びいどろ時舟 28
「でもね、花魁。・・・病気が怖く有りませんか?あれは、うつるっていうじゃ有りませんか。あっしは、死病は怖いですよ。」
ふふ・・・と、花が綻ぶ。
「新さん。ちょいと、よろしゅうございんすかぇ・・・?」
つと側に寄ると、千歳はやにわに、その白い指で胸をくつろげると、驚く新の頭を引き寄せた。
椀を伏せたような豊かな柔らかい乳房の上に、そっと直に温もりが伝わるようにかき抱いた。
新はといえば、言葉を失って千歳花魁のなすがままに、胸に抱かれていた。
「新さん。どなたでも彼岸に行くのは、怖いんでありんす。それは、わっちとて皆同じでありんす。けれど・・・。」
甘い香りが、鼻腔に広がる。
「恋しい主さん・・・先に行って待っててくださいなぁ・・わっちも、いずれお側に参りんす。」
耳朶に甘く、花魁の言葉が甘い花片のように降って来る。
「こなたの世では、しばしお別れいたしんすけれど・・・。 主さん、わっちの胸で、ゆっくりおやすみなんし・・・。」
思わず、新は深く息を吸った・・・ この世で死に別れても、向こうで会えると信じてる 、この花魁の死生観はどこから来たものなんだろう。
信じられないほど、新は安らかな気持ちになっていた。
「あっしの・・・先に死んじまった親にも、向こうで会えますかね?」
新の頭を胸に抱きしめたまま、千歳花魁はこういった。
「あい。いつか、巡り会いんす。それが、こなたの世で出来んした「ご縁」というものでございんすよ。 」
時空の管理官のシンは、ためらいなく言い切った千歳花魁の言葉に、胸を揺さぶられていた。
「弥勒菩薩のようだと、皆様がおっしゃるのが分かる気がしますねぇ、花魁。」
「あっしも言葉一つに包まれて、思わず極楽浄土に運ばれて、気をやっちまいそうでしたよ。」
これも、確かに一つの花だと思った。
どこか、深いところが洗われるように救われてゆくような気がする。
「あちらの国では、菩薩をマリア様といわすらしいでありんすぇ。 」
性を売りながら、聖なる笑顔で艶然と微笑み、その手で人々を救う・・・シンは、紛れもない聖女の姿を見た気がした。
聖人の愛したマグラダのマリア、あれも娼婦ではなかったか。
「「抱く」と皆様、おっしゃいんすが、遊女の「抱く」にも色々有りんす。わっちは何より、情を大事に致しんす。本心よりわっちをお望みならば、わっちには不思議と分かるのでありんす。」
「それは、どんなふうに?」
「あい。胸の深いところで、真実の紅い花の咲いた心持が致しんす。」
千歳花魁の言う、真実(まこと)の花と言う言葉に、新は惹かれた。
「わっちは幸い、身体を売る境遇ではございんせんゆえ、身体を繋ぐよりも、主さんの寂しい心を慰める女子でありたいと、願っておりんすよ。」
「鏡がわっちの替わりに床入りして、異人さんが安らかにあの世へいけたことがうれしいのでありんすぇ。 どうやら少うし、鏡には可哀想なことをしんしたけれど・・・ねぇ。」
慈愛にあふれる聖女の眼差しに癒されて、シンは深い心のうちに刺さった冷たい棘が 解けてゆくのを感じていた。
「花魁・・・」
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ふふ・・・と、花が綻ぶ。
「新さん。ちょいと、よろしゅうございんすかぇ・・・?」
つと側に寄ると、千歳はやにわに、その白い指で胸をくつろげると、驚く新の頭を引き寄せた。
椀を伏せたような豊かな柔らかい乳房の上に、そっと直に温もりが伝わるようにかき抱いた。
新はといえば、言葉を失って千歳花魁のなすがままに、胸に抱かれていた。
「新さん。どなたでも彼岸に行くのは、怖いんでありんす。それは、わっちとて皆同じでありんす。けれど・・・。」
甘い香りが、鼻腔に広がる。
「恋しい主さん・・・先に行って待っててくださいなぁ・・わっちも、いずれお側に参りんす。」
耳朶に甘く、花魁の言葉が甘い花片のように降って来る。
「こなたの世では、しばしお別れいたしんすけれど・・・。 主さん、わっちの胸で、ゆっくりおやすみなんし・・・。」
思わず、新は深く息を吸った・・・ この世で死に別れても、向こうで会えると信じてる 、この花魁の死生観はどこから来たものなんだろう。
信じられないほど、新は安らかな気持ちになっていた。
「あっしの・・・先に死んじまった親にも、向こうで会えますかね?」
新の頭を胸に抱きしめたまま、千歳花魁はこういった。
「あい。いつか、巡り会いんす。それが、こなたの世で出来んした「ご縁」というものでございんすよ。 」
時空の管理官のシンは、ためらいなく言い切った千歳花魁の言葉に、胸を揺さぶられていた。
「弥勒菩薩のようだと、皆様がおっしゃるのが分かる気がしますねぇ、花魁。」
「あっしも言葉一つに包まれて、思わず極楽浄土に運ばれて、気をやっちまいそうでしたよ。」
これも、確かに一つの花だと思った。
どこか、深いところが洗われるように救われてゆくような気がする。
「あちらの国では、菩薩をマリア様といわすらしいでありんすぇ。 」
性を売りながら、聖なる笑顔で艶然と微笑み、その手で人々を救う・・・シンは、紛れもない聖女の姿を見た気がした。
聖人の愛したマグラダのマリア、あれも娼婦ではなかったか。
「「抱く」と皆様、おっしゃいんすが、遊女の「抱く」にも色々有りんす。わっちは何より、情を大事に致しんす。本心よりわっちをお望みならば、わっちには不思議と分かるのでありんす。」
「それは、どんなふうに?」
「あい。胸の深いところで、真実の紅い花の咲いた心持が致しんす。」
千歳花魁の言う、真実(まこと)の花と言う言葉に、新は惹かれた。
「わっちは幸い、身体を売る境遇ではございんせんゆえ、身体を繋ぐよりも、主さんの寂しい心を慰める女子でありたいと、願っておりんすよ。」
「鏡がわっちの替わりに床入りして、異人さんが安らかにあの世へいけたことがうれしいのでありんすぇ。 どうやら少うし、鏡には可哀想なことをしんしたけれど・・・ねぇ。」
慈愛にあふれる聖女の眼差しに癒されて、シンは深い心のうちに刺さった冷たい棘が 解けてゆくのを感じていた。
「花魁・・・」
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