星月夜の少年人形 9
その場に膝を抱えた優月を、羽藤がそっとソファに誘(いざな)って座らせてくれた。
小さな子供のように涙が止まらなくなってしまった優月の頭を、あやすように撫でてくれる。
うんと小さなころに、誰かに長い時間そうされていたように思う。
父に抱くものとは違う安心感に包まれて、優月はやっと顔を上げた。
「すみません。何か、子供みたいに泣いてしまった…。恥ずかしい。」
「いいさ。いつも冷静で我慢強い優月君が年相応に見えて、周囲の大人としてはちょっと安心したよ。…何が、あったの?」
どこから話せばいいのか、優月にはわからなかった。羽藤の口の端にこびりついた血の跡の理由も聞きたかった。
優しい羽藤の視線に押されるようにして、優月は話し始めた。
「あの・・・母方の祖父が、ぼくを引き取りたいって言って来たんです。大きな事業をしている人で、なんでも社長って人が、母の兄さんらしいです。それでその人が倒れちゃったから後継者が必要になったって・・・。」
「そうか、それはまた、難儀な問題だなぁ。」と、羽藤がさり気なく話を促した。
「急にそんな話を聞かされても、ぼくは今の生活が大切だし・・・お断りしたかったんですけど、そんなに簡単なことじゃないと弁護士さんに言われてしまって、どうしたらいいのかなって・・・。」
「うん。それが優月君の涙の理由なんだね。相談する人がいなかったか・・・?」
こく…と頷いたら、つっと一筋、涙が流れ落ちた。羽藤が手を伸ばして優月を胸元に抱え、ぽんぽんと背中を叩いた。
なさぬ仲の父に話すべきかどうかも悩んでいたのだろう。多感な時期に母が再婚し、今も入院中で、きっとこの子は心細さに押し潰されそうになって羽藤に電話を掛けてきた。
弟の世話や日々の家事の多忙に追われながら、同級生たちと同じ様に出来ない不満を漏らすことなく義弟の手を曳いた。
「ぼくに、相談してくれてうれしいよ。何の役にも立たないかもしれないけれど、話すことでほんの少しでも優月君が楽になるのなら、ぼくは力になりたいと思う。」
「羽藤さん・・・。ありがとう。でも、羽藤さんの方も・・・ここ、殴られたんでしょう?」
おずおずと口元に手で触れた優月を、羽藤はもう一度抱きしめた。
誰かの人生を変える決断を簡単に口にはできなかったが、羽藤には全てわかっていた。
事務所に押し入った不逞の輩は、優月を見て顔色を変えた。優月の義父が、自分の会社で働いていることも関係するのかもしれない。
羽藤の胸に浮かんだ、全ての疑問を肯定する電話が鳴った。
「お~ほっほほ~・・・」ψ(=ФωФ)ψ←定着
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