星月夜の少年人形 10
はっとつかれたように互いに顔を見合わせた。
「今頃、誰かな・・・?」と言いながら、立ちあがる羽藤を優月は不安げに見上げていた。
そして電話の主はこういった。
「羽藤さんですか?お買い求めになったマンションに、居住権を盾に居座ってる輩がいるみたいですね?お困りのようですが、今後への打開策は見つかりましたか?」
「あんたは、誰だ・・・?」
「そうそう、もう一つありました。二重抵当に入った物件を掴まされたと、お聞きしています。そちらの方も大丈夫でしょうか?巧妙に転売されたものらしいじゃないですか。」
誰だと繰り返す羽藤に、不穏なものを感じて優月は傍に寄った。話中の羽藤は穏やかな男だったが、次第に口調が荒くなってゆく。
「うちで抱えていた茨木をお雇い下さったそうで、ありがとうございます。感謝しておりますよ。優秀な社員はどこにいても良い仕事をしますから、あなたのところでも、きっといい仕事をしているでしょうねぇ。」
「・・・くっそ、茨木か!」
中途採用で雇い入れた、茨木という男は驚くほど優秀だった。今抱えている困った事態が茨木の手によって引き起こされたものと知り、採用した自分に腹が立つ。だが、一体何のために送り込まれてきたのかが理解できない。この小さな会社を、どうこうしようとする相手の真意をはかりかねていた。
「そこに、土光優月さんはいらっしゃいますか?」
「土光・・・?」
振り返ると、優月は蒼白で引きつった顔を向けていた。「土光」という名が全ての元凶なのだと理解していた。
「優月君。君に・・・?君の知り合い・・・なのか?」
受話器を受け取った優月の耳に、聞き覚えのある低い声が流れてきた。
「そちらにいらっしゃったんですか?お父様の会社も、この不況のあおりで色々なことが起こっているようで、大変ですね。」
「羽藤さんの会社に、何をしたんです!ぼくとは何の関係もないのに?何で、羽藤さんまで苦しめるんだ!」
激昂する優月に相手はあくまで冷静だった。電話口で、ふふっと鼻先で笑われたような気がする。
「お会いしたときに、わたしはちゃんと説明したはずですがね。やれやれ・・・、もう少し頭のいい子供だと思っていたんですがね。では、もう一度繰り返しますから、今度こそ頭に入れてください。
『いいですか?これから、優月さんの周囲で起こる悪しきことは、すべて土光財閥の息のかかったことと認識してください。優月さんの決心が、全てを好転させる鍵になります。助けてあげたいと思ったら、迷わず私のところへ電話を入れてください。』・・・わたしは、そう言いました。後はお分かりですね?」
「では、良いお返事をお待ちしています。・・・あ、そうだ。お傍にいる社長さんにお伝えください。近日中に、取引銀行から融資中止の連絡が入ると思います。会社が潰れないように頑張ってください。では・・・。」
電話を切ろうとする相手に、優月は待ってと叫んだ。
「おや・・・。決心が付きましたか?」
「いえ。そ・・・それは・・・。でも・・・。そんな事をされたら!」
「自分の主張を並べるのは結構ですが、大人の世界では通用しません。物事を動かすにはそれなりの『対価』が必要だと覚えておくことですね。では、良いお返事をお待ちしております。」
優月は受話器を握り締め、その場に膝をついた。
追い詰められていた。
ヾ(。`Д´。)ノ 「くそ~~~~!八方ふさがり~~!」←優月
(°∇°;) 「か…会社が、やばす~・・・」←羽藤
( -ω-)y─┛~~~~「早く、決心固めてね~。」←弁護士
拍手もポチもありがとうございます。
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コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
「今頃、誰かな・・・?」と言いながら、立ちあがる羽藤を優月は不安げに見上げていた。
そして電話の主はこういった。
「羽藤さんですか?お買い求めになったマンションに、居住権を盾に居座ってる輩がいるみたいですね?お困りのようですが、今後への打開策は見つかりましたか?」
「あんたは、誰だ・・・?」
「そうそう、もう一つありました。二重抵当に入った物件を掴まされたと、お聞きしています。そちらの方も大丈夫でしょうか?巧妙に転売されたものらしいじゃないですか。」
誰だと繰り返す羽藤に、不穏なものを感じて優月は傍に寄った。話中の羽藤は穏やかな男だったが、次第に口調が荒くなってゆく。
「うちで抱えていた茨木をお雇い下さったそうで、ありがとうございます。感謝しておりますよ。優秀な社員はどこにいても良い仕事をしますから、あなたのところでも、きっといい仕事をしているでしょうねぇ。」
「・・・くっそ、茨木か!」
中途採用で雇い入れた、茨木という男は驚くほど優秀だった。今抱えている困った事態が茨木の手によって引き起こされたものと知り、採用した自分に腹が立つ。だが、一体何のために送り込まれてきたのかが理解できない。この小さな会社を、どうこうしようとする相手の真意をはかりかねていた。
「そこに、土光優月さんはいらっしゃいますか?」
「土光・・・?」
振り返ると、優月は蒼白で引きつった顔を向けていた。「土光」という名が全ての元凶なのだと理解していた。
「優月君。君に・・・?君の知り合い・・・なのか?」
受話器を受け取った優月の耳に、聞き覚えのある低い声が流れてきた。
「そちらにいらっしゃったんですか?お父様の会社も、この不況のあおりで色々なことが起こっているようで、大変ですね。」
「羽藤さんの会社に、何をしたんです!ぼくとは何の関係もないのに?何で、羽藤さんまで苦しめるんだ!」
激昂する優月に相手はあくまで冷静だった。電話口で、ふふっと鼻先で笑われたような気がする。
「お会いしたときに、わたしはちゃんと説明したはずですがね。やれやれ・・・、もう少し頭のいい子供だと思っていたんですがね。では、もう一度繰り返しますから、今度こそ頭に入れてください。
『いいですか?これから、優月さんの周囲で起こる悪しきことは、すべて土光財閥の息のかかったことと認識してください。優月さんの決心が、全てを好転させる鍵になります。助けてあげたいと思ったら、迷わず私のところへ電話を入れてください。』・・・わたしは、そう言いました。後はお分かりですね?」
「では、良いお返事をお待ちしています。・・・あ、そうだ。お傍にいる社長さんにお伝えください。近日中に、取引銀行から融資中止の連絡が入ると思います。会社が潰れないように頑張ってください。では・・・。」
電話を切ろうとする相手に、優月は待ってと叫んだ。
「おや・・・。決心が付きましたか?」
「いえ。そ・・・それは・・・。でも・・・。そんな事をされたら!」
「自分の主張を並べるのは結構ですが、大人の世界では通用しません。物事を動かすにはそれなりの『対価』が必要だと覚えておくことですね。では、良いお返事をお待ちしております。」
優月は受話器を握り締め、その場に膝をついた。
追い詰められていた。
ヾ(。`Д´。)ノ 「くそ~~~~!八方ふさがり~~!」←優月
(°∇°;) 「か…会社が、やばす~・・・」←羽藤
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