抜き料理も得意です。」
優月は、はにかんだ笑顔を向けた。
「優月君!」
「はい!」
不意に真面目な顔を向けられて、何事か身構える。
「それ、少しでいいから食わせて。」
優月はぷっと吹き出し、何を言うのかと思ったと笑った。束の間の和やかな時間、羽藤も変わらなく見えた。
優月の心は決まっていた。
(〃▽〃)「カレーはジャガイモを入れない、お豆とキノコとお肉のカレーです。煮込み時間が少しで済みます。」
(`・ω・´) 「うまいよ、優月くん!」
(*⌒▽⌒*)♪「よかった~~♡」
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