星月夜の少年人形 8
羽藤に会えると思っただけで、顔が緩むのが自分でも笑えて来る。
不動産を扱う会社と言っても色々あるが、羽藤の会社では、建築年数が経った物をうまくリメイクしたり、理由あって手放したマンションを丸ごと一棟買い取って再び格安で販売したりしていた。優月の父親が入社したころは、普通の不動産業を営んでいたらしいが、社長が代替わりしてから仕事が面白くなったと父が嬉しそうに話していたことがある。
不況の折りに、新社長の目の付け所が良かったせいかどうか、業績は右肩上がりに伸びているんだと父が自慢げに話をしていた。
慌ただしい人の出入りに、優月は会社の前で足を止めた。
以前にはそんな風景を見たことがなかった。見るからに胡散臭い輩が出入りしている。
「何かあったのかな、羽藤さん・・・。」
そっと近づくと、室内では人相の悪い男が羽藤を取り囲み、言い合っているようだった。
やがて、羽藤を取り囲んだまま、数人の男が出て来た。
どんと、羽藤の肩をこづきドアに押し付ける。
「あっ、羽藤さん!」
思わず予期せぬ声が出た。
いつもきちんと整えた髪が乱れ、額にかかっていた。
青ざめた顔の羽藤は、優月に気付くと何事も無かったように手を上げた。
羽藤に何事か告げると、男たちはドアを蹴り上げ優月を威嚇するようにして、去って行った。
力なく座り込んだ羽藤の元へ優月は駆け寄った。
「羽藤さん!大丈夫?あっ・・・」
羽藤の口元に、血が滲んだのを認め思わず手を伸ばした。
「血が出てる…いったい何が有ったの、羽藤さん・・・?」
慌ててポケットを探ってティシュを見つけ、傷を抑えた。抑えた優月の手の上に、羽藤の手が重なった。
「優月君には見られたくなかったなぁ・・・。突然というか、とんだトラブルに巻き込まれてしまってね。あんな輩が絡んでいるとは、思いもしなかったよ。今回の事は、ぼくの失態だな。」
立ち上がって優月の知る笑顔を浮かべた羽藤は、倒れた椅子を起しどっと腰を落とした。
*******
羽藤はいずれ、父親から話を聞くだろうからと言って、事の顛末を話してくれた。
最近手に入れた都内のマンションが、ありえないほど安価だったこと。
中途採用の社員が見つけてきた物件は、これまで長く不動産を扱ってきたがその中でも羽藤が驚くほどの出物だった。
「普段ならすぐに飛びつくようなことはなかったんだが、余りに良い話だったんでちょっと、我を忘れてしまったな。」
「さっきの人たちが、絡んでいたってこと。」
「そうだよ。優月君は悪い大人に騙されないようにするんだよ。」
優月に向けて微笑む顔が余りに優しかったので、優月は我慢できなくなった。抱え込んできた暗い気持ちが羽藤の笑顔で突然、浮上してしまった。
光を求めてここまで歩いてきたのだと、不意に思い出してしまった。
ほろ…と、頬を涙が転がった。
「優月君・・・?」
一度零れてしまえば、もうどうしようもなく・・・堰を切ったように嗚咽も喉元から溢れてきて優月はその場でしゃくりあげた。
「ご・・・ごめんなさい。ぼく、話を聞いてもらうつもりで…でも、羽藤さんが大変で、何だか安心したのと不安なのと、ごちゃごちゃ・・・・ううーーーーっ・・・」
一人で抱え込むには、大きすぎた。
(´;ω;`) お、遅くなってしまいました・・・。ストックがないと時間厳守できません。
ごめんね・・・て、いうか・・・エチは・・・?
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。「それどころじゃないわ~~い!」←優月
(〃ー〃) 「ちょっと、様子見です。」←羽藤
拍手もポチもありがとうございます。
励みになりますので、応援よろしくお願いします。
コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
- 関連記事
-
- 星月夜の少年人形 15 (2011/05/25)
- 星月夜の少年人形 14 (2011/05/24)
- 星月夜の少年人形 13 (2011/05/23)
- 星月夜の少年人形 12 (2011/05/22)
- 星月夜の少年人形 11 (2011/05/21)
- 星月夜の少年人形 10 (2011/05/20)
- 星月夜の少年人形 9 (2011/05/19)
- 星月夜の少年人形 8 (2011/05/18)
- 星月夜の少年人形 7 (2011/05/17)
- 星月夜の少年人形 6 (2011/05/16)
- 星月夜の少年人形 5 (2011/05/15)
- 星月夜の少年人形 4 (2011/05/14)
- 星月夜の少年人形 3 (2011/05/13)
- 星月夜の少年人形 2 (2011/05/12)
- 星月夜の少年人形 1 (2011/05/11)