星月夜の少年人形 7
長い間暮らしたわけではないが、やっと家族になったと最近思えるようになっていた。
だが、優月の意見など、彼らの前には病葉の一枚にも匹敵しない。数時間後、優月はある決心を告げるために、自ら顧問弁護士に電話を掛けることになる。
彼らの手で優月の外堀は完璧に埋められて、残された天守閣は無残に陥落するしかなかった。
ひとしきりの長い話が済んだあと、「ひとまず帰りますが、これは直通電話ですので何かあった際には、こちらに連絡をお願いします。」と、名刺を渡され、優月は受け取った。
名刺を受取っただけで、しんと手のひらが冷えた気がする。
細い目が、爬虫類を思い出させた。
「良いお返事をお待ちしていますから。」
「失礼します。」
優月は学校帰りに母の病院へ出かけ、話をしてみようと思った。あまりにもわからないことが多すぎた。
ドアの前で、ふと思いついたように顧問弁護士は振り返った。
「いいですか?これから、優月さんの周囲で起こる悪しきことは、すべて土光財閥の息のかかったことと認識してください。優月さんの決心が、全てを好転させる鍵になります。助けてあげたいと思ったら、迷わず私のところへ電話を入れてください。」
「それは、どういう事ですか?僕はただの高校生で、そんな大企業の相続とか、後継者なんて話を聞かせられても断るしかないです。ぼくは・・・、今の生活を守りたいだけです。」
弁護士の銀縁メガネが光る。
「いつか、あの選択は正しかったと思える日が来るでしょう。ああ、高校の編入試験は必要ないそうですから、勉強のご準備は要りません。では。」
「高校を変わるつもりはありません!」
悲鳴のような優月の声を、ドアが遮った。
しばらく、その場に呆然とたたずんでいた優月を、授業開始のチャイムが現実に引き戻した。ポケットの中にある、財布のカード入れにもらった名刺を入れようとして、優月は躊躇する。
羽藤にもらった名刺と同じ場所に入れたくないと思った。一方的に、まくし立てて帰ってゆく顧問弁護士という男に一片の反論もできなかった。
優月は、年相応にあまりに無力だった。
*******
昼休み、屋上で優月は羽藤にもらった名刺を眺めていた。
『優月君。困ったことがあったら、遠慮なく言っておいで。』
そう言って柔和に微笑んだ羽藤に、今回の事を相談してみようか…羽藤さんなら、家の事情も良く知っているし・・・と、しばらく悩んだ末に番号を押してみた。
「はい。羽藤です。」
「あの・・・神村優月です。今、大丈夫ですか?」
「ああ、優月君。」
電話の向こうでは、何やら忙しなく会話が行き交っていて思わず掛けるのではなかったと後悔する。
「すみません、お仕事中に。また、掛け直します。あの…大した用事じゃありませんから。本当にごめんなさい。」
「ああ、ちょっと待って、優月君。帰りにこっちに寄ってくれないか?一緒に話をしよう。神村さんに早く帰ってもらうようにするから、塔矢くんの事なら心配いらないからね。いいね、必ず会社に寄って。」
「はい。じゃあ、学校の帰りに寄らせてもらいます。」
羽藤の声を聞いて、優月はほっとしていた。じんわりと耳元から身体に優しい声が染み通る気がする。
誰にも告げたことの無い、優月の深く内側に沈められた想い。
12も年の離れた羽藤が、優月は好きだった。
ヾ(。`Д´。)ノ 「この作品の,どこがアダルトやね~ん!」
ψ(=ФωФ)ψ 「それは、これからだよ優月くん・・・うふふ・・・」
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