星月夜の少年人形 12
「兄ちゃ~~ん!ただいま~~。」
「お帰り、塔矢。すぐご飯にする?」
「う~~ん。ママも一緒に、帰ってきた~~。」
「え、本当?」
トイレ以外絶対安静というを条件に、週末だけ一時帰宅してもいいと言われたそうだ。8か月になる母のお腹は大分ふくらみが目立つ。
「あ、ぼく・・・ベッド直してくる。」
「いいよ、それくらい・・・社長!?」
キッチンでカレーリゾットを間食した羽藤が神村に向かって手を上げた。
「神村さんの留守の間に、ご馳走になってました。いいなぁ、いつもこんなうまいもの食ってるんですか。時々でいいから、優月君貸してくれないかなぁ。」
神村は、こちらも手慣れた風に三人分のカレーリゾットをよそうと、リビングへと運んだ。ソファに移動して男二人が、語り合っていた。
優月は、父と母、塔矢と羽藤をキッチンからじっと見つめていた。大好きな人が集うこの幸福な光景を決して忘れないように、焼き付けておこうと思った。
*******
家から少し離れたところに、空き地がある。帰る羽藤を送って、優月は車のところまで来ていた。
「今日はご馳走さま、優月君。すごくおいしかった。」
お粗末さまでしたと、優月は笑った。夜風に花の香が混じる。
優月は思い切って口にした。
「あのね・・・、羽藤さん。」
「うん・・・?」
「ぼくね、ずっと言えなかったことがあるんだ。」
二人きりで羽藤と話をするのは、これできっと最後になる・・・と、優月は思っていた。もう、優月の選ぶ道は一本しかなく、決心を固めた頬は紅潮していた。怖いものは、何もない。
「自分でも、こんなのおかしいと知っているし、変だって思ったこともあるんだ。だけど・・・あのね・・・ぼく、羽藤さんの・・・こと・・・。あの・・・。」
伝えたかった言葉が喉元でせき止められたように出て来ない。羽藤は、ごくりと喉を鳴らしたきりうつむいてしまった優月の傍に寄った。何でも無いように、自然に優月の欲しかった言葉を口にした。
「俺はね、優月君のことが好きだよ。」
「え・・・?」
「たぶん君のご両親の結婚式で、周囲に気を使った君が一生懸命、挨拶をしてる姿を見た時だな。多感な時期に、思うところもあるだろうにと思ってね、以来、ずっと気になって君を見てきた。」
高く激しい心音が、羽藤に聞こえてしまうのではないかと思う。涙で滲んだ優月が羽藤を見上げると優しい顔がそこにあった。
「一回りも違うこんなおっさんが、君みたいに若くて綺麗な子に好きだとは言えなかったんだ。俺は、自惚れても良いんだろうか?」
「・・・お嫁さんにはなれないけど・・・。」
「そんなのは、呼び名だけだ。ああ、どうしよう・・・年甲斐もなく、すごくうれしいよ。」
「羽藤さん。ぼくも・・・。」
羽藤は大人しい優月の告白の不思議に気が付くべきだったと、後悔することになる。幸せな展開に少年のようにはしゃぐ羽藤に、優月は大胆に足を進めた。
とんと・・・羽藤の胸に頭を預けた優月が、光る瞳を上げた。
そっと柔らかな薔薇色の頬を、両手で包み込んだ羽藤の顔が優月に重なった。
唇に落ちる羽藤の愛情を感じながら、静かに優月は泣いていた。
やがて、思いつめた顔を上げると、優月は掠れた声でやっと口にした。
「羽藤さん。ね、今夜、一緒に居てもいいかな・・・?」
羽藤は腕の中に舞い降りた天使が逃げ出さないように、捕まえた腕に力を込めた。
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